再会と試験開始
「姉様あああ~!」
その大きくて通る声が近づいてきたと思ったら横に座っていたネイの前を横切るようにとびかかってきた。黒くて艶のある懐かしい髪が視界に映ってお腹に衝撃が走る。
「姉様の匂いだ……!」
「れ、レイなの?」
結構強い力で抱きしめられていて、ちょっとだけ痛い。
「そうですよ、姉様!」
私とミアの間に押しのけるようにそのまま座ってきて腕をがっちりホールドしてくる。ミアも苦笑いしている。
「お久しぶりです、ミア様、ネイ」
オーバも後から来て、挨拶をしてくれる。
「久しぶり。レイ、オーバ」
「ずっとお会いしたかったです姉様……!」
私の胸にうずめた顔を上げてこちらを見上げてくる。若干涙目になっていて本当にうれしそうだ。
「私もずっと会いたかったわ……」
あの時からそんなに時間は経ってないはずなのにずっと離れていたような感覚になる。相変わらずの美人だ。来ている服も煌びやかで彼女によく似合っている。そんなことを思っている間に彼女は私の胸元で深呼吸をしている。
「姉様の匂いだ……」
「ね、ねぇ……もしかしてこの人が?」
隣からおそるおそる私の肩を叩いてセイラが聞いてくる。若干引いているっぽい。
「あ、紹介するわね。この子はラスティナ・レイリーン。私の大切な妹よ。こっちは彼女の従者のオーバ」
「セ、セイラです。よろしくお願いします」
「セイラさん。よろしくお願いします」
「よろしくね、セイラちゃん!」
どうやらファーストコンタクトは成功のようだ。
「すごい美人さんだね……レイさん」
「でしょう?自慢の妹よ」
「ありがと、セイラちゃん!」
暫く抱きついたところで、ようやっと満足したのか私とネイの間にちょこんと座る。ずっと腕は絡められたままだが。
「今日から一緒に寝ましょうね、姉様」
「良いわね」
「姉様は今どこに暮らしているのですか?」
「父様の用意してくれたところに住んでいるわ。寮に入れるようになったらそっちに移動するつもりだけれど」
「じゃあ、今日は姉様のお住まいに行きますね」
「あー……わかったわ」
さらに狭くなってしまうけれど多分大丈夫だろう。レイと一緒に寝たいので多少の無理は我慢しよう。
「それと、あのセイラさんはどういう関係なのですか?姉様」
「私の友達で、学院にいる時は従者として一緒にいるわ」
「なるほど……」
暫くすると席もだいぶ埋まってきて、教師のような格好の人間が壇上に上がってくる。
「今から順に身体測定をして行くから、男は左の扉から、女は右の扉から出るように」
一斉に皆が席を立ってそちらに歩いていく。正直順番はどうでもいいからゆっくり行くことにする。どうせ皆時間がかかるのだ。
数分ほど経って列が短くなったので扉の方まで歩いていく。従者を何人も連れているお嬢様が多いこと。人のことを言えたものではないが、一人いれば十分ではないかとも思う。
「お名前をお願いします」
「ラスティナ・ミアリーンです」
「妹のレイリーンです」
受付で名前を照合してもらって、何やらカードのようなものをもらう。どうやら仮の身分証のようなものらしい。
「右手奥にどうぞ」
手で示してくれた先にはカーテンで区切られた着替えスペースがあった。
「なるほど、ここで着替えるのね」
「お手伝いします、ミア様」
「ありがとう」
ネイの手伝いもあってすぐに下着姿になった。ちょっと気合の入った下着を付けてきてしまった。
「なんかちょっと恥ずかしいわね……」
「大丈夫ですよ姉様!」
後ろから同じく下着姿のレイが抱きついてきた。体温と体の柔らかさが直に伝わってくる。この子、少し見ない間にまたちょっと成長したのではないか。
「ほらほら行きましょう姉様!」
そのまま流れるように私の手を取って先に進んでいく。身長から始まりスリーサイズを測られたり、足のサイズを測られたり、軽い触診をされた。元いた世界の身体測定と違って体重や視力検査のようなものはなかった。
「ミアって肌綺麗だよね……」
身体測定が終わって着替えなおしている途中にセイラがボソッと呟いた。
「あなただって綺麗じゃないの」
「いやミアのは別格だよ」
そんなに違うものだろうか。
「姉様の肌ってすべすべしててさわり心地もいいんですよね」
そう言っていきなり背中からお尻のラインを撫でてくるレイ。
「ちょっとレイ……!」
「なんか前に会った時よりも体のライン綺麗になりましたね姉様」
まじまじと見つめられると妹とは言え恥ずかしい。さっさとネイに服を着せてもらおう。
「もう……!ネイ、早く着させて!」
「はい、ミア様」
「レイもさっさと着替えて次行くわよ!」
「は~い」
最初にいた講堂に戻ると、次はどうやら第一戦闘試験らしい。学院の先生と戦って実力を見られるらしい。
「姉様、見ていてくださいね。私もっと強くなったんですから」
「本当?しっかり見ておくわね」
そう言えば彼女の剣が新しくなっている。装飾を抑えた実用性重視の剣だ。
「では第一戦闘試験の方はこちらへ」
壇上でそう言われたので、30人くらいが移動し始める。私達も移動しなければ。
他の場所で何やら戦闘をしているような音も聞こえるが、演習場のようなところに案内される。
「では、これより第一戦闘試験を始める。やることは簡単だ。一人ずつ私と相手をする。それだけだ」
そう言うのは細身の剣を腰に刺した女性だ。割とざっくり説明をしたと思ったら早速生徒の名前を呼んでいた。
「まずは君からだ」
名前を呼ばれた彼は華美な装飾のついた剣を抜いて構える。笛の音と同時にスタートの様で、気合いの入った斬撃を繰り出す。