ヴェルーナへ
見慣れた景色がゆっくりと進んでいく。
このまま予定通りいくとミリスタというカーンよりは小さい町を経由しつつ王都ヴェルーナへ向かう。ゆっくり行くので数日はかかるだろう。
「こうやってみんな揃って出かけるのって初めてじゃない?ミア」
「かしらね……」
思い出してみてもこんな大人数で移動すること自体が数えるほどしかない。
「あ、でも私達出会った時はこんな感じだったね」
「そういえば、そうね。あの人たち元気にしているのかしら」
忌々しいあの任務以来会っていない。多分元気にやっているとは思うが一言くらい挨拶をしておけばよかった。
「挨拶でもしておけばよかったわね」
「また会えるし大丈夫大丈夫!」
「それを言えばそうだけど」
まぁ出発してしまったし今更戻るわけにもいくまい。いつかどこかで会うのを期待するか。
数時間は進んだだろうか、本当にこの道は人の往来が多い。この国の大動脈なのだから当たり前ではあるのだが人の列物の列が途切れることがない。畑のようなものも所々で眺める事ができたが、それと同じくらい休憩所やちょっとした店屋が発展している。
「なんか美味しいもの多くてついつい立ち寄りたくなっちゃうな……」
「もう少し我慢しなさい。ミリスタについたらなんか食べれるから」
「あとどれくらい……?」
「半分は越えてるはずだしそう長くはないと思うわ」
「お腹減ったぁ~!」
駄々っ子か。仕方ないので常に持ち歩いている保存食を渡す。
「良いの!?ミア!」
「ええ。どうせ街が近いから使う用なんてないでしょうしね」
保存食だし持っておいてもいいのだが、駄々っ子を静めるついでにミリスタで新しいものに交換しておきたい。
そして、段々と街の様子が見えてくる。カーンには及ばずともなかなかの規模を誇る都市だ。
「ここもなかなか大きい町だなぁ」
「ネイ、今日の宿泊地を適当に探してもらえないかしら」
「かしこまりました、ミア様」
「その後、セイラたち連れて何か食べるものでも探しに行きましょう」
「やったぁ~!」
大通りを進んでいると左右にたくさんの宿屋が主張している。ちょっと高級感の漂うホテルの目の前に馬車を止めてネイが中に入っていく。
「何か美味しそうなものはあった?」
「あった!」
「じゃあ後でそこに行きましょうか」
その晩は結局、食べきれないくらいご飯を食べた。右を見ても左を見てもおいしそうな物しかなくてセイラが次々と買って行くのだ。実際美味しかったので文句はないがもう少し加減と言うものを知ってほしい。
翌朝、まだ人の通りも少ないころミリスタを出発した。今日中にヴェルーナに入ってしまいたい。眠そうな約二名を連れて簡単な朝ごはんを食べながら景色を眺める。
「セイラ?ご飯食べるか寝るかどっちかにしなさいよ。行儀が悪いわよ」
「んぁ……食べるぅ」
そう言ってもぐもぐと食べ始める。姉妹とも同じ動きで食べているのが何と言うかかわいらしい。
「ミア様、微笑ましいですね」
「ええ。そうね」
操縦はイナに任せたのでネイが今日はこちらで私の隣にいる。
「早くヴェルーナに行きたいですね」
「……そうね」
早く着いてもすぐにレイに会える訳ではない。だが、今まで離れ離れでいたのがあと一歩のところまで来ているのだ。気がはやってしまう。落ち着かせないと。
「レイ様も出発されたのですよね」
「ええ。そう聞いているわ」
イオナ達に実家を見張ってもらっているので同行は大体わかっている。と言うかいざという時のために遠巻きに何人か自動人形がついていっている。彼女たちがいれば安心だ。少なくとも実家の護衛よりは頼りになる。
「初めてこれだけ分かれて行動されましたね。さらに美しくなってらっしゃるのでしょうね」
「私のことを忘れていないといいけれど……」
思わず弱音が出てしまう。
「まさか、そんなことはないですよ」
「……ええ、そうよね。大好きな妹を疑うなんてよくないわね」
そんな話をしながらさらに数時間進む。馬車の揺れにもだいぶ慣れてきた頃、大分遠くに巨大な都市が見えてくる。
「おお~!あれがヴェルーナ?」
「そうよ」
やっと見えてきた。この調子なら日が昇りきって少ししたくらいに着くことができそうだ。
「昨日の比じゃないくらい美味しいものがたくさんあるから、考えて買ってちょうだいよ?」
「分かってる分かってる~」
本当にわかっているのだろうか。
そうこうしているうちに検問のようなものを抜けて都市の中に入る。
「イナ、この場所まで行ってもらえる?」
「かしこまりました」
実は父の用意してくれた部屋に行ったことがないのでどのような場所にあるのかほとんど知らないのだ。場所的に大通りには面しているらしいが……とりあえず便利だと嬉しい。
「多分そんなに街をめぐる機会はないから明日当たり街歩きでもしましょうか」
「やったぁ~!」
「では、その用意も致しますね」
「用意って……。別に特別な事じゃないんだから」
「いえいえミア様。しっかりとおめかしをしていただきますからね」
「ここ?今日のお宿」
「ええ。そのはずよ」
目の前には貴族が住んでいてもおかしくないくらい立派な別荘みたいな建物が立っている。
「……庭付き?」
「おかしいわね。一軒家ではない気がするのだけど」
「マスター。どうやらきちんと中で分かれているようです」
中を見てきてくれたイナがそう言ってくれる。
「なるほど……じゃあとりあえず部屋に行きましょうか」