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出発前

「あ、ミアリーンさん」

クランに報酬を受け取りに行くといつもの受付嬢がこちらを見て手を振ってくれる。

「お久しぶりです」

「今日もお仕事確認ですか?それとも報酬の受け取りですか?」

「先日の護衛任務の報酬を受け取りに来たのだけれど」

「少々お待ちくださいね。確認してきます」

パタパタと裏に確認をしに行く。今日から先、暫く来ることはないのだろうなと考えて待合室を眺めるとほんの少し寂しさを感じる。

「ミア様?どうかなさいましたか?」

「ううん。ちょっとね」

大分この雰囲気にも慣れてしまったが、学院に行ったらガラッと雰囲気が変わってしまうのだろう。また一から慣れなければいけないのが少し嫌だ。

「暫くここにも来ないと思うと不思議な気持ちになるわね」

「ここに来てから結構生活が変わりましたものね」

「セイラにも会えたしね」

当の彼女は別の冒険者と和気あいあいと話している。相変わらずコミュ力の高い娘だ。うらやましい。

「ミアリーンさん!お待たせしました」

暫くして書類を持った受付嬢が戻って来る。

「ミアリーンさんの受けた任務の報酬は確かに渡されていますので、こちらの書類に必要事項を書いていただきます」

そう言って目の前に書類がニ、三枚置かれる。それぞれに目を通してサインなどを書き込む。

「……はい。確かに記入されましたので、こちら報酬になります」

書類を確認した彼女は少し大きめな袋を渡してくる。受け取ったところ意外な重さがあってふらっとしてしまった。

「一応、中を確認しておいてくださいね。上金貨60枚だそうなので」

こっそりと教えてくれる。上金貨60枚というとだいたい日本円で600万円前後だろうか。大分多めに貰ったものだ。

「では、これからもよろしくお願いしますね、ミアリーンさん」


セイラに声をかけてクランを出る。

「部屋に戻ったらセイラに報酬を渡すわね」

「おっけ~!楽しみにしてるね!」

「今回はいつもより多めだったからいっぱい渡せそう」

「ほんと!?やったぁ~!」

一度にこれだけ報酬をもらえると大分助かる。大人数で引っ越す訳だし何かとお金がかかるものだ。これはどの世界でも変わらないものなのだなと思う。


部屋に戻るとメーシャとイナが二人で軽いティータイムを楽しんでいた。

「メーシャただいま~!」

「お姉ちゃんおかえり!」

相変わらず仲が良くていい姉妹だ。

「セイラ、とりあえず報酬を分けたいと思うのだけれど。いい?」

「ん!もっちろん!」

「上金貨60枚だから、セイラには20枚渡すわね」

「こ、こんなに!?」

一応ちゃんと60枚あるかを確認して、彼女に渡す。

「流石ロベリア様ね。予想以上に報酬を頂けたわ」

「こんなにいっぱい貰うとびっくりしちゃうね……」

「慌てて使うこともないのだし、とりあえず貯めて置いたら?」

「そ、そうする」

当然と言えば当然だが、いつもの任務はこれに比べたらもっとつつましい報酬なので困るのもまぁ無理はない。

「そうだ、ヴェルーナに行く用意はちゃんとできてる?」

「ん?それはできてるよ!あんまり荷物多くないしね」

ポンポンとベッドの上の荷物を軽くたたく。

「なら良かった」

「でも、王都に行くの初めてだからすっごい楽しみ!」

「そうなの?」

「行く用事もなかったからね。ミアは貴族だったからやっぱりよく行ってたの?」

「そこまで頻繁ではなかったけれど行ったことはあるわね」

「うらやましいなぁ~」

「ここだって大きい都市だしそんなに変わらないわよ?確かに珍しいものも普通手に入らないものも手に入りやすいけど……」

「美味しい食べ物ある!?」

大分食い気味に聞いてくる。

「も、もちろんあるわよ」

「じゃあ、一緒に食べに行こ?ミア!」

「え、ええ。楽しみにしているわ」

こんなに楽しみにされると、下手なところには連れていけない。事前に調べておかなければなるまい。せっかくならセイラとレイの親睦を深めるのも兼ねて一緒に食べに行きたい。と言っても私が何やらかんやらせずとも二人のコミュ力があれば勝手に仲良くなっていそうではある。

「ますます王都に行くの楽しみになってきたなぁ」


窓際で仲良くティータイムをしているセイラたちを見ているとふと、この部屋に来てからずいぶん経ったのを思い出した。最初はネイと二人だけで余裕の広さのある部屋だったはずなのにいつの間にかこんなに賑やかになっていい意味で手狭になってきた。

この一年、妹と会えない寂しさも大きくあったが代わりに大切な出会いもたくさんできた気がする。そう考えると悪くない一年だったのかもしれない。

「……ア様?ミア様?」

そんな思考もネイの声で消え去った。

「ミア様?お疲れですか?眠るならベッドにいかれた方が……」

「ううん。ちょっとうとうとしただけ。大丈夫よ」

いつの間にか眠ってしまったらしい。疲れが溜まっていたのかもしれない。

ネイの入れる紅茶で少し目をすっきりさせていると部屋の扉がノックされる。

「確認してきます」

彼女が応対に出るとほんの少しだけ話し声が漏れ聞こえてくる。

「少々確認してきますのでお待ちください」

そう言ったネイがこちらにやってくる。

「ミア様、イオナさんから何か連絡は貰っていらっしゃいますか?イオナさんの使いの者と名乗っておられますが」

「ん?うん。そう言えば誰か来るって言ってたわね」

「かしこまりました。では案内いたしますね」

「お願い」


「マスター。お初にお目にかかります。シズクと申します」

綺麗なお辞儀をしてシズクと名乗る彼女は挨拶をしてくる。


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