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ご令嬢との一時の別れ

頭の痛みはすっかり消えている。体中の傷はネイがわたしを介抱した時には消えていて、ほとんどの血は返り血だったらしい。叩きつけられたときに骨の数本でも折れたような気もしたが痛みがないから大丈夫なのだろう。

「それじゃあ、帰りましょうか」

手を差し伸べてご令嬢が言ってくる。

「帰りも、よろしくね」

「ええ。もちろん」


外に出るとすっかり日は高くなっていて帰るころには暗くなっていそうだ。

別荘の前でイオナたちと分かれて、来た道をゆったりと戻っていく。ここからは見えないが上空にはイオナ達からの監視の目があるので襲われそうになったら早めに対処はできそうだ。正直今回はもう面倒ごとに巻き込まれたくはないが。

少し外を見ながら馬車に揺られているとネイが思い立ったように話しかけてくる。

「そう言えばミア様。あの賊、元はごろつきだったそうですよ。ロベリア様が仰っていました」

いかにもな風貌はしていたしごろつきでも不思議ではないが、リーダー格の男からかすかに魔法の使用を感じられたのでそこだけが不思議だ。普通ああいうごろつきが魔法を使うことなんてないはずだが。元々はそう言う訓練でも受けていてごろつきに堕ちたのだろうか。

「強かったわね、あの男」

「ミア様こそ、その男を倒されたではありませんか」

「とは言っても私の力だけじゃなかったもの……まだ鍛えが足りなかったわね」

「何と言うか……あの時を思い出すくらいの雰囲気が出ていました」

「そういえば、あの時もそうだったかもね……」

あの女の声が聞こえて、体が動いていたのは妹を助けて不埒者を切り捨てた時もそうだった。あの女、ピンチになったら助けてくれているのだろうか。どっちにしろあんまりあの声は聞きたくないからもっと強くならないと。

「貴女、少し見ただけだけれど本当に神様みたいな雰囲気が出てたわね」

「そんな大げさな……」

「ほんとうよ。まぁ、あの血だまりに圧倒されてしまったのもあるとは思うけれど」

ご令嬢までそんなことを言う。

「そんなすごかったのかぁ……私も神様なミア見てみたかったな」

「セイラまで……死ぬところだったのよ?」

「でも、ミアが助けてくれるでしょ?もちろん私ももっと強くなるけど!」

「もう……あんまり頼られても困るわよ」

「じゃあ、いつかミアを颯爽と助けちゃうからね!」

セイラは意識がなかったとはいえ死ぬ間際だったのにいつもと変わらず元気はつらつで正直うらやましい。

「学院でも私のことを守ってほしいくらいだわ」

「学院でそんなに物騒なことが起こるでしょうか……」

「起こるわよ。剣の鍛錬だってあるのだし、私の立場も立場だし」

「立場が立場なら下手に襲われることもないでしょう」

「わたしに傷がついたら喜ぶものも結構多いのよ。何も殺すことだけが傷のつけ方じゃないわ」

「……まぁ、いざという時にはご学友を守るのに異論はありません」

「まどろっこしいわね」

貴女に言われたくないというのをぐっとこらえる。

「まぁいいわ。お友達として会う貴女も楽しみね」

何かと話に花を咲かせていたらいつの間にか外は暗くなっていて、屋敷の近くまでついていた。

「あら、話していたらいつの間にかこんなところ」

「お屋敷が近いですね」

「お腹空いたね、ミア」

「そうね……終わったら何か食べに行きましょ」

「いいわね、皆で食事をするのは。お夕飯に誘いたかったけれど、このまま会食が控えてるのが残念だわ」

ロベリアはそう言ってため息を漏らす。本当に残念そうだ。

「学院に行ったらそのような機会も訪れると思いますよ」

「楽しみは待つ時間も大事だものね……はぁ。そう言うことにして今日は乗り切ろうかしら」

「さすがです」


街の中を通り抜けて、屋敷の門を通り抜ける。数日振りに見たお屋敷は明かりが煌々と灯っていて改めてその大きさを感じさせる。

馬車はお屋敷の入り口前に止まる。ご令嬢が降りたところでそばで待っていた使用人が話しかけてきた。急ぎで何かを伝えているようだ。

「申し訳ないのだけれど、どうやらすぐに準備して行かなければならないみたいなの。報酬は必ず渡すから安心してちょうだい」

「かしこまりました」

「本当にありがとう。貴女達のような最高の護衛に出会えてよかったわ。またね」

そう言って丁寧に礼をするとレディシアさんを連れて足早に屋敷の中に戻って行ってしまう。立場の高い人は本当に忙しそうで大変だ、と他人事ながらに思う。

「私達どうする?もう帰っていいのかな?」

きょろきょろと周りを見回しながらセイラが聞いてくる。

「多分大丈夫かと。ミア様、街に行って今夜のご飯を選びましょう」

「そうね。そうしましょうか」

そう言って、長い屋敷前の通路を歩いて屋敷を後にする。



「なんかこのの活気のある感じ久しぶりだね」

セイラの言う通り、暫く人里離れた保養地にいたせいで少しなつかしさのようなものすら感じてしまう。

「確かにそうね。いつも見てたはずなのに少し新鮮に映るわね」

「ミア様は何をお食べになりたいですか?」

「そうね……ちょっとがっつり食べたいかも。細かいのはネイに任せる」

「では、買って参りますね」

「私も行く~!」

セイラがネイについていって屋台で色々買ってくる。二人が買い物を済ませるのを待っていると、久しぶりに一人でいる時間が発生した。一人でいることなんてめったになかったから少し寂しさも感じる。

「学院、かぁ」

この任務が終わって報酬を得たらもう、学院に入学する準備をせねばなるまい。やっと愛しい妹に会うことができる。妹はまだ私のことを好いていてくれるだろうか。合わない間に嫌な目に合っていないだろうか。それだけが少し心配だ。

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