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夜襲

そして、夜はいつものようにお嬢様の部屋で寝るまでの間の話し相手だ。これも今日までのことだが。

「休暇も今日で終わりね」

「そうですね。休息はしっかりとれましたか?」

お茶を淹れながら聞いてみる。

「まぁまぁ、ってところかしらね」

「多少でもお休みになられたなら良かったです」

「……そうね。いつものように肩揉んでもらえる?」

いつ頃からだったか彼女は肩を揉むように言ってくるようになった。昼間にもレディシアさんに揉ませているのに。彼女の体に触れることができるくらい警戒心が解けてきたのは喜ぶべきなのだろが。

「かしこまりました」

彼女の後ろに回って肩をもむ。少しくすぐったそうにしながらも、気持ちよさそうにしてくれていて私も嬉しい。

「日常に戻るのが億劫ね、これだけ楽しい休暇だと」

「それほど楽しんでもらえると、この任務を受けたかいがありました」

「貴女達みたいな素敵な娘似合うこともできたし。しかも同じ学び舎で学ぶ子と先に交流もできたし」

「私も、ロベリア様とお会いできてよかったと思っていますよ」

私の正体を暴こうとしたときは少し憎らしくも思ったのは秘密だが。

「貴女達姉妹に学院で会えるのが楽しみだわ。素敵な友達になれると良いわね」

「私の妹なら人見知りはまずしないので大丈夫でしょう」

暫く肩をもむと彼女があくびを数回する。そろそろ眠くなって来たようだ。

「ありがとう。そろそろ寝ようかしら……眠くなってきたわ」

「ではレディシアさんを……」

『マスター、屋敷に不審者が近づいています』

レディシアを呼びに行こうとしたところで、突然脳内にイオナの声が響いた。

『わかった。援護できる?』

『少々時間がかかりますのでその間ご辛抱いただければ』

『よろしくね』

『かしこまりました』

「どうかしたの?」

私が突然言葉を止めて黙ってしまったので不思議そうにこちらを見てくる。

「ロベリア様、突然で申し訳ないのですが襲撃者です。今からレディシアさんとネイを呼んでこの部屋で待機していただきます」

「襲撃?そう……わかったわ」

彼女の顔がほんの少しだけこわばる。その時ちょうど扉がノックされる。

「誰?」

「ミア様、ロベリア様、いらっしゃいますか?」

「ネイ?入って」

剣を抜いて扉越しにネイに入ってくるように言う。扉が開くと、ネイとレディシアが二人で立っていた。ネイの方は少し汚れている。

「お嬢様!ご無事でしたか!」

レディシアは部屋の中に一目散に駆け寄っていく。少しヒヤッとしたがどうやら本人のようだ。

「私は大丈夫」

「ネイ、外の状況は?」

「既に屋敷内に入られていて、一階にいらっしゃったレディシア様を連れてこちらに来る途中数人を始末しました。セイラさんも二階で戦闘中です」

「わかった。ネイはここで二人を守って。私はセイラの援護に行くわ」

「かしこまりました」

方針も決まったところでくるっと振り返って二人の方を向く。

「ロベリア様。少し外の掃除をしてきます。ネイをお側に置くのでどうかご安心を。念のためいつでも逃げられるようにしていておいてください」

「わかった。期待しているわ」

服を着替える時間なんてないから支給された薄い寝間着でそのまま廊下に出る。


廊下に出て最初に聞こえたのは片刃の剣を振って窓に飛び散る血液と、倒れ伏す侵入者の音だった。

「セイラ、大丈夫?」

「あっ!ミア!結構数多いよ。ほら」

指差す先には数人の黒服。ちょうど館の真ん中にある部屋なので二方向から囲まれている。

「本当ね。じゃあ、そっち側は任せてもいいかしら」

「もちろん!」

ほんのりと明るい廊下の先から、襲い掛かってくる侵入者。獲物は多彩で、よくごろつきが使っているようなものにも見える。

振り下ろされた剣を剣で受けつつ弾いて切り捨てる。いつもの作業だ。しかし、殺しても殺してもキリがない。ある程度殺したらご令嬢を連れて逃げたいのだが。たまに暗器のようなものが飛んでくるがギリギリで避ける。明るさが足りなくて小銃、元の世界で言う拳銃のようなものを撃とうにも相手が見えない。

そうして五、六人を始末したところで暗殺には不向きそうな大柄な敵が現れる。

「小娘にどんだけかけてんだ……ったく」

獲物も大剣のようで、力負けしてしまうかもしれない。

一息吐くと、目の前の男は見た目に反して一気に距離を詰めて大剣を振るってきた。これはまともに受けたらまずい。一歩引いて避けるが、目の前を大剣が風切りつつ通っていくのを見ると生きた心地がしない。

「ちょこまかと動きやがって」

今度は私の方から斬りかかるが大剣で受けられる。その時足に鈍い痛みが走った。どうやら投げ物がかすったらしい。こんな建物の中で緋剣を使うわけにもいかないし魔法でいつもより強く身体補助をかける。そうして、また相手と打ち合うがこれでやっと互角くらい。相手も何か使っているようだ。

「このガキ魔法使えんのか」

あまり身体補助をかけすぎると体への負担が大きくなりすぎるのであまり際限なくかけられないが、そうも言ってられなそうだ。さらに剣を数度打ち合うと同時に投げ物がかすっていく。刺さらないのは幸いだ。

「こいつ効いてねえのか?」

いつまでも打ち合っているとこちらが不利になりそうだったので、男が意外そうにつぶやいた瞬間一気に距離を詰めた。驚いて大剣を振ってくるがそれを弾き、左手で足を二、三発射撃をする。しっかりと貫通し姿勢を崩す大剣使い。しかし、相手も思ったより強かった。痛みに顔をしかめながらも大剣をもう一度振るってきた。その剣は流石に避けられないので剣で受けようとしたとき、一瞬力が抜けて不完全に受けてしまった。そのまま扉に激突して、激しい音をたてながら扉を打ち破って部屋の中に入ってしまう。

「ミア様!」

「ミア!」

二人の声が聞こえるが、信じられない痛みで頭がもうろうとして動きが取れない。いつもの装備ならこのくらいなんてことないのに。


甲高い打ち合いの音を聞きながら視界がはっきりした時、目の前ではセイラが頭を掴まれていた。何とか立ち上がるが、思ったよりきつい。

「まだ生きてやがったのか、このガキ」

大剣使いはこちらを見て一言吐き捨てた。掴まれている彼女は意識を失っているようで力なく腕がだらんとしている。

「先にこいつを始末したらお前も殺してやるよ」

そう言うと大剣をセイラに向けて刺そうとする。間違いなく刺されたら彼女の命はない。しかし、私の体も立っているだけで限界だ。イオナたちはまだ着いている様子はないし、ネイは窓から侵入しようとした雑魚を始末していてそれどころではなさそうだ。また、目の前で大切な人が汚されそうになっているのに動けない。

『ほら、あと一歩だよ?』

いきなり聞き覚えのある女の声が脳内に響いた。

『早くしないとあの子、殺されちゃうよ?』

そんなことは分かっている。分かっているが体が動かないのだ。

『本当に?”彼女”はまた来てくれたよ?』


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