夜の秘密話
「別荘でもこんなにおっきいと大変だよねぇ」
セイラが夕飯を食べながらそんなことをつぶやく。
「そうね。うちでも警備の兵隊が結構いたわ。ね、ネイ」
「そうですね」
「警備の兵隊……すごいね。本当に貴族なんだ」
「みんなそんなものよ。しかもうちの兵隊は母を守ってばっかりだったし」
「へぇ」
「一応娘として扱ってはくれるけど私たちは二の次。ちょっと怖かったって言えば怖かったかも」
「大変だったんだね、ミア」
「じゃあ、ここからは交代で睡眠をとりましょうか」
ご飯を食べ終わったので誰から寝るかを決める。
「まずセイラから睡眠をとってもらって、その次にネイ。最後に私でもいいかしら」
「良いよ~!」
「かしこまりました」
「じゃあ、最初に寝させてもらうね~!」
セイラがそのままベッドに入って眠りにつく。私はネイと一緒に少し離れた椅子に座って、お茶を飲みながら夜の番をする。
「こんなふうにミア様と二人でいるなんて久しぶりかもしれませんね」
「確かに。最近はセイラがずっと一緒にいたものね」
「ミア様がまさか旅の仲間を同行させるなんて思わなかったので、少しうれしいです」
「何よ。親みたいなこと言って」
実際に年も大きくは離れていないのに親代わりにわたしを守ってくれたのは彼女なので間違ってはいないのだが。
「いえいえ。ツンツンしていたご実家の頃を考えると少し雰囲気が柔らかくなったと思いますよ」
「……そうかしらね」
実際、学院に入る前にそう言ってもらえると元居た世界みたいに失敗をしなくて済みそうな感じがして少しホッとする。
「そうですとも。私のミア様は銀吹雪と呼ばれていたころよりも更に魅力的におなりになっていますよ」
「もう、恥ずかしいでしょ。そんなに褒めても何も出ないわ」
少しネイと話している間にいつの間にか時間が経って交代の時間になった。
「セイラ。起きて」
体を揺すると揺する私の腕を掴んでくる。ちょっとかわいいが癒されている場合ではない。
「セイラ?早く起きて」
「んぅ……」
仕方がないので布団を引っぺがして強引に起こす。
「んぁ……っ!ミア?」
「交代の時間よ。起きて」
「もうそんな時間かぁ」
今度はネイが寝る時間だ。今度は少しだけ眠そうなセイラと二人で番をする。
「なんかネイさんが寝てるの見るの新鮮だね」
「そう?ネイだって寝るでしょう」
「いや、それはそうなんだけど。なんかネイさんっていつ寝てるのってくらいミアに付きっ切りな気がするからいつ寝てるのかなって」
「そんなにわたしと一緒にいるイメージ……あるの?」
「え、もちろん」
即答するほどそんなに一緒にいるように見えるのか。ずーっと一緒にいるとあんまり意識してないような視点で見られているのかもしれない。
「そっかぁ」
「そう言えば、ミアの妹さんってどんな人なの?」
「え?何急に」
「言ってたでしょ?双子の妹さんがいるって」
「あぁ。そういえばそんなことも言ったわね」
「かわいいって言うしどんな子なのかなぁって。ミアみたいにちょっと落ち着いた雰囲気なのかな。それとも愛嬌あるかわいい感じ?」
「そうね、どちらかというと私と違って愛嬌あるかわいい妹よ」
そのままかわいい妹談議で交代の時間まで話し続けていた。私が眠った後も特に異常は起こることもなく、朝になった。
次の日からも同じような生活が続いていった。昼間はお嬢様と近くの森や湖で護衛をしつつ話し相手になって、夜は交代で番をしていた。
そんな日常もあっという間に過ぎて最終日になった。昼間は相も変わらず近くの湖に軽い散歩に出かける。
「行くわよ。レディ。ミア」
いつの間にかお嬢様までミアと呼ばれるようになってしまった。
「なんかミア、結構お嬢様に気に入られてるね」
「そうね。悪い気はしないわ」
湖の側のいい景観を見られる場所に小さな別荘があって、そこでいつもマッサージをしてゆったり過ごしている。私達も割と守りやすい場所なので助かってはいる。最後の日なので少しだけこの景色とおさらばするのが寂しい。