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愚痴と不穏

「それで、愚痴って何ですか?」

「そうね……私の許嫁の話と学院の話、どっちから聞きたい?」

お茶を飲んで聞いてみるとどっちも少し重そうな話題が出てきた。

「じゃあ、許嫁のお話から」

「貴女、私の許嫁が誰かは知っているわよね」

「ええ。二位王太子殿下ですよね」

現在第一位王太子殿下より次期国王にふさわしいと言われている方だ。

「そう、あのお方。貴女は私があの方とちゃんと釣り合うと思う?」

そんな答えが一つに決まりきっている問をして意味があるのだろうか。

「もちろん。釣り合っていると思いますよ。他のお相手なんていないでしょう」

「本当に?」

「嘘を言う理由はありませんよ」

実際二位王太子と直接会ったことはないし、私はレイと穏やかに暮らすことができればそれでいいのでお似合いの二人と言うしかない。

「私、巷では王太子の許嫁だからって鼻持ちならないとか傲慢とか言われているのに?」

「少なくとも、私はその噂を知りませんし鼻持ちならない、なんて思いませんでしたよ」

「……そう」

満足してもらえたのか彼女はティーカップを傾ける。

「そういえば貴女、わたしとさほど年は離れていないはずだけれど学院とかに行く予定はないの?」

「来年、お邪魔になろうかと思っておりますが」

「あら、なら私と同じね」

このご令嬢同い年だったのか。

「学院でお会いしたらよろしくお願いいたします」

「……それは、私の言う言葉かもしれないわね」

少し間を開けて彼女はそう言った。

「私、彼の許嫁になるために今まで生活してきたから他人との私的な付き合い方がわからないし友達の作り方もわからないの。だから、教えていただけないかしら」

一番困ることを言われてしまった。友達の作り方?そんなの私が知りたい。友達が簡単にできるくらいコミュニケーションに自信があったらイジメられることもないしこんなところにいるわけもない。

「申し訳ありません……私もそう言うことは苦手でして……妹なら上手なのですが」

「あら、妹さんって同い年よね。来年もしかして学院に?」

「え、ええ」

「だったら妹さんと貴女で学院入ったら色々教えて下さらない?」

「妹がいいと言うなら、やぶさかではありません」

「そこは貴女の口添えも欲しいわ」

「……善処します」

「よろしくね」


「はぁ……今日は気分がいいわ。決めた!この屋敷にいる間貴女、夜寝る前の話し相手になって下さらない?」

「え?ですが、屋敷の警備は……」

「少しだけよ。追加料金を払ってもいいわ」

気に入られてしまったのだろうか。別に見回りはあの二人とイオナの監視に任せても大丈夫だろうから困らないけれど……。

「どうかしら」

わざわざ私の横に来て手を握ってこちらを見つめてくる。

「……わかりました。お付き合いいたします」

「貴女ならそう言ってくれると思ったわ。それじゃあ、私は寝るからレディ呼んで警備に戻っていいわよ」

そう言うと彼女はベッドに一直線に向かって歩いて行ってそのまま眠ってしまった。早すぎる。

とりあえず一礼をして部屋を出てレディシアを呼びに行く。

「レディシアさん?いらっしゃいますか?」

となりの部屋をノックして呼んでみると、中から物音がした。

「ミアリーンさん、お嬢様とのご歓談は終わりましたか?」

「ええ。どうやら今日だけではなさそうですが」

扉を開けて彼女が出てくる。

「……珍しい。お嬢様が人を気に入るなんて」

「というわけで、私は警備に戻りますね。お嬢様が呼んでいましたよ」

「わかりました。警備よろしくお願いしますね」

彼女がそう言って足早に隣の部屋に行ったのを見送って、私も警備に戻ることにした。もちろん夜着のまま警備をするわけにもいかないので部屋に戻って着替えてからだが。

一人で着替えるのも久しぶりだ。


「お疲れ様。二人とも」

「あ!ミア!お疲れ~!」

屋敷を出て少し周りを歩いていると二人を見つけた。

「異常はなかった?」

「うん!ばっちり!」

「怪しいものはありませんでした」

「そっか。じゃあもう一週くらいしたら部屋に戻る?」

「それがよろしいかと」

「さんせ~い!」

というわけで三人で見回りを始める。周りに人家が少ないから静かだ。

「柵もなんかおしゃれよねぇ」

「確かにね。お金がかかってそうだわ」

別荘の裏側に入ったところでガサッと何かが動いた音が聞こえる。二人に止まるように合図をして、そーっと奥を見る。何か黒い塊が少し動いた気がする。柵の向こう側だ。

「ネイ。ここに残って、あれが入ってこないか見張ってて。わたしとセイラで押さえに行くわ」

「かしこまりました」

小声で指示を出して屋敷の外から裏に回る。

「セイラ、見える?」

「一応、見える」

「もしあれが逃げ出したら撃っていいからね」

「わ、わかった」

「じゃあ行くわよ」

周りに人の気配は一つしかない。後ろからそっと黒い塊に近づいていく。近づくとそれがどうやら人間であることが分かる。

「こんばんは」

剣を相手の首筋に当てながら話しかける。

「だ、誰だ」

「あなたこそ、誰?こんなところで何をしているの?」

「お、俺はそこの村のもんで……暗闇で道に迷っちまって……」

「本当に?嘘ついたら頭と体が泣き別れしちゃうけど」

「ほ、本当だ!」

「ミア様」

いつの間にか柵越しにネイが来ていた。

「柵に細工はされていないようです」

「そう……。あなた、名前は?」

「お、俺はケリアスだ」

本名を聞いたところでここは日本ではないし調べることも簡単ではないのだがどうしようか。普通なら殺すべきなのだろうが本当に迷っただけなら殺すには忍びない。

暫く考えて彼に伝えることにした。

「わかったわ。今回は見逃してあげる。ただし、次怪しいことしてたら殺すわ」

「わ、わかった!」

目の前で少し怯えている男は足早に去って行った。


「……ねぇ、二人とも。私、甘かったかな」

「私はミア様のご判断に従いますよ」

「ミアってなんだかんだやさしいよねぇ。柵に細工もないし大丈夫よ!」

「はぁ……。何事もありませんように」

一抹の不安を覚えながら屋敷の残りを見回る。

「他には何もなかったわね」

「よかったよかった~!」



屋敷の中に戻って、軽く夕飯を食べる。レディシアさんに台所を使う許可をもらっているのでネイの温かい手料理が食べられる。お腹が減っていたので体に沁み渡る。

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