切り出す勇気
休憩時間を終えて、またしばらく馬車で揺られ段々と別荘地に近づいてくる。観光地が近いからか、商店や宿屋も多くなってくる。
「そろそろかしら」
「ようやく到着ですね」
馬車が止まって、外に出てみると既に別荘の中にいた。カーンのお屋敷に比べれば規模は小さいが少なくとも私の実家の別荘よりは格段に大きい別荘だ。庭もとんでもなく広い。
「お疲れさまでした。お嬢様」
「いつもの部屋にいるわね」
「お掃除が住んでいませんが……」
「いいわ。自分の部屋くらい自分でやるもの」
そう言うと彼女はさっさと別荘の中に入って行ってしまう。ネイに急いで後を追わせる。いくら自分の別荘とは言えいつの間にか不届き者が侵入しているかもしれない。
「……では、私たちも屋敷のお掃除をいたしましょう」
「はーい!」
セイラは相変わらず元気そうだ。屋敷の中に入るとほんの少し埃っぽいがある程度きれいに保たれていて掃除は楽そう。私は冒険者になるまで掃除をすることなんて無かったけれどこっちに来るまで部屋の掃除くらいならしていたから多少は何とかなるだろうか。
「ではセイラさんとミアリーンさんは二階の掃除をお願いしてもいいですか?私は一階の掃除をするので」
「わかりました」
「任せてっ!」
ふかふかのカーペットのようなものが敷いてある階段を登っていくと長い廊下が左右に伸びている。
「……じゃあ、セイラはそっち側からやってもらっていい?」
「ん!」
貸してもらった掃除道具を持って端っこから掃除を始めていく。大きい窓を拭いていると年末の大掃除を思い出す。もう昔の世界と同じぐらいこっちの世界で過ごしてきたのに案外いろいろと覚えているものだ。
「……思ったより掃除って手が痛くなるのね」
いつもの戦闘と違って別に激しいことはしていないのに手がちょっと痛くなってくる。長く掃除なんてしていなかったから皮膚が弱いのに気づかなかったみたいだ。
「高そうな調度品ですこと……」
一つ一つ丁寧に拭いていくが、この壺一つ割ってしまったらいくらのお金が飛んでいくのか少し恐ろしくもある。
さっきセイラと別れたところまで拭き終わると、今度は一つ一つ部屋を掃除していく時間だ。
「……一応ノックはしたほういいわよね」
部屋数も多いしまだまだ時間はかかりそうだ。
一つ目の部屋をノックする。返事がないから扉を開けて入ってみるとどうやら客用の部屋みたいだった。ほんの少しだけ埃が溜まっていてしばらく使っていないことが分かる。
「実家の私の部屋くらいの広さね……流石だわ」
実家のことを少し思い出すようなことが多くて、自然と妹のことを思い出してしまう。元気にしているかな。あとちょっとで会えるっていうのにその時が近くなれば近くなるほど早く会いたくなってしまう。また一緒に二人きりで寝たいし、話したいことも数えきれないほどある。
数部屋の掃除を終わらせてまた、となりの部屋の扉をノックする。
「何?」
流れでまた入ってしまいそうになったが部屋の中から声が聞こえてくる。
「ロベリア様、お手伝いすることはありますか?」
扉をほんの少しだけ開けて聞いてみる。
「大丈夫よ。貴女の従者が優秀でほとんど終わっているから」
流石ネイだ。どうやらご令嬢のお手伝いもしっかりこなしているらしい。
「かしこまりました」
扉を閉めて次の部屋の掃除に向かう。あとちょっとで終わりそう。
「……ふぅ」
ちょうど部屋の掃除を終わらせると反対側の掃除をしていたセイラも最後の部屋を終わらせてこちらに向かってくる。
「ミア~!終わった~?」
「ええ。セイラも終わったの?」
「もちろん!ばっちり終わったわ!」
「じゃあ、レディシアさんに報告に行きましょうか」
「だね!」
階段を下りて行って近くの扉の開いている部屋を覗いてみると彼女がいた。キッチンのようでちょうどお茶を入れていたみたいだ。
「おや、お二人とも。お掃除は終わったのですね」
「ええ。次は何をすればいいのかしら」
「特にお願いすることはないので、開いているお部屋でゆっくりお休みになったりお屋敷の周りを見て回ったりご自由にどうぞ」
「わかったわ」
「セイラはどこの部屋使うか決めた?」
「うーん……。ロベリアさんのお部屋の隣かな?なんかあったときにすぐ行けそうだし」
「じゃあ私は反対側のお部屋にしようかしら」
「いいね!」
と、言いつつ一人でやることもないし私が使う予定の部屋で二人とも集まる。
(イオナ、このお屋敷の周りって監視できる?)
(可能でございます)
(じゃあ、お願い)
(かしこまりました)
流石に三人でこの広い屋敷をずっと警戒し続けるのは精神が持たなそうだからイオナにも手伝ってもらうことにする。
「それにしても、ミアと会ってから毎日が楽しいなぁ」
「え?急にどうしたのよ」
セイラが窓の外を見ながら突然呟く。
「だって、ミアと会わなかったら生きてる間にこんなすごいところに立つこと無かったなってふと思ってさ」
確かに一般人として生きていたら王太子の許嫁レベルの貴族の別荘なんて来ることはなかっただろう。
「私だって、貴女と一緒に色々見ることができて楽しいわよ」
「ほんとっ?嬉しい!」
くるっとこっちを振り向いて可愛らしい笑顔を見せてくれる。多分前の世界だったらこんな明るい子と話すことなんてなかっただろう。というか、ちょうどよく二人きりだしあの事を話しておこうか。
「ねぇ、セイラ?」
「なになに?」