二度目の護衛
「かしこまりました」
四人合わせて礼をする。
「レディ。私は部屋に戻る。その四人をしっかり見送ってね」
そう言い残してそのまま彼女は部屋を出ていく。
「はい。お嬢様」
彼女が出ていった後、しばらく静寂が漂うが誰かの深呼吸で破られた。
「緊張した……」
「お疲れ様です。受付嬢さん」
「皆さん緊張しないんですか……?平然としてらっしゃいましたけど」
「私達は何もしゃべってないし……」
「ちょっとそういう環境で過ごしていたことがあったから慣れているだけよ」
「そうなんですね……」
出されているお茶を飲み干してから、レディシアに案内してもらって正門まで戻る。思ったよりあっさりとした顔合わせだったからまだまだ日は高い。
「それでは皆様、明日はどうかよろしくお願いいたします」
丁寧にレディシアが見送ってくれる。軽く礼を返してから、来た道を戻ってクランの方向へ歩いていくが、後ろを見るとしばらくの間姿が見えていた。
そして、そのままクランの前を通って受付嬢を送り届けて泊っている宿へと戻る。
「ミア様、明日に向けて足りないものはありますか?」
「多分……無いわ。今日は思ったより早く終わったし後はゆっくりして明日に備えましょうか」
「メーシャをイナに預けちゃったから暇~……」
流石に小さくて可愛い妹を護衛任務に連れていくことはできないので、またイナに預けて置いてある。
「それにしても、お嬢様が割とまともそうな人でよかったぁ~……前みたいなろくでもない奴の護衛はもう勘弁してほしいもん……」
ごろごろしているセイラの言う通りである。割と三人ともあの出来事は結構なトラウマになりかけているといっても過言ではないのかもしれない。
「まぁ、あの時のことは一旦忘れてご令嬢の護衛をしっかりやりましょう?しっかりと報酬も出そうだし」
「……まぁね~」
翌朝、昨日も通った道を通ってご令嬢のお屋敷まで向かう。変わらずにいる守衛のような人に声をかけて中に入れてもらう。
昨日と違ったのは、お屋敷の前に比較的大きな馬車が停まっているところだ。どこかで見たようなごてごてに豪華な装飾のついた馬車ではなく、シンプルに纏まりつつ高貴な気品のあるそれに少し感動してしまう。
「……これがしっかりとした身分にふさわしい乗り物よね」
実家にあったものもそうだったが、やはり無駄に馬車を飾って派手に見せるのはあまり趣味のいいものではないと思う。
「あら、おはよう」
ちょうど私たちが馬車の前に到着してすぐにぎぎっとお屋敷の扉が開いてロベリアとレディシアの二人が出てくる。
「おはようございます、ロベリア様」
「ん。じゃあ早く乗りなさい。行くわよ」
挨拶を軽く受けてから大きい馬車の中に入るように促してくる。馬車の中に入ると、大きいだけあってロベリア用の個室がある。王太子の許嫁の家系ともなるとこのくらいいいものを使えるのか……。
「ではお嬢様、御用がありましたらいつものように」
「ええ。また後でね」
そう言うと彼女は扉を閉めて、レディシアは馬車を操縦するために一番先頭に行ってしまう。
「私たちまで乗れるくらい大きい馬車何て初めてだね、ミア」
「そうね。ここまでのものには乗ったことがあまりないわ」
セイラは少し物珍しそうにきょろきょろしている。窓の外を眺めていると、動いているのにほとんど振動がない。
「歩いて同行しなくていいのは楽ですね、ミア様」
「そうね。徒歩より早く着くし護衛するのに無駄な体力を使わないで済むのは嬉しいわね」
「座るとこもふっかふかだし!いい任務を引けたかもね」
彼女はすっかり満足げだ。まだ日程的には始まったばかりだが。
しばらく快適な旅を続けていると大きく開けた平原で一旦停止する。
「お嬢様、外の空気をお吸いになりますか?」
「ええ。そうするわ。いつものお茶を頂戴。レディ」
「かしこまりました」
そう言うと彼女は馬車を降りて外の空気を吸いに出る。
「では、これを外に置いてきていただけますか?」
レディシアは収納スペースから折り畳み式の椅子と机を取り出して私たち三人にそれぞれ渡してくる。
「私はお飲み物を用意するのでその間、よろしくお願いします」
馬車の外に出ると、さわやかな風が吹いてきた。これは気持ちがいい。
「ロベリア様。椅子のご用意ができました」
「あら、ありがとう」
彼女からほんの少し離れた場所で休憩を邪魔しないよう護衛をしつつレディシアがお茶を持ってくるのを待つ。
しばらくしてレディシアが彼女にお茶を入れると、こちらの方にやってくる。
「ミアリーンさん。ちょっといいですか?」
手招きをしてこっちに来るように促してくる。ついていくと真剣な顔であることを教えてくれた。
「ミアリーンさん。一つ、お伝えすることがあります」
「……なんでしょうか」
「ロベリア様についてです。最近、得体の知れない何者かにお命を狙われているようなので、普段の護衛以上にできるだけ周りにお気を付けを」
「得体の知れない……」
「ええ。もしかしたら従者の皆が倒れたのも……」
「……わかりました。二人にもこのことを伝えて気を付けさせます」
「ええ。よろしくお願いします」