不思議な依頼
先の害獣駆除の報酬が無事にもらえて、しばらくゆっくり過ごすことのできる余裕ができた頃。基本的には宿でゆっくりしつつたまに街をぶらりと歩いてみている。思ったより見る場所が多くて楽しい。
そんなこんなで前の世界で2週間くらいは任務をこなさず休んでいる。
そんな楽しい時間を過ごしていたら、イオナが部屋に尋ねてきた。
「イオナ?どうしたの?」
「王都の部屋の方にお手紙が……」
そう言って豪華な装飾のある手紙を差し出してきた。見たことのある紋章が刻まれている。
「まさかこれって……」
封を開けて中の手紙を見る。
「……もうこんな時期なのね」
「ミア様……?」
「能力測定の時期ですって。まぁ入学試験替わりね」
「なるほど……」
「私たちはよっぽどのことがなければ落とされないから気楽に受けられるわね。どっちかと言えばその後の交流パーティーの方が重要かも」
「いつ頃行われるのですか?」
「一月半後だって」
「レイ様とやっと会えるとは言え短いようで長いですね……」
「……そうね。あとセイラにはそろそろ伝えなければならなそうね」
結構長く一緒に居たのでお別れするのが少し寂しい。皇女の言っていたあの作戦を使えば一緒に居られるかもしれないが断られるのも怖くてどうしようか悩んでいる。
そんなことを察してか一言だけネイが言ってくれる。
「ミア様。後悔のないようになさいませ」
「……ええ。そうね」
どうやって切り出そうかと考えるうちにさらに二週間が経ってしまっていた。未だに人のことを誘うのは緊張してしまう。特に他人の人生を変えかえない様な重要な勧誘は。
そんなことをぐるぐる考えていると部屋の扉がノックされる。
「……誰かしら」
「私が出ます。ミア様」
ネイが扉を開けるとどこかで見た顔が立っていた。
「貴女は……」
「あぁ、ネイさんでしたか。少々ご相談したい事がありまして……」
「少しお待ちを……」
ネイが一旦扉を閉じて誰が来たのかを伝えてくれる。
「あぁ!クランの人かぁ。……とりあえずお話だけでも聞いてみよっか。ネイ」
「かしこまりました」
もう一度、ネイが扉を開けて私のいる机の方にクランの受付嬢を連れてくる。
「わざわざ宿にいらっしゃるってことはよほどの用事なのかしら……」
「はい。ミアリーンさん達が適任な任務を依頼したく……」
「私たちが……?」
「こちらの方からのご依頼で……」
彼女の懐から赤と金で装飾された豪華な封書が出てくる。蝋の部分には貴族の頃に見たことのある紋章が描かれている。
「ちょ…ちょっと!?それって……嘘でしょ……?」
超名門のヴァーミリオンの紋章に相違ないだろう。何度かパーティーで見たことがある。
「ええ……ヴァーミリオン様のご依頼された任務です」
「……それで何をすればいいの?」
嫌な予感はぬぐえないがとりあえず聞いてみる。
「ヴァーミリオン様のご令嬢が保養地でお休みの期間中、護衛と身の回りのお手伝いをお願いしたいそうです」
「護衛は分かるけれど身の回りのお手伝い……?メイドとか連れていないの?」
「さぁ……そこまでは私たちに伝えられていないので……」
「うーん……」
依頼の通神書を確認すると流石の報酬の高さだ。できれば最後に受けてお金をちょっと稼いでおきたいかもしれない。
「ねぇ、ミア。この貴族様ってどんな人なの?」
横で覗いていたセイラが聞いてくる。
「そうね……今一番次期国王に期待されている王太子殿下の許嫁の方で、評判は……あまりよろしくはないわね」
「えぇ……じゃああの人みたいな感じってこと?」
「うーん……直接見たことがないからいまいちわからないって言うのが正直なところね」
「もしこの任務を受けていただければ、一段階の昇格も先方からの評価によっては検討させていただきます。どうか、受けていただけませんか……?」
なんだかやけに必死な様子だ。何か伝えられていない条件でもあるのだろうか。
「でもなぁ……」
私たちもこの報酬にはつられてしまいそうになるが、護衛任務にはあまりいい思い出がなさ過ぎてすぐに肯定はできない。
「実は……ミアリーンさん達に断られてしまうと次に私たちのクランで出せる冒険者の方の実力が恐らく足りなくて……」
「え?いっぱい居ると思うけれど……」
「いえ……女性冒険者限定で、ある程度の教養がありそうなチームとなると、ほぼミアリーンさんのチームしかいなくてですね……」
「あー……そう言う……」
どうやら厳しい条件があるみたいだ。だいぶ言いづらそうに彼女が教えてくれる。そこまで私たちに期待されていたとなると少し助けてあげたい気もする。私たちがひよっ子の冒険者の頃から見知った彼女を見捨てたくもない。
「……受けてあげる?私はいいよ」
セイラはどうやら受ける心づもりを決めたようだ。ネイの方を見るといつものように私に一任してくれるみたい。
「……分かったわ。その任務受けます」
その返答を聞いた瞬間に彼女の顔がぱぁっと明るくなる。
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「その代わり報酬はきっちりいただきますからね」
「ええ。もちろんお支払いいたします!では、三日後にご令嬢との顔合わせがヴァーミリオン様の別邸にて行われますのでお迎えに来ますね」
「えっ、顔合わせ?三日後?」
「ええ。下の方に書いてありますよ」
通神書を指差される。しっかり見ると下の方にちょっと小さめに予定が書いてある。完全に見落としていた。
「本当だ……」
「ミアリーンさん達ならいつもの格好で大丈夫だと思うので気負わなくて大丈夫ですよ」
その後、手短に確認作業をしてそのまま彼女は部屋を出ていった。だいぶ肩の荷が下りたようで心なしか足取りが軽かった気がする。