狩りの時間
「起きてください、ミア様」
ぼんやりと体を揺らしてくるネイの声が聞こえる。
「起きないと……いたずらしちゃうよ?」
「んぇ……?」
ぼやけた視界に入ってきたのは金色の髪、セイラだ。
「あ、起きちゃった」
体を起こすとセイラの顔が間近に迫る。
「おわわわっ!?」
「……何しようとしてたの」
「べべべべ別に何も?」
「……なら、いいけど」
彼女はごまかしながらベッドから降りて身支度をし始める。
「ミア様、こちらをお召しに」
「ん。ありがと」
任務用の鎧にいつでも着替えられるようにしていると、扉がノックされる。
「お客様、お食事の用意ができました。皇女殿下がお待ちです」
「は~い!今行きまーす」
昨日も見た従者に案内されてまた大きい扉のある部屋に案内される。
「よく眠れたか?ミアリーンよ」
片手を上げて挨拶をしてくれる。
「ん。しっかり眠れたわ。ありがとう」
三人分の豪華な朝ごはんが用意されている。
「めっちゃおいしそう……!」
「冷めないうちに、ね?」
「いっただきま~す!」
「いただきます」
三人そろって食べ始める。他愛のない話をしながら食べる。
「今日はどうやって攻めるの?」
「とりあえず腹ごしらえを済ませたらいつでも出発できるようにしていて欲しい。こちらも準備が整ったら呼びに行く」
「わかったわ」
「何か足りないものがあったら教えてね?」
「そうね……今のところ特にはないかも」
「私、お水欲しいかも!」
「はいはい」
皇女の後ろに控えていたメイドがセイラのグラスに水を注ぐ。
「ありがとっ!」
部屋に戻って完全装備に着替える。
「ミアの鎧ってすっごいセンスいいよね。すごいかわいい!」
セイラが鎧を着ている私の周りをぐるぐる回って見てくる。
「この鎧はイオナが作ってくれたのよ」
「へぇ~……あの素敵な人がかぁ……」
「今度、イオナに頼んでセイラのお洋服を仕立ててもらう?しっかり頼めば作ってくれそう」
ちょっとうらやましそうに見ていたし、イオナなら稼いだお金でいいものが作れるに違いない。
「えっ!?いいの!?」
「ええ。帰り道にお願いしてみましょう」
「やったぁ!」
「そうだ。ネイ、貸して」
ネイにいつも付けてもらっていたリボンを借りて、セイラにつける。
「えっ、良いの?」
「先陣のセイラには頑張ってほしいからね。ちょっとした願掛けね」
「ありがとう!嬉しい!」
キラキラとした笑顔で答えてくれる。出発前から彼女の笑顔が見れるなんて運がいい。
準備をしてしばらくするとまた、従者が迎えに来てくれる。
「お客様、準備が整いました。ご案内いたします」
馬車まで向かうと皇女が待っていた。どこかのボンボンと違って質実剛健というかシンプルというか、あまり飾らない方のようだ。と言っても皇女はその姿だけで華があるしあまり飾るは必要ないだろう。
「準備万端みたいね!行くわよ!」
やる気満々の皇女殿下が馬車に乗り込む。
「早く入ってらっしゃいな!」
馬車の中は4人入っても少し余裕があるくらい広い。
「近くまで行ったら山登りだからこころの準備をしておくのよ」
「わかったわ」
「まっかせて!」
少し馬車で揺られてふもとに着く。
皇女殿下と私達以外にも十人ほどが一緒についてくる。
「いい?皆は周辺の邪魔が入らないように警戒していてね」
「かしこまりました!」
「エイリーン……かっこいいわね」
「ほんと、将軍みたい」
「だって私の直接動かせる部下だもの。ちょっとした警備隊くらいの人数はいるわ」
「すごいわね……」
「皇女殿下のおままごと、なんていう者も多いけれどね」
「ひっどーい……」
山の中に入っていく。昨日と同じポイントに近づいてくると何やら重々しい空気が漂っている。
「何か、いるわね」
「ええ。この雰囲気は当たりっぽい」
徐々に近づいていく。変なにおいまでしてくる。音を立てないように近づいていき、昨日と同じように洞穴を確認する。
「……何、あれは」
「異形ね……」
洞穴にすっぽりと入るような感じに大きいイノシシのような魔物がいる。ただ、その魔物の口からは得体の知れない液体が垂れていて、腹も信じられないほど膨らんでいる。
「あ、あれを狙えばいいんだよね……」
セイラは緊張しているようだ。無理もない。体が震えている。
「緊張しないで、セイラ。私たちがついているわ」
一度ぎゅっと抱き締めてから撫でて、緊張を解く。呼吸を整えさせるために背中を優しくさする。
「どう……?落ち着いた?」
「……ありがとう。落ち着いた」
「外れても、私たちがいるもの。気を楽にして」
ゆっくりとセイラが弓を構える。
「この私が命じます。セイラ・スグルデンの言葉にて、来たれ槍、行くぞ槍」
地面から槍が出てくる。金属光沢の美しい槍だ。
「放つ、放つ、放て。この槍を持って、獣は倒れ伏す!」