激しくなる予感
「えぇっと……何で私を挟んで二人とも黙ってるの?」
「安心するから繋いでるだけよ」
「姉様の手が暖かくて気持ちいいので……」
「そ、そう」
真顔でそんなことを言われると私も言い返すことはできない。しかしあんまり無言だとだんだん沈黙がつらくなって来る。何で二人ともそんな真剣に言うのよ。
「ね、ねぇ……?」
「何?」
「姉様?」
とりあえず手を離そうにも思ったより力が強くて離せない。
「まぁいいわ……。でも、次の試合ってそんなに時間空いてないわよね?」
「あぁ、そうねぇ」
ちょっと上を向いて考えるエイリーン。
「私とレイはさっき休憩できたから前の試合みたいにエイリーンがサポートにまわる?」
さっきあれだけの大立ち回りをしたんだし疲労も確かに残っているはず。いくら彼女とは言え連続であんなことをしたらパフォーマンスは落ちそう。
「そろそろ相手も私達より強いチームが出てくるから……どうしようかしらね」
「相手の前衛が多いと難しいことになりそうね」
と言うかそもそも相手が強いと同じ人数でも私とレイだけで戦えるかは分からないか。
「残っている人たちを見ても経験豊富そうな三年生、さらにその上ばっかりですね……姉様」
レイも珍しく少し不安を感じているみたい。
「弱気になっても解決しないから勝てると思って作戦を立てるしかないんだけど……」
「って言っても、さっきまで見たいな勝ち方はできないしね」
「そうねぇ」
珍しくエイリーンがなかなか答えを出さない。
「どうしようかしらね」
「……よしっ!」
私の手を離してスッと立ち上がって私たちの前に出てくる。
「ここからは三人で前に出て戦いましょ!」
「わかったわ」
隣でレイもこくこくとうなずいている。
「特に、一人で一人を対応するんじゃなくて三人で一斉に狙って確実に仕留めに行くわよ!」
「お、おぉ……!」
さっきより作戦っぽい作戦かもしれない。思い切りがよくなったおかげか心も前向きになった気がする。
「それでも勝てるかは半々ってところかもしれないけどね……」
「ん?何か言った?」
「いいえ。なんでもないわ」
何かボソッとエイリーンが言ったような気はしたけど気のせいだったみたい。
「ミアたちもだいぶ勝ち上がってきましたね……」
「すごいですよね!新入生でここまで残ってるのあの三人しかいませんよ」
ノアも少し興奮気味にそう伝えてくる。実際一年生でこの種目を勝ち残るのはそんなに例が多いものではないと思う。本戦に出場できるのはさらに少ない。
「え、エイリーンさんって……あんなに強いんだ……すごい」
私の隣で小刻みに震えながら何かつぶやいているエトラは通常運転だろう。
「とはいえ、ここから先はさらに厳しいと思いますわよ」
「そうなんですか?勢いに乗っているし、勝っちゃいそうな雰囲気ありますけど」
頭に?を浮かべながら尋ねてくるノア。一旦お茶を飲んで喉を潤してから言葉を紡ぎ始める。
「彼女たちが強い、ということは確かなんですけど……ね。正直当たってる相手も運がいい方で比較的弱かったですわ。名簿を確認してみても、ここから先の戦いは強さが跳ね上がっていると思いますの」
残っているチームの名簿をノアに渡す。
「確かに経験豊富そうな上級生が多いですね……」
「単純な強さだけじゃ勝てない、って状況が多くなると思いますわ」
とはいえ、一年生でここまで来れたら十分来年以降も期待できるし上々な結果なんだけども。
「……あのエイリーンが優勝以外で満足するとは思えませんわね」
「き、きっとあの三人なら……か、勝ってくれます!」
エトラは一体どこから取り出したのかわからないが応援グッズを取り出して準備万端そうだ。
「そう、ですわね。私達には応援しかできないんですし……全力で応援して帰ってきたらお疲れを言ってあげることが一番でしょうね」
彼女の姿勢が一番正しい気がした。私たちは所詮観戦者でしかないのだ。
「私ももっと応援します!」
ノアもどこから取り出したの……?そんな応援グッズ。
そんなことを考えていたら対戦相手が発表された。
「あら、これは……」
「ふぅん……」
対戦相手が判明したところでエイリーンが少し険しい顔をする。
「三年生ね」
名前を見るに私たちと同じ全員女性っぽい。一体どんな人たちなのか気になる。
「聞いたことある人もいるわね。近接攻撃が尋常じゃなく強かった気がするわ」
「そんなに?」
エイリーンにそこまで言わせる存在とは。
「ま、勝てないこともないと思うし全力で行くわよ。いい?」
「ええ」
「もちろんです!」
私もレイも元気よく返事する。こちらのできることはしたし、あとは勝つだけ。