ちょっとの油断
「やっと出てきたわね……」
攻撃が終わって少し休憩していたら、案の定相手が出てきた。私はだいぶボロボロになってしまったが何とか退場にならないように耐えきった。
「貴女たち、一年生の癖によく私たちの攻撃を耐えきったわね。褒めてあげるわ」
「あはは……大した火力じゃありませんでしたから、ね」
本当は結構つらかったけど。
「ふぅん。その割にはずいぶんボロボロだけどね」
そう言って頭に魔法のステッキのようなものをこつんと当ててくる。ちょっと声色が怖くなった気がする。
「最後に言いたいことはある?」
少し怒った風な雰囲気を出しながら聞いてくる先輩とやら。
「私、まだ退場してないんですよ。先輩」
ぐっと私とレイは逆方向に一気に加速して先輩から一瞬だけ距離を取り、一気に近づいて袈裟斬りを叩きこむ。
「嘘っ……生意気……!」
先輩は血を流しながら驚いた表情を浮かべる。
「レイ、そっちはどう?」
「完璧です。退場させましたよ!姉様」
どうやら彼女は一撃で仕留め切ったらしい。私はまだ先輩の息を止められなかったからまだまだ技量の差がある、というところか。反省。
「二人ともよく耐えたわね」
エイリーンはもう一人の首根っこを掴みながら扉から部屋に入ってくる。引きずられている子は気絶しているみたいだ。
「二人だったから耐えきれたのよ」
「やっぱり貴女たちを組ませて正解……ってミア、後ろ!」
「えっ……?」
エイリーンがそう叫んだ瞬間私の首を軽く締めながら小刀を握った右手が目の前から迫ってくる。
「生意気な後輩は……道連れよ!」
そのまま左目に直撃する。痛い。視界が真っ赤に染まる。そのまま後ろに引っ張られて二、三回体を刺された後その手が止まる。
「あっ……あぁっ……」
へたへたっと地面にへたり込んで激痛を響かせる目を抑える。初めての経験で信じられないくらい痛い。血も止まらずどばどばと出てきている。
「ね、姉様!」
「さっさと終わらせて戻った方がよさそうね」
「ですね!」
だんだん呼吸が早くなってきて自分が今息を吸っているのか吐いているのかもわからなくなってきたところで視界が急に真っ白になり、元の世界に戻される。
「ミア?」
背中をトントンっと軽く叩かれたところで現実に戻ってきたことを知る。と同時に左の視界がクリアに戻っていることに気付く。手のひらを見てもさっきのように赤く染まってはいない。
「あ、戻ってる……」
だんだんと呼吸が落ち着いてくるのを感じた。二人が背中をさすってくれているおかげで血の気も戻ってくる。
「最後ちょっと油断しちゃったわね」
「そ、うね……」
まさかあの状態でまだ動けるだなんて思わなかった。速やかにとどめを刺さなければいけなかったか。
「とはいえ、試合内容としては悪くはなかったわね。二人とも先輩の攻撃をしっかり耐えきっていたし、攻撃に移行もちゃんとできていたし」
「だったら落第ではなさそうね……」
「もちろん、私の目にはずっと合格で写っているけどね」
「そ、そう……」
あまりにもまっすぐ言われるからちょっと恥ずかしくなった。
「お二人とも、いったん控室に戻りませんか?ここ、邪魔になりそうですし」
レイがそう言って私たちの裾をちょいちょいと引っ張る。確かにここはほかの生徒も戻ってくるし早めに帰った方がいいかもしれない。あと、経験上今の試合相手に突っかかられる前に逃げた方がいい。
「そうね、戻りましょっか」
そう言って二人が手を引いて私を立ち上がらせてくれる。
「どう?落ち着いた?」
「ええ。だいぶ」
控室の椅子に座って改めて呼吸を整える。別に私の体が傷ついているわけではないが、さっきの攻撃が少し感覚として残っている気がしないでもない。
「まさか、あんな状態で貴女に攻撃をするとは思わなかったわね……。粘り強いというか」
「そうね……ちょっと油断してしまったわ」
「まぁいいのよ。今回一度受けたんだから次失敗することはないじゃない」
前向きに変換してくれるエイリーン。少し心が楽になる気がする。
「そう言ってくれると……楽になるわね」
「それに、次の試合は貴女たちに休んでもらえるようにするわね」
「楽しみにしておくわね」
「いったいどんな試合になるんでしょうね、姉様」
「さぁねえ……」
本当に想像は付かないけど彼女の事だしきっと本当に私達の動く暇はないんだろう。
「うわぁ……すごい」
私は何でこんなところで試合を見ているのかはよくわからないけど、事実目の前で巨大な映像が流れている。その中ではミアさんが目を何回か刺されて血まみれになっているしレイさんは制服をボロボロにされつつも相手をしっかり倒している。二人ともかっこいい。
「エトラさん……だったわよね。もうちょっとこっちに寄ってみてもいいのよ。そこじゃ見にくいでしょう」
「そうですよ、エトラさん。お茶菓子もありますし」
ロベリアさんとノアさん……だったっけ。私なんかよりずっと綺麗で明るい素敵な人たちだ。手招きされては私も抵抗ができない。うぅ……いいにおいがする。
「それにしてもミア、最後油断しましたわね。あんな痛々しい姿になって……」
「そういうところもかわいいですよね……」
「それはそうですけど。いざとなったとき、ちょっと怖いですわよ」
「そんな時は私たちが支えればいいんですよ、ロベリアさん!」
私を二人して挟んで会話をしている。さっきまでのチームメイトと違ってとても温かくて居心地がいい。私なんかがこんなところにいてもいいのだろうか。こんな夢みたいなところ。いいのかも……。このお茶おいしいし、お菓子もおいしい……。レイさんの雄姿も見られるし一生この幸せが続けばいいのに。