試合の合間
「ね、姉様っ!姉様!」
目が覚めたらそこはすでに試合の終わった元の世界の会場だった。レイがへたり込んだ私に抱き着いて、まるで生き別れたくらいのテンションで話しかけてくる。
「生きてる……よかった!」
「ぇ?……ちょっとレイ?……大げさじゃない?」
「大げさじゃないです!いくら死なないとはいえ……!」
いったい何があったのか。私は最後エトラに勝って……キスされて……。
「そうだ、エトラは!?」
「ここにいるわよ」
その声を聴いて振り返るとエイリーンに後ろから抱き着かれながら真っ青になっているエトラがいた。ほっぺたがちょっと赤い。
「ちょ、ちょっとその頬……。まさかレイ」
「ち、違います!」
あんなに慌てていたしまさかやりすぎだと叩いたのかと思ってしまった。早とちりしすぎた。
「あ……あの、これはさっきリーダーが……」
「あ、あぁ……」
「エトラのせいにしてほっぺた叩くなんて人格までひどいわね。思わず捕まえて連れてきちゃったわ」
「あ、あばばば……」
少しぎゅっとエイリーンが抱きしめるたびに顔を青ざめさせる。まだ身分差に慣れていないみたい。まぁいずれ慣れるだろうけど。
「それにしても私……最後、何があったの?」
エトラに最後キスをされた後の記憶が全くない。
「ふふっ。エトラって最後まであきらめないで、素敵な子よ」
エイリーンがそう言って微笑む。
「あの……そんなすごい事じゃないんです……ほんとに」
「負けた、ってわかったから……最後の力で……ミアさんの体液を全部凍らせて……えへへ」
「こ、凍らせる?」
ちょっと照れながらすごい恐ろしいことを言われている気がする。
「は、はい。氷を作るって……相手の体の水でも、行けるんです……。ただ、直接体液に触れないといけないので……。その、唇を……」
さっきまで青ざめていた彼女の顔は少しずつ紅潮していく。唇を指でちょっと触りながら思い出してるみたい。
「それで……私は一瞬で」
「う、うまくいったので……。多分心臓とか破裂しちゃって……痛くしてごめんなさい……」
思わず自分の胸に手を当てる。よかった。ちゃんととくんとくんと鼓動を感じる。とはいえ冷や汗が頬を伝う。
「あの後レイがすごい取り乱して大変だったのよ」
「うっ……申し訳ないです」
今度はレイがしょんぼりとする。
「まぁ、割とすぐに立ち直ってくれたからよかったけど」
正直私も目の前で妹が即死したら正気ではいられないと思う。あんまりこの点では妹に何か言えることはないかも。
「私、エトラに凍らされた後一瞬で視界が真っ暗になったからどんな姿になってたのか……想像するだけでぞっとするわね」
「ご、ごめんなさい……」
「あ、いや。責めてるわけじゃないのよ」
「私なんかが口づけしちゃって……」
「そっち……?あんまり気にしてないけど」
正直キスはもう結構慣れた。妹がスキンシップの一環でたまにしてくれるし、エイリーンも顎クイしてキスをしてくることがある。
「ほ、ほんとですか……?」
「ええ。一つ仲良くなれた気がする……わね」
ちょっとだけキスが怖くもなってしまった気もするけど。
「えへ……えへへ……。仲良くなれちゃった」
「新しい仲間、増えたわね」
「ですね」
またちょっとだけ赤くなってテンションの上がっているエトラとうんうんと頷いて満足そうな二人。
「でも、次の試合ってエトラは試合……」
「あ、はい。皆さんの応援……します!」
「一人でいたらまた危ないかもしれないわね」
エトラがふんっと気合いを入れながらどこからか応援グッズのようなものを持ち出していたらエイリーンが少し心配そうにエトラの頭をぽんぽんと撫でる。
「ロベリアのところに連れて行ったら?あの部屋なら安心でしょ」
「それも考えたけど……エトラ、のびのびできるかしら」
「あー……」
「一応、迎えは呼んでるのよ」
「お嬢様、どうされましたか」
いつの間にかエイリーンの後ろにメイドが立っていた。
「ねぇ、エトラ。ここじゃまたあなたが怪我するかもしれないから私の借りた部屋で応援して欲しいのよね」
「か、借りた部屋……監禁ですか……⁉」
「ちゃんと窓付いてるわよ!広い部屋だし!」
急に真っ青になったエトラ。表情豊かだな……。
「ほら、このメイドが案内してくれるから。どう?私たちの友達もいるし……」
「こ、怖い人じゃないですよね」
こちらを見て若干助けを求めるようにこちらを見つめる彼女。
「ええ。いい子たちよ」
「とっても優しいですし、おいしいものも食べられますよ」
「お二人がそこまで言うなら……」
「じゃ、連れて行ってあげて」
「かしこまりました」
「頑張ってくださいね!」
手を振りながら遠ざかっていくエトラの事を見送った。反対側の手でメイドの手をぎゅっと握っていてかわいい。
「また、変わった子が仲間になったわね……」
「それミアが言う?ふふっ」
「ちょっ……どういう意味よエイリーン!」