害獣駆除
「では、依頼する任務を確認しますね」
渡した通神文を見ながら何やら確認をしている。
「はい、確認できました。お三方……ミアリーンさん達にはこの腕章をつけて頂いて、国境沿いの山々に発生している害獣を駆除していただきます」
そう言うと赤い腕章を三つ渡してくる。
「今回の任務は帝国側との共同任務なのでこの腕章で分かりやすくしています。あちら側も同じ腕章をしているので協力して討伐なさってください」
そのあと、報酬の確認などをして解放された。とりあえず当面の宿を探して出発の準備をしようか。
「帝国の人ってどんな感じなんだろう」
「セイラは帝国の人にあったことないのね」
「あんまり外に行ったことなかったからね」
「なるほど。と言っても大きくは変わらないわよ?」
「そうなの?ちょっと意外かも」
いったいどんな印象を帝国の人間に抱いていたのだろうか。
「なんか強そうな響きだしお堅いイメージがあるのよね」
「なるほどねぇ……お堅い感じかぁ……」
そう言えば昔にあった帝国のあの子は元気にしているのだろうか。やんごとなき身分の子だったはずだから今回会うことはないだろうが。
「多分そんなに私たちとそう変わらない人ばっかりよ。ね?ネイ」
「ええ」
いつもの通り評判のいい宿に泊まって、明日からの英気を養うことにする。ここでちょっとグレードの高い宿に泊まってしまうのは貴族生活の癖が抜けないからなのかもしれない。
「ここの宿もベッドがふかふかで嬉しいなぁ~」
セイラは枕に顔をうずめてリラックスしているようだ。
「ミア様。明日使う予定の馬車を調達してまいりました」
「ありがとう。ネイ」
少しだけ討伐目標のいるであろう地域が遠いため馬車をネイに用意してもらった。必要経費なのであとでクランに言えばその分のお金も貰えるだろう。
「ミア様。明日に備えるためもうお休みになられては?」
「……そうね。そうするわ」
いつもならまだ眠る時間でもないがとなりのセイラも寝息を立てていることだし私も休むことにしよう。
翌朝、陽の高くならないうちに街を出て馬車で出没地域の近くの村まで向かう。
「風がひんやりしてて気持ちいいね」
「たまには朝に出るのもいいわね」
馬車の操縦は相変わらずネイに任せてある。いつものような穏やかな運転で助かる。
「にしてもこの辺りは開けているのね」
「確かに。農耕地ばっかりで人家が見当たらないわね……」
国境地帯で紛争が起きたときに拠点化されたら困るからだろうか。
「ねぇミア。あそこが今回の任務の場所?」
指さす先には山地が広がっている。普通の街道はこのままふもとに沿って平坦な道を行くのだが、今回は村から山の方に入っていく。
「そうね。あそこあたりの害獣を討伐するようよ」
「害獣……害獣かぁ……」
「普通のイノシシとかと違って明確に敵意を持っているっぽいわね。もう、一種の魔物というべきかしら」
「んー……なるほど?」
村に到着すると馬車を預かってもらい装備を整える。
「剣の準備も良し……!消耗品も良し……!」
「ミア様。いつでも行けます」
「セイラは?」
「準備万端!」
「じゃあいこっか」
村人に山に通じる道を教えてもらって、大通りから徐々に外れていく。山のふもとには焚火の跡や人の足跡が多くある。
「ふもとに野営した跡があるね」
「他の冒険者もここらへんで活動しているようね」
「気を付けましょう。敵は害獣だけではないかもしれません」
「そ……そんなこと、ない……よねぇ?」
セイラがこちらを見て尋ねてくる。
「無くはないと思うけれど……気を張り詰めすぎてても疲れちゃうから程々にしましょ?」
少し山の中に入っていくと人の足跡の中に獣らしい足跡もいくつか見える。
「むやみやたらと獣を狩るわけじゃないのが難しいわね」
足跡を追いながら歩いていると目の前の草陰がガサガサっと揺れる。そこから勢いよく黒い塊が飛び出てきて目の前で唸り声を上げる。
「アレって……流石に対象よね」
「そうね……」
明らかに黒いオーラのような物をまとっているし、敵意むき出しでこちらを向いている獣は害獣だろう。
「じゃあ、撃つね!」
セイラの矢が獣の脳天を貫通する。獣の足はふらつきながら体を支えられなくなる。
「流石ね、セイラ」
「ふっふ~ん」
いつものセイラのドヤ顔にも慣れたものだ。すると、死骸の後ろに新しく二体の獣が現れる。似たようなオーラをまとっている。
「何匹来ても同じよっ!」
同じように矢が飛んでいく。それと同じタイミングでセイラの後ろから獣が襲い掛かろうとしてくるのをネイの長刀が貫く。一気に三匹の獣が無力化された。
「思ったより連携して襲ってきますね……」
血を振り落としながら呟く。
「後続は来ないみたいね」
獣の死骸を踏み越えてさらに山の奥へ進んでいく。しばらく進んでいくと少し開けた場所に出る。
「……ここは村人の休憩する場所のようね」
少し大きめの石が座れるように置いてある。草も多少刈られているようで人の手が入っていることが分かる。
「なんかちょっと血の匂いがするね」
「あれかしら……」
目線の先には血塗れた草が森の方に続いている。何かを引きずった後だろうか。いやな予感がする。すると、その嫌な予感が的中したのか獣の吠える声が四方八方から聞こえてくる。
「囲まれたわね……」
茂みから出てきた獣はざっと数えて20匹ほど。皆が皆黒いオーラを相変わらずまとっていてすぐにでも襲ってきそうだ。
「ミア様……」
「やるしかないわね」
セイラが矢を放つと同時に獣たちも襲ってくる。