厳しい連戦
剣とレイの肩を支えに立ち上がって相手の方を見る。なかなかの実力者っぽいのでこのまま勝ち切るには時間がかかると思う。やはり旗を手に入れたし逃げるが勝ちだ。
「姉様、魔銃は私が回収しておくので先に逃げられますか?」
「……そうね、任せてもいい?」
「もちろんです」
結構満身創痍の状況だし、余裕のありそうなレイに任せた方がいいと思う。
「行くよ」
くるっと振り返って全速力で来た道を走り出す。
「あ、逃げた」
「追いかけるわよ!」
相手の虚はつけたみたいで一瞬の差が生まれる。
私は一直線に川を渡って茂みに逃げに行く。レイならきっと私の姿を見落とすことはないだろう。川に足をつけて、半身を沈めながら急いで渡る。細かい切り傷に水がしみるけど我慢。あとちょっとで渡り切れそう、とその時顔の横を矢が通り過ぎた。
「危なっ」
渡り切るまでに何発か飛んできたけど幸い命中はせずに茂みまでたどり着く。ガサガサっと茂みに入ってしばらく走り続けて、いいところで木に体を隠して呼吸を整える。
「レイ……いる?」
「ここにいますよ、姉様」
私の魔銃ケースを抱えたレイがすぐ隣で反応してくれる。
「よかった。追っては来てなさそう?」
「ですね。川を渡るのはやめたっぽいです」
それも一安心。ほっとして思わず息が漏れる。
「ほんと、手間かけさせてごめんね」
「いいんです。姉様が粘ってくれたおかげでこれも取れたので」
旗をぽんぽんと叩く妹。
「そう言ってくれると助かるわ」
「それより姉様のお顔に傷がついてないかの方が心配です」
「どうせ戻ったらきれいになってるし大丈夫よ」
とは言ったもののまだじんじんと痛むし、下半身はぐっちょぐちょに濡れていて気持ち悪い。
「あと一つ……うまく取れるかしらね」
「地形と人数が大丈夫なら取れるとは思いますが……」
「エイリーンには申し訳ないけど無理そうだったらいったん帰りましょっか」
「それがいいと思います!」
方針は決まった。軽くスカートを絞って不快感を減らそうとするけど、結局下着まで濡れているからあんまり変わらない。
「……下着、捨てていこうかしら」
どうせ仮想空間だし、不快感を減らして集中するためにもありかもしれない。
「ね、姉様⁉」
「どうせ戻ったら下着はつけたままだし……替え持ってきてないし……」
「だ、ダメです!」
「そ、そう?」
「そうですよ!そんなはしたない事……させられません!」
そこまで顔を真っ赤にして慌てて反対されると流石にやめた方がよさそう。せめてパンツだけでも捨てたかったけど。うぅ……ちょっと気持ち悪いけど我慢。今度から替えを持ってこようかな。
「じゃあ、最後の陣地の様子見にいこっか」
少し休憩して服の水分をできるだけ飛ばした後に魔銃ケースを背負ってそう言う。方位磁石はさっきと違う方向を指している。多分最後の陣地だろう。
「準備万端です!」
「ふぅ。このあたりかしら」
さっきとはうって変わって崖の目の前に陣地がある。
「人数は……一人っぽいですね」
「すでに戦闘の跡もあるし、撃退したのかしら」
謎の氷柱が地面に突き刺さっている。ほかにも地面が一部でこぼこになっていた。
「レイ、行けそう?」
「姉様と一緒なら」
「なら行きましょっか」
できるだけ有利に立ちまわりたいしギリギリのところまで近づいてみる。なんだかほんのり気温が下がった気がするけど気のせいだろうか?ちょっと寒い。アイコンタクトをして左右から同時に襲い掛かる。
「とりゃあ!」
陣地を守っているのは小さい子だしこのまま……!と思った瞬間私の剣は氷を斬っていた。
「えっ⁉」
さらに、氷柱が私に飛んできたので斬り落としつつ少し距離を取る。いくつかの氷柱はレイが落としてくれた。
「あ、ありがと」
とはいえ彼女も同時に対処されたらしく、私の隣に戻ってきていた。どうやらこの子、氷を自在に操るタイプの魔法使いらしい。急激に陣地の気温が下がって濡れた制服に氷がつき始める。
「凍っちゃえ……!」
その言葉を合図にさらに急激に周りの気温が下がり始めた。私とレイの制服が凍り始めて動きにくくなる。
「姉様、これは……急いでやらないと二人ともやられちゃいます!」
「そ、そうね」
レイが先に一歩を踏み出して、相手の子に近づこうと攻撃を加える。氷柱を破壊しつつ一歩、また一歩と近づいていく。私は彼女の死角から飛んでくる氷柱を破壊してサポートを行う。
「きりがないわね……」
近づけば近づいていくほど体は動かしにくくなるし、どんどん冷えてきて集中力も奪われる。攻撃が相手に届いている実感もないのでこのまま攻撃を続けていてもこっちばっかり消耗する気がする。
「……もうっ!濡れてから来る場所じゃなかったわね」
「文句は後です姉様!」
妹の攻撃はどんどん速度が上がっていってだんだんと距離を詰められるようになってきている。
「姉様、少し任せます!」