想定外の陣地攻め
そのままもう一人の防御の子がいたであろう相手陣地に入り込むが特に防衛機構はなくあっさりと旗を持って帰ることができそうだ。
「なんだかあっけないわね」
「一応攻め手の選手が帰ってくるかもしれないので注意しないとですよ、姉様」
「それもそうね」
すっかり心が油断してしまっていた。あぶないあぶない。
「ふぅ……残り二つくらいね」
「この勢いのまま行っちゃいますか?姉様」
「そうねぇ……エイリーンも一人で守るの大変だろうしさっさと旗を回収して戻ることにしましょうか」
一応危なそうなら連絡が来るようにはなっているけど今のところないし彼女の強さはわかっているつもりだからもう少しだけ任せておいてもいいだろう。
「了解です、姉様。じゃあ……お手を」
「え?」
レイが突然私に手を差し出してくれた。
「その、姉様……少しお疲れですよね?さっきも少し何もないところで躓きそうになってましたし……」
「あ、バレてたか……」
妹の言う通りさっきそこで躓きそうになってたのは本当だ。さっき魔銃で援護射撃をした後あたりから思ったより疲れてしまったみたい。
「情けないわね……あれだけで疲れちゃうなんて」
「普通の人だったらあんな射撃できませんから……むしろ立ってるだけでもすごいと思いますよ」
妹は優しく慰めてくれる。少し心が楽になったけど、よくよく考えたらこんなところで油を売ってる場合じゃない。
「……ありがとね、レイ」
そう言って彼女の手をぎゅっとつかんで立ち上がる。
「いえいえ。それじゃあ行きましょう」
彼女に軽く引っ張ってもらいながら平原を駆け抜ける。しばらく進むと川に囲まれた陣地が見えてきた。ちょっと離れた茂みから陣地の方を偵察するけど川から行くのが一番良さそう。濡れるのは嫌だけど茂みが近くまで続いてるのがあそこしかない。
「陣地の場所の引き運もあるんですね……この競技」
「最初のうちだけだと思うけれどね」
一対一のチーム戦になればそんなに陣地の守りやすさは変わらないはず。詳しくは知らないけど。
「ほかのチームが攻めてくるのと同時にどさくさに紛れて攻めるのもいいとは思いますけどどうでしょう……?」
「楽に攻めるならそれもありね……ただほかのところが来るのを待つ以上エイリーンの負担が増えそうで悩ましいわね」
ほんの数分だけ待ってみるのはありかもしれない。
「というかほかのチームはいったいどこ攻めてるんでしょうね?ほとんど見かけませんけど」
「すれ違ってるのか……私たちのところを攻めてるのか……どっちかかしらね」
「そう考えると早く片付けて戻るべきでしょうか……」
私の選択次第でちょっとかかる時間が変わりそう。川を渡って服が濡れてしまうと戦闘にも影響が出るだろうし……。
「うーん……少しだけ待ってから攻撃してみましょうか」
「わかりました。姉様」
しばらく陣地を眺めているとどうやら陣地には二人残っているらしい。さっきまでの所とは方針が違うみたい。
「陣地を二人で守ってるのね……同じ人数だと少し大変そうかも」
「姉様、近接戦闘は大丈夫そうですか?」
ちらりと私の手を見る妹。昨日の競技の怪我の影響で少し痛々しくは見える。
「……まぁ一、二回なら大丈夫だと思うわ」
「であれば一対一で戦いつつ先に終わった方がすぐに駆け付ける感じで戦いましょう」
「そうね」
唯一川でふさがれていないほうを陣地防衛の子たちは守っているようなので川の中から入ればもしかしたら奇襲はできるかもしれない。
そんなこんなで五分ほど陣地を眺め続けていたけどほかのチームが攻めてくるような予兆は現れなかった。
「うーん……ちょっと待ってみたけど誰も来なそうね」
「ですね、姉様。そろそろ攻撃しちゃいますか?」
「そうねぇ。これ以上待っても時間を無駄にしちゃいそうだし」
方針は決まった。茂みの中を少しづつ進んでいって音を立てないように川のほとりに近づく。
「濡れるのを避けるのはできなさそうね……」
「そこまで深くはないですから、あきらめて渡りましょう姉様」
「そ、そうね」
魔銃のケースは水がそんなに入りやすい構造ではないけど一応濡れないように持つ。気づかれないようにゆっくりと川に入る。靴の中に水が入ってきた。冷たい。
「うげ……思ったより深い」
さらに進むと最終的に肩くらいまで浸かりながら歩いていく。立って渡れば腰くらいで済むだろうけどバレたくないししゃがみながら渡ってきたのだ。下着までびっしょり濡れてしまっている。ちょっと気持ち悪い。たまに滑りそうになるけど何とか渡り切って対岸の川岸まで到着する。
「……体が重い」
「姉様、こちらです」
こそこそと数少ない茂みの後ろに隠れて一旦落ち着く。
「全身濡れて気持ち悪い……」
「ですね……」
とはいえ動けないレベルではないし、さっさと攻撃して落ち着く方がいいかもしれない。
「じゃあレイ、攻撃を仕掛けるけど……いけると思ったら旗を回収してさっさと撤退しちゃうのもありだからね」
「わかりました。回収したら姉様にお知らせしますね」
一旦魔銃のケースを茂みに隠す。多分邪魔にしかならないし。
「じゃ、私から攻撃仕掛けるから……よろしくね」
「了解です。姉様」
茂みから顔をのぞかせてこっちを向いてないのを確認する。剣を抜いて少しずつ旗の下にいる子に近づいていく。砂礫の地面なので気を付けないと派手に転んでしまいそう。
「……ふぁ~。誰も来ないし暇……」
「ちょっと!気を抜かないでよ!」
「はいはーい!」
どうやら敵さんは少し暇そうにしている。このままいけば奇襲はうまくいきそう。と、思ったその時。じゃりっと少し大きめの音が響いた。
「あ、やべ……」
「……?うわっ!?」
最後の最後でばれてしまった。反省は後で、とにかく相手に攻撃を仕掛ける。