最後の種目とその先
結局出場した全員が帰ってきたので一旦落ち着いて休憩をする。レイもいったん離れて、私の隣に落ち着いている。
「私とノアは競技終わったしゆっくり応援させてもらいますわ」
ロベリアはお茶を傾けながらそう言う。
「私たちも最後の競技ね。本番だと思って行くわよ!」
「作戦は……変えずに行くの?」
私の手の怪我を考慮すると変えた方がいいようにも思えるけど。
「いえ、このまま行くわ。勝てなそうなら私も追加して一気に殲滅するわよ」
エイリーンの立てる作戦は攻撃重視でわかりやすい。指示に従う側としては動きやすくて助かる。
「とはいえフラガエストの最初の数戦は参加者を減らすために特別ルールで戦うことになりますわよ?いくら貴女とはいえ複数チームに攻撃されたら大変じゃありませんの?」
そう。普通は1チーム3人同士で戦う競技ではあるけど、時間がかかるものではあるから選抜の最初のうちは複数チーム、6チームくらいを一度に戦わせるらしい。
「大丈夫よ。ミアの魔銃をうまく使って戦うわ。それにちゃんと一人でも守れるような作戦は考えてるもの」
「なかなかの自信ですわね」
「まぁ見てなさいな」
ふふんと胸を張るエイリーン。正直作戦を聞いたとき、彼女のできることの多さに驚いたのは覚えている。果たして私はどこまで活躍できるものか。
「姉妹の連携に期待してるわ。旗を取りまくってちょうだいね」
「ええ!姉様と一緒にほかの全員の分旗を分捕ってきます!」
「……最初の方は半ば荒らしに近いですわね、きっと」
ロベリアは何かを悟るように遠い目をしている。
「そうだ、選考会が終わったらミアたちの部屋でお疲れ様会しましょうよ」
いつもの突然の皇女殿下の提案が始まった。
「え?あぁ……そう言うの楽しそうね」
「せっかく家具も搬入しましたしちょうどよさそうですわね。レディに伝えさせますわ」
手が早い。私まだいいよって言ってないのに。でも、打ち上げみたいなのって結構あこがれがある。
「試合を終えた姉様を慰労しますね!任せてください!」
「皆試合出たんだからお互いにお疲れ様でいいのよ」
「ミアたちの部屋、楽しみ~」
ノアはワクワクと楽しそうにしているし。まぁ、たまにはこういう息抜きも大事かもしれない。
「……じゃあ、ロベリアにお願いするわ。ネイにみんなで部屋に行くわねって伝えておいてほしい」
「承りましたわ」
心なしかロベリアもワクワクしているみたい。普段からしっかり者の彼女もこういう時は人並に女子高生というかなんというか。
「今のうちに食べるものとか用意させた方がいいかもしれないわね」
「街の方に使いを出してふさわしいものを見繕っておかせますわよ」
「本当?ありがたいわね」
「貴女たちは試合があるんだからとりあえずそっちに集中しなさいな」
ごもっともだ。さすがにここで気が緩んで最初に負けましたじゃ話にならない。終わり良ければすべて良し。終わりがよくなきゃダメなのだ。
しばらく話していたらクルセオも佳境を迎え、遂に決勝を迎えていた。戦っているのは三、四年の先輩。私はよく知らないけどロベリアたちは知っている人みたいだ。この学院でトップレベルの実力者。いつかまみえることもあるだろうか。
「さて、私たちもそろそろ準備しましょうか」
そう言ってお茶を飲みきって立ち上がるエイリーン。
「もうこんな時間なのね……ちょっと緊張してきた……」
「ここで緊張してどうするのよ、もう」
「仕方ないじゃない……足引っ張りたくないし」
ただでさえ少人数の戦い。一人の失敗が致命的すぎるんだからそりゃ緊張もするというもの。
「大丈夫よ、ミア。練習の時はうまくいってたんだから!いざとなったら私たちが助けてあげるし安心なさい!」
「そうですよ姉様。三人で息もぴったり合いましたしいざとなったら私たちがいるんですよ!頼ってください!」
二人とも優しく私を励ましてくれる。確かに考えすぎなのかもしれないけど頭をよぎってしまう。大失敗してしまってからその後二人が冷たい視線を送ってきたらなんて。絶対に二人ならそんなことはしないのはわかっている。でも無駄な思考が頭をめぐってしまうのだ。
「第一、もっと仲間を信用するべきだと思いますわよ。ミアは」
「そうそう!うまくいかなかったときの事ばっかり考えてもしょうがないわよ?誰も責めたりしないわ」
「それはわかってるんだけどね……うーん」
「……わかったわ」
少し返答を濁していたら突然目の前が真っ暗になっていい匂いがした。さらに背中をトントンと軽く叩きながら撫でてくる。
「落ち着いた?ミア」
「あ……うん」
最初に来たのは驚きだったけど、ほのかな温もりといい匂いと優しい手つきのおかげでさっきまでグダグダ考えていたことが吹き飛んでいた。
「あんまり考えすぎないで、いつも通り楽しくやるのよ。わかった?」
「う、うん」
「よしっ!」
エイリーンがぱっと離れて満足気にしている。
「とはいえ、ミアの自分への自信のなさは何とかするべきね。選考会終わったら本番までに何か対策考えなきゃいけなそうね」
「ですわね」
「ですね」
「確かに」
私以外の四人が同じタイミングで頷いている。そんなに私って自信なさげなのか。
「ってもうそろそろ時間じゃない!ほら立って立って」
急かされながらも私の魔銃と剣を身に着ける。だんだんこの制服にもなじんできた気がする。
「準備できたわよ」
「私もです!」
「じゃあ行くわよ~!」
「活躍を楽しみにしてますわね」
「三人とも頑張ってね~!」
ロベリアとノアに見送られながら集合場所へ向かった。