課題と約束
「なんか、すごい見ごたえがあったね」
「そうねぇ……レイの本気もめったに見ることなかったし、先輩の魔銃の使い方も勉強になったわ」
手に汗握る試合とはこういう試合のことを言うのだろう。実際に手汗がちょっとすごかった。少し恥ずかしい。とりあえずお茶を飲んで一息つこう。
「レイ……大丈夫かしらね」
「怪我はしないんじゃないの?」
「それはそうなんだけどね……気合いだいぶ入ってたみたいだし、落ち込んでたらどうしよう」
「それはもう、ねぇ」
何かを言いたげに私の体をじーっと見つめるノア。
「な、何よ……」
「膝枕の一つでもしてあげればいいんじゃないかなぁ。うん」
「ちょっと……真面目な話なのよ!もう」
「負けちゃった……」
先輩に当たったとは言え、まだまだ戦えると思っていたけど負けてしまった。姉様にどんな顔をして会おう。せっかく勝つって約束したのに。しばらく呆然としてその場にへたり込んでしまった。
「あら」
その硬直を解いたのはアル先輩の声だった。
「こんなところで座り込んでたら制服が汚れちゃうわ」
そう言って手を差し伸べてくれる。その手を握るとグイっと引っ張ってくれて、その勢いのまま抱きしめてくれる。
「さっきの試合、お疲れ様。とても楽しかったわ」
「……先輩、強かったです」
軽く制服をぽんぽんとはたいて埃を落としながら続ける。
「二年生だもの。一年生に情けない姿は見せられないわ。とはいえ……だいぶヒヤッとしたけれどね」
「むぅ……」
「貴女みたいな強い子が今年はいっぱいいるし、未来は明るいわ。よかったら今度一緒に訓練でもしない?」
「いいんですか?」
「もちろん。ここを案内した仲だし、これからもずっとかかわっていくでしょうからね。何より……」
「何より……?」
ちょっと言葉を詰まらせる先輩。そして少し恥ずかしそうに口を開く。
「その……貴女たち五人の事、だいぶ気に入ってるのよ……だからこれからもよろしく、ね」
急にきれいでかっこいい先輩からかわいい先輩に様子が変わった。頼れる先輩の意外な一面かもしれない。
「は、はい!」
「じゃあ……また今度ね」
そう言って体を離して、最後に頭を軽くなでて出口へ向かっていった。姉様以外に撫でられるの……ちょっと新鮮。
「姉様ぁ……!」
「おかえり。レイ」
私の隣をぽんぽんと叩いてこっちに座るように促す。すると、半ば飛んでくるように私の隣にぼふっと座って手を握ってくる。
「よく頑張ったわね。しっかり見てたわ」
いつものように軽く頭を撫でながらほめてあげる。と思ったら彼女の目元にじわっと涙があふれてきた。
「れ、レイ⁉」
「勝てなかったの、悔しかったです……!せっかく姉様が見てくれてたのに……」
「あと一歩、届かなかったものね……」
軽く抱きしめて背中をトントンと叩いて落ち着かせつつ言葉を続ける。
「でも、アル先輩の技に初見であそこまで対応できるなんてすごいわよ。これから一緒に練習しましょ?私もレイに見合うくらいに強くなりたいし、ね?」
「姉様……!」
レイがちょっと顔を上げてこっちを見てくれる。
「と言っても、私があのレベルの魔銃を使いこなすまでにレイが先にいっちゃいそうな気もするけどね……あはは」
自分で言ってて情けなくなってきた。
「とにもかくにも、私たちにはまだまだ伸びしろもあるし時間もあるんだから焦らず頑張りましょ?」
頬をかきつつそれっぽいことを紡ぐ。とはいえ本心であることも事実。このグループの中でただ守られるだけの存在でいたくはない。
「そう……ですね、姉様。私もっと強くなります」
そう言って私の胸元に顔を埋める。ほのかに鼻をくすぐる妹の匂い、この子を支えていきたいというそんな気持ちが溢れてくる。
「頑張ろうね、レイ……」
そう言って何秒立っただろうか。しばらくぎゅーっと抱きしめてレイを感じていたら耳元で突然呆れた声が聞こえた。
「……いつまでやってるんですの?」
「あんまりイチャイチャを見せつけられると困るわ」
「あっ……いつからいたの?」
そこにはさっきまで戦っていたはずのロベリアとエイリーンがいた。
「美しい姉妹愛を発揮しているところかしらねぇ」
「こちらが恥ずかしくなるくらいでしたわ」
「全部見てるじゃない……!まだ二人が帰ってくるまで時間あると思ってたのに」
「仕方ないでしょ。負けちゃったんだから」
「あと一歩で取れたはずでしたのに……未熟でしたわ」
驚いたことに二人が負けてしまったらしい。てっきり決勝あたりまで進むものだと思っていた。この学院を舐めていたみたいだ。まだまだ強い人はたくさんいるようだ。
「もっと強くなりたいし、さっきミアが言ってた練習に付き合わせてもらおうかしらねぇ」
「私も参加させてもらいますわ。負けるのは悔しいですもの」
二人とも向上心の塊だ。まぁレイと一緒に練習するとなったら二人も来るだろうし、場所も使いやすいだろうからちょうどいい。
「……それにしても、いつまで抱き合ってるの?」
「あ、えっ……レイが満足するまで?」
「日が暮れますわよ」