全力で
先の戦闘から魔銃の弾を変えて一撃の威力を重視するようにした。というわけで先ほどまで彼女が立っていた場所に爆発が起こる。多分とても痛いだろうけど勝つためだし仕方ない。
しかし、土煙が晴れたところでそこには大剣があった。体を剣に隠してしのいだらしい。
「あの一瞬で……」
即座にもう一発を放つが同じく弾かれる。
「硬すぎでしょ」
あきらめて次の一発を少女の右側に撃ち込む。地面が爆発して爆風で攻撃する作戦だ。
「ん……考えたね」
そんな声が聞こえたと思ったら目の前に大剣が現れていた。あの一瞬で距離を詰められたらしい。魔銃を捨てて思いっきり右に避けて剣を抜く。
「反応速度もいいね」
轟音が響いたと思ったらさっきまで私のいた場所は地面がえぐれていた。多分当たったらいくつかに私が分裂していた気がする。
「まともに当たったらヤバいわね、これ」
「ヤバい?」
自分に強化魔法をかけて相手にどう打ち込むかを考える。私が攻めていかないと多分ジリ貧になってしまう。こんなこと考えるより先に動かなきゃ。
「……ふっ!」
逆に私が今度は距離を一気に詰めて剣をたたきつける。当然相手が大剣で防いでくる。一回防がれたところであきらめない。何度も叩きつけていく。しかし彼女の姿勢はほとんど崩れない。
「今度は私から行くよ。後輩ちゃん」
少し距離を開けてしまったところで間髪入れずに彼女が迫ってくる。攻撃の隙を一気に詰められてしまった。重い一撃が左から直撃する。ギリギリ剣で受けきることはできた。しかし、完璧な姿勢で受けきることはできなかったので体勢を崩しつつ右に吹き飛ばされる。
「強化掛けてるのに……」
相手もおそらく強化はかけているだろうけどここまで威力のある一撃を貰うとは思っていなかった。
「よく今の受けられたね」
対戦相手はまだまだ余裕のありそうな表情をしている。一方の私は既に息が上がりかけていて限界が近そうだ。
「……たぁっ!」
体力の限界は近いけど一瞬の勝機を掴むために攻める。下からの切り上げ、左右からの斬撃に突きを挟みつつ体重を乗せた上からの叩きつけ。しかしどの攻撃も彼女に届くことはなく、巧みな大剣捌きに翻弄されている。
「まだまだ……っ!」
そして放った突き攻撃。相手に向けてほぼ当たるコースと思った。
「おしいね」
彼女は体験を浅い角度で当ててきて、剣先が逸らされたと思ったら腹部に強い衝撃が来た。
「かはっ……⁉」
そのまま二、三回殴られたと思ったら最後に蹴りを食らって思いっきり吹き飛ばされた。まさか体術にも長けているなんて。呼吸が苦しいし視界がほんのりゆがんでいる。
「まだやる?」
「ま、まだ……剣を離してはないから……!」
体中が悲鳴を上げているし正直もうやめたい気持ちもある。だけど、エイリーンたちと上で会おうって約束したしまだ戦えるのにあきらめたくはない。
「ふぅん」
体の限界を超えるレベルの強化を一瞬掛けて一気に加速する。足が信じられないくらい痛いけど対戦相手の後ろに回り込むことに成功した。そして、相手の背中を狙っての横薙ぎ一閃。
「お……」
しかし、相手の姿を捉えることはできなかった。剣先は相手の服をギリギリ当たらずに空を切って通り過ぎる。相手は地面に刺していた大剣を中心にくるっと回転して避けたらしい。次の瞬間には私の剣が甲高い音を上げて跳ね上げられて吹き飛んでいた。
「……ぁ」
そしてそのまま大剣が私に迫ってきて右腕の上から袈裟斬りされる。と、同時に視界が真っ白になって現実世界に戻される。膝から崩れ落ちてしばらく何も考えられない。さっき斬られた部分を触るけど、安心した。ちゃんとつながっている。
「負けちゃった……」
勝ち抜け方式だから一度でも負けたらその時点で終わりだ。正直一年目でここまでこれたのも奇跡に近いというものだがあそこまで手も足も出ないとは思わなかった。あれが本当の闘いだったら多分殺されていた。
「皆に顔向けできないなぁ……」
私ってほんとに一人だと弱い。みんなに助けてもらって何とか生き残っているのをひしひしと感じた。
「お、いたいた」
自分の中で思考がマイナスな方に寄って行きそうになったところで後ろから声をかけられた。
「試合、お疲れ様」
さっきの対戦相手の生徒だった。もう戻ってきていたらしい。
「いい戦いだったよ。一年生なのにあそこまで強いと思わなかった」
「先輩こそ、ほとんど攻撃も当てられなくて……びっくりしました」
「まぁ、経験の差かな?多分一年の時の私より君は強いし、しっかり経験を積んでいけばもっと強くなれると思う」
そう言って、へたり込んでる私に手を差し伸べてくれる。その手を握ると、思ったより柔らかくてあったかいのに驚いた。グイっと引っ張ってもらって立たせてもらう。
「特に、最後のは私も焦ったよ」
「まさかかわされるとは思いませんでした」
「もうちょっと丁寧に、効率よく強化できてたら反応できなかっただろうし……実際、驚いたからこそ寸止めできずに斬っちゃったしね」
あの袈裟斬りは本気でやった結果のものだったのか。だとしたら一瞬でも本気を出させたのは嬉しい。
「そう、だったんですね」
「だから、これからも頑張って実力を伸ばし続けてくれ。また戦いたい」
そう言って背伸びをして私の頭をポンポンと撫でてくれる。
「それじゃあ、また。……そうだ後輩ちゃん、君の名前なんだっけ」
「ミアリーンです」
「ん、じゃあミアだね。私はルーナ。好きに呼んでくれて構わないよ」
そう言って控室に戻るために出口へと向かった。私も早く荷物をまとめて応援部屋に戻らないと。それにしてもルーナ先輩、独特の雰囲気のある人だったな。