接戦
「二人とも出てきたわね!」
エイリーンは変わらず皇女様っぽい恰好をビシッと決めている。一方対面に立つのは赤い目と小さな羽が特徴的な白い髪の、こちらも制服をビシッと決めた少女だ。
「身長高っ……」
ここから見ると170㎝は超えていそう。エイリーンよりも高い。魔界の剣術っていうのは見たことないけどどんな感じなんだろうか。
「あれ……?あの羽って使えるの?」
「体の一部であれば使えますわよ」
「っていうことは飛ばれるときつそうね」
「でもエイリーンなら経験ありそうですけどね、姉様」
それは確かに。何なら経験が一ミリもなくても持ち前の第六感とかセンスとかで対応してしまいそう。
「ほんとにかっこいいわね……」
相手の選手が身長高くてきりっとした顔でついついぼーっと見つめてしまった。そこら辺のイケメンよりかっこいい。麗しいというべきか。
「……そんなにぽーっと見てるとエイリーンに言いつけますわよ?応援をないがしろにして相手選手に見とれてたって」
「な、なに言ってるの⁉見とれてなんか……!」
バッと振り返ると三人とも、じーっと呆れるようにこちらを向いている。レイも⁉
「姉様……ほんのり頬が赤かったですよ」
「いくらかっこよくても友達の応援をないがしろにするのはなぁ……」
「し、してないから!ほっぺた赤くもなってないし!」
弁解すればするほど墓穴を掘っている気がする。
「ほ、ほら!試合始まるしこの話終わり!」
三人のジト目をごまかすように試合を見るように勧める。
試合開始の合図が出ると同時にエイリーンが相手の懐に入り込んで横薙ぎしようとする。今までに見た中で一番早かった。踏み込んで薙いだ後、そのまま前に進むようにして一回転しながら追撃をたたき込もうとしているみたい。
「早っ……!」
しかしその一太刀目は空を切った。相手の選手は体勢を崩したように後ろに倒れたように見える。追撃を叩かれてそのまま終わるかと思った瞬間、彼女の体は平行移動していた。二撃目はそのまま相手の鼻先すれすれを通り過ぎてそのまま甲高い音とともに、なんとエイリーンの剣が跳ね上げられていた。
「嘘でしょ⁉エイリーンが!?」
「あら……」
顔は見えないけどエイリーンが今回初めて自分から距離を取ったかもしれない。
「うまく羽を使われましたわね。もしかしてエイリーンも初めてなのかしら」
「やっと強い人が対戦相手にあらわれた……ってことかぁ」
「羽を使って少し飛んでいたように見えましたね、姉様」
「普通の人と違う挙動されるのつらそう」
ちょっと距離を離したエイリーンは少し相手を観察して、もう一度切りかかる。今度は体で剣を見えないようにしつつ至近距離まで迫っていく。そして切り上げるように剣を振り上げる。
「今度こそ……?」
相手も同じように羽で少し浮いて後ろへ避ける。しかし、今度はエイリーンの剣がするりと手の中を滑って、剣先がずれて相手の髪を切る。
「当たった⁉」
「ちょっとミア……落ち着いて」
ロベリアに座るように促されるけど彼女の戦闘センスがとんでもなくて興奮してしまう。
「ほらほら、お茶飲んでお菓子食べて?」
「試合はまだ続きますよ、姉様」
左右からノアとレイにお菓子を食べさせられて口の中が甘くなる。少しテンション上げすぎたかもしれない。とにかくエイリーンに頑張って欲しい。
「やるわね……」
また距離が離れてしまったが、今度は私が攻撃を受けてじゃない。一歩前進だ。髪を切れただけ今回は良しとしよう。しかし魔界の剣……あんなにうまい人と戦うのはこれが初めてだから経験がない。
「ここで負けるわけにはいかないし……飛ばれないようにするべきよねぇ」
次はどんな手で攻めようかと思ったら、今度は相手の方がこちらに迫ってきた。
「上等ね……!」
相手の剣に合わせて打ち合う。相手の打撃、結構重い。打ち合うたびにどんどん速く重くなってくる。ここまでついてくるなんて流石……!剣戟の音が高く響いているのを感じつつ、どんどん速くなっていって私の腕も追いつかないくらいになってくる。
「くっ……!」
なんと私が弾かれた。最後の方はほとんど追いつくので精いっぱいだった。魔法なしであんなことできるなんて……。私もまだ鍛え方が足りないわね。
「皆にかっこ悪いところ、見せたくないわね……」
泥臭くてもいいから勝たないと。体力はこっちが不利。速さでも不利。一撃で相手の裏をかいて決めないと勝ち目はないかもしれない。
「行くか……っ」
今までミアたちに見せたことない剣を見せるときが来たかもしれない。私の一撃必殺の剣。
「はぁっ……!」
最初と同じくらいの速度で相手に迫っていく。また一歩踏み込んで一撃横薙ぎ。今度は右から左へ。
「……ふっ!」
タイミングをずらして切り始めたので剣先が掠りかける。そして二撃目をたたき込むためにその勢いのまま少し飛び上がる。全体重を乗せての縦回転一撃。
「食らいな……さいっ!」
見せたことのないこの一撃をかわすのはもちろん、受け流すことなんてできないはず。相手も受ける構えをかすかに見せている。勝った……!
しかし、次の瞬間私の視界は地面を映していて首筋にふっと冷たい気配。
「あちゃあ……」
負けてしまったのを悟った。
「試合終了!」
審判の声が響いて、ふっと体の力が抜けた。
「おっと……大丈夫?」
肩をそっと抱いて私を立たせてくれる相手の選手。顔を上げると少し土埃で汚れた端正な顔が見えた。ちょっと心配そうに、お疲れ様といった労いが見える。
「ええ、ありがとう……負けちゃったわね」
「ほんの少しの差よ。これ」
そういって自分の羽と左腕を見せてくる。羽は少しボロボロに、左腕は制服がきれいに裂けていてきれいな白い腕が少し赤くなっている。
「一年にここまで追いつめられるとは思ってなかったわ。次はわからないわね」
そういって微笑む相手。
「先輩の胸を借りた、ってとこかしらね……。次は勝つわ、ええと……」
やばい、相手の名前がぽろっと思い出せない。
「カンナって呼んで。次の機会も楽しみにしてるわ、エイリーン」
「ありがとう、カンナ」
そう言って二人とも剣をしまって退場する。万雷の拍手を浴びながら。