一休み
結局ロベリアもノアもクッキーを食べさせて欲しそうにしてきたので一つづつ放り込んであげた。今度は指を食べられないようにさっと指を引かせた。
「……おいしい?」
「まぁ、おいしいですわね。私の従者がさっき焼いたものですし当然といえば当然ですけれど……」
「うん、とってもおいしい!これならがんばれそう!」
二人とも満足そうで何よりだ。なんというかいたずらっ子ぽさがないからこっちの方が素直にうれしいかもしれない……。
「じゃあ、行ってくるわね!」
私によっかかって休息をとっていたエイリーンがぴょんと飛び上がって剣を手に取って制服をピシッと着る。いつものイメージの彼女だ。さっきまで弓術勝負を休日にテレビを見るような体勢でだらっとしていたのに。
「頑張ってきてね!」
「ええ!応援頼むわよ!」
「行ってらっしゃい」
彼女が出て行ったあと部屋は一気に静かになった。
「すっかりペースを乱されてしまいましたわね」
そう言って私の隣に座るロベリア。いつの間にか私の両隣が埋まっている。
「エイリーンは私たちの中だと引っ張ってくれる方だからまぁ……そこがいいところとも言えるわよ。……うん、いいところのはず」
「いいところではありますけど……」
ちょっと勢いを落ち着かせてほしいときもないといえば嘘にはなる。
「なんか観客席の空席がちょっと目立ってきたわね」
弓術競技が終わったと思ったらいつの間にか人が少なくなっている。
「貴族の子弟が剣術やりがち、ってことですわね。参加者は今までと比べ物にならないくらい多いですわ」
「そんなに多いの?私たちの競技やる時間あるのかしら……」
「それに関してはあまり問題はないですわ。会場をすべて使ってるはずですから一斉に競技開始して次々人数が絞られていくようになってますもの」
聞いている限り結果的にほかの競技と大して時間はかからないみたい。
「でもそれだとエイリーンの競技だけ見るっていうの難しそうね」
そんなに会場が複数で一斉に行われると目の前のスクリーンじゃ見切るのは難しそう。
「それに関しても心配いりませんわ。彼女の試合が見られるように映像をここだけ変えてもらうようにお願いしておきましたから」
「えぇ……」
そんなことまでできるのか。このお嬢様の底が知れない。
「全力で彼女を応援してもらって構いませんわ」
「後でずーっとみられてたなんて言われたらちょっと照れるかもね」
「むしろ、全部見てくれたんでしょ?くらいに思ってるかもしれませんよ、姉様」
確かに全然あり得る。そういうことに関しては疑いなくそう思ってそう。ともあれこの学院の剣術自慢たちが集まるってことは後で私が出る競技でも当たる可能性があるってことだ。しっかり確認しておこう。
「そんなに気合いを入れなくても映像は逃げませんわよ……?」
そして、画面にエイリーンが移り始めた。入場が始まったみたい。
「なんか最初の方の相手がちょっとかわいそうね」
「どうして?」
キョトンとするノア。
「だって一国の皇女様よ?いくら貴族とはいえど普通の子なら緊張しそうなものじゃない?」
「それは確かに……」
「私なら何も知らないで当たったら緊張していつもの力が出せなくなりそう」
どっちにしろ彼女はとても強いので勝てるかはわからないんだけど。
「むしろロベリアさんくらいの方が緊張しませんか?姉様」
「ど、どういうことですの」
「あー……ちょっとわかる」
「どういうことですの⁉」
ロベリアがキレた。
「ほら、ロベリアくらいの有力貴族の人って人脈広そうだし勝っちゃって機嫌を損ねたら何されるか……」
「王族なら気分で何でもできるじゃありませんの」
「王族の人は一挙手一投足見られがちだからあんまり短絡的なことしなさそうって言うか……」
「……私はそんなことしませんわよ」
ちょっと不機嫌にさせてしまった。
「ロベリアがそういうことしないっていうのはわかってるわよ。あくまで例として……ね?」
じとーっと見てくるロベリア。機嫌をどうにか治してほしい。
「あ、エイリーンの競技始まるわよ。ほらほら」
困ってしまったので競技を見ようという口実で彼女の腕をぎゅっと抱き寄せて胸に少し押し付ける。レイはこれで喜んでくれるから何とか……。
「……まぁ、いいですわ」