勝負の行方
「エイリーン勝ったよね⁉」
二人がゴールした直後、思わず興奮して詰めるようにロベリアに聞いてしまう。
「ちょ、ちょっと落ち着いて……!」
びっくりしたように体をのけぞらせて顔を離す彼女。
「ね、姉様落ち着いてください。きっと勝ってますよ……!」
ここからだとほとんど同着に見えたし実際一位と二位の順位だけ確定していない。なんでこういう時に焦らしてくるかなぁ。
そして暫くしてから順位が表示されたところ、一番上にエイリーンの名前はなかった。コンマ数秒で彼女の負けだったみたい。
「あー……惜しかったですわね」
「勝ったと思ったんだけどなぁ……」
正直ほかの上級生に差をつけて勝っているのでその時点ですごいのだけれど、エイリーンが負けるなんてあんまり考えられなかった。というか自分でもびっくりするくらい応援に力が入っていた。
「まぁ、新入生でここまでできれば十分ですけれどね」
「それもそうですよ!」
ノアは何とか場の雰囲気を盛り上げようとしてくれる。
「まぁエイリーンが帰ってきてからお疲れを言ってあげればいいんじゃないですの?褒めるなり慰めるなり……」
「まぁ、そうよね……」
あれだけ自信満々な彼女だ、一位になれなかったという結果でどのくらい落ち込んでいるか想像もつかない。ここからもまだ競技は続くから、あまり気を落としすぎないでほしいと思う。
と思ったらすぐに彼女は帰ってきた。
「ただいま」
ほんのり湿った髪をふわっとさせながら私の隣に座るエイリーン。プールの授業を思い出すような塩素のにおいはしない。そこはちょっと違う。
「お帰り。エイリーン」
いつもと変わらないような雰囲気でお茶を飲む。あんまり落ち込んではなさそう?
「その……惜しかったわね」
「そうね……あとほんの少し届かなかったけど、あの人に確実に追いつけることはわかったわ」
落ち着いているように見えて彼女はやっぱり目の奥に次は負けないという火が灯ってるのがわかる。
「応援にもつい気合が入っちゃうわね……次こそ頑張ってね」
「貴女たちが応援していてくれたのはしっかり届いたわよ。って言うか……」
「ん?」
「私の水着、どうだった?だいぶ気合い入れたんだけど」
ちょっとそわそわしてると思ったらそれを聞きたかったのか……。
「すごい似合ってたわ。あなたらしい気品に溢れてると思う」
「とっても上品で素敵でしたよ!」
「……あなたらしいですわ」
三者三様に褒める言葉を紡ぐ。
「……やっぱりあの水着にして正解だったわね!」
私たちの誉め言葉を聞いて顔を明るくするエイリーン。チョロいというかかわいいというか。
「次出る競技は……また、エイリーンだけが出るみたいね」
純粋な剣術の競技に出るみたい。私の出番はそのあと、強引に参加することになった魔法武器何でもありな競技だ。
「そうね。一競技挟むし休む時間は十分あるから大丈夫そう」
「ゆっくり休んでくださいね」
「ありがとう」
レイが出来立てのお菓子を持ってきてくれる。ロベリアの従者が焼いてきてくれたみたいだ。
「あら、嬉しいわ。……そうね、できれば食べさせてくれると嬉しいわ」
ちょっといたずらっぽく微笑むエイリーン。こんなクッキー一つくらい手を伸ばして口に放り込むだけなのに。……ちょっといたずらっ子な、甘えるような目でこっちを見てくる彼女。そう、私はこういう目に昔から弱いのだ。妹たちのせいでそういう体に作られてしまっている。
「食べさせてくれたら次の競技も頑張れる気がするわねぇ」
「姉様、私にも!」
「はしたないですわよ全く……」
そういうロベリアも二人を止めてはくれないのだが。
「……わ、わかったわ。こんなことで頑張ってくれるならやるけど……」
目を閉じて口を開けてる二人を見てると雛の餌付けみたいだ。そーっとクッキーを二人の口に入れると、すぐにぱくっと口を閉じて私の指ごと食べてしまう。
「ちょっと⁉」
軽くやわらかな舌でなめられたらすぐに解放されたけど、二人ともほぼ同じ速度で私の指を咥えてきた。
「ん、甘くておいしいわね」
「もう……!」
にんまりといたずらっ子の顔になったエイリーンを見て思わずぷいっと窓の方を向いてしまった。