水上の皇女
ロベリアを三人で落ち着かせてソファーに座らせる。
「……落ち着いた?ロベリア」
「ええ……少し熱くなってしまいましたわね」
「言いたいことはとてもわかるわ」
「流石にびっくりしたよね。いきなりスカートめくるなんて……」
温かい紅茶を飲みながら私たちも一息つける。
「まぁ、後で言いたいことは言えばいいし一旦エイリーンの応援しましょうか」
そろそろ競技が始まるくらいの時間だ。選手入場が始まる直前だし観客席も大きく盛り上がっている。気持ち男の人の割合が多い気がする。男女混合なのに……そんなに水着が見たいのかな?
「さっき下は見ちゃったけどどんな水着を着てくるのかしらね」
「最近の傾向としては水着展覧会の側面もあるし可愛らしいものを着てくる子もいますわね。と言ってもあくまで競技なことには変わりないし最低限ですけれど」
「となると機能性重視なのかしらねぇ。エイリーンらしいといえばらしいかも」
と、そんなことを話していたら観客席から歓声が上がった。選手が入場してくるみたい。大まかに見た感じ8人ずつレースをして最終的に順位を決めるトーナメントのようだ。一人ずつレーンへ向かって歩いてくる。女の選手は手を振ったりして愛想がいい。最初の二人はパレオタイプの水着に胸元フリルでかわいく決めている。
「ああいう水着も結構かわいいわね」
「……ミアじゃちょっとサイズが合わないんじゃない?」
「装飾が可愛いってこと!あのまま着るわけじゃないわよ!」
ノアが私の胸元と選手を見比べながら珍しくツッコんできた。ちょっと恥ずかしい。
「姉様はかわいい系もいいですけどかっこいいシュッとしたのも似合いそうですよね」
「そ、そう?」
私の来たことのある水着なんて学校指定の水着と小さいころに着たかわいいやつだけだ。友達がいなかったから海に行くなんてイベントがなかったとか言わせないでほしい。
ちょっとだけ心に傷を負ったところで下の方からまた歓声が聞こえた。エイリーンが入ってきたみたい。
「来たわね」
「歓声がすごい……」
さっきまでのかわいい水着を着た生徒と男子生徒とはうって変わってかっこいい系の水着である。さっきちらっと見えたハイレグが結構急角度でちょっとどうなんだと思うけど腰パーツにサイドスカートをつけてドレス風にキマっている。
「なんか……すごいかっこいいわね」
「私たちの前であんなのでも皇女殿下ですからね。しっかりと決める場所では決めるんですよ、姉様」
あんなのって……。いやまあ私たちの前では結局やりたい放題のお嬢様だけど育ちがいいんだなぁ。
「エイリーンの後に出てくる生徒、かわいそうですわね」
確かに。あれの後は雰囲気にのまれてしまいそう。
「というかどうやって競技始めるのかしらね」
プール競技ではあるけど飛び込み台みたいなのはないし、何なら五メートルくらいプールサイドから離れている。
「まぁ見てればわかりますわ」
ロベリアは教えてくれないし。とりあえず、全員の入場が終わってレーンごとに並んでいる。各々自由な感じに立っている。陸上のスタートのような雰囲気ではない。
「ほら、始まりますわよ」
スタート戦の横のお立ち台に先生が立つ。この世界でもスタートピストル見たいなの使うんだ……と思いつつ彼があげた腕を見る。軽い破裂音が聞こえたと思ったら一斉に八人がスタートした。
最初のプールサイドでスタートダッシュを成功させたのは男子生徒。体格もいいしさもありなん。そしてそのままジャンプしてプールにドボンと行くかと思ったらそのまま滑り出した。サーフボードがないのにあるように滑っていく。
「おお……!」
飛び込みとは違う水しぶきが大きく上がってどんどん加速していく各選手。最初の加速ではエイリーンの順位は真ん中くらい。
「エイリーン頑張って……!」
「結構早いわね……」
そして最初のコーナーに差し掛かったところで動きがあった。少し先頭の選手のコースが膨らんで速度が落ちたところで、エイリーンが伏せ位の角度で体を傾けて一気に内側を刺して言った。強引に曲がったせいなのか思いっきり水しぶきを外側にまき散らす。
「うわ……えげつない」
他の選手が一瞬ひるんだところで、一気に加速して距離を離す。サイドスカートがロケットエンジンの噴射口みたいに見えてきた。
「勝負ありましたわね」
「そ、そうなの?まだ半分行ってないけど」
「今まで見てきた試合であれだけ距離離して逆転したのを見たことありませんし……それにあの強引な位置取りをできるならここからの半分は余裕ですわよきっと」
ロベリアはもう勝ちを確信したみたい。
「そうなんだ……」
「というかエイリーン、あの子直線で本気出してないですわよ多分」
「うっそ」
「本戦であの速さだと多分追いつけませんわ」
ていうことは、あのパフォーマンスは完全に見せつける用ってこと……?私が同じ走ってる選手だったらただぶっちぎりで負けるより心に来るかもしれない。
そんなことを考えてたらものすごいスムーズにくねったコースを通り抜けていって後続との差が開いていく。サイドスカートがひらひらとひらめいてまるで妖精みたい。そして、そのまま余裕たっぷりにゴール。
「まぁ選考会だとこんなものですわよね」
知識通みたいな顔してうんうん頷いているロベリア。私ももっとやらない競技見て知識をつけておけばよかった。
「す、すごかったですね姉様……一瞬も目を離せませんでした」
反対にレイは圧倒されているみたい。正直私も彼女と同じ感想。何回か見に行っているはずの彼女も驚くくらいエイリーンの走りはすごかった、と思う。
「むしろこれで本戦じゃ遅いっていうなら本戦はどうなるのかしらね……」
「まぁまぁ、それは後での楽しみに、ね」
ロベリアが遮ってお茶を入れてくれる。眼下では一人競技を終えたエイリーンが客席に手を振っている。ファンサービスも忘れないとはさすが。