気合いの入る贈り物
さて、いよいよ二日目。手は少し痛むけど剣は振れそう。一応魔銃と剣の両方を持って寮を出る。
「待ってましたわ」
「ごめん。待たせた?」
ロベリアがVIPの部屋に通じる通路の前で待っている。私たち三人がついたころにはすでに立っていた。
「待ってませんわ。今来たばかりですもの。じゃあ、行きますわよ」
「お願いするわ」
そう言って先導してくれる。階段を上って扉を開けるとふわっと涼しい風。外が暑いわけではないけどこのくらいの気温が一番過ごしやすい。
「あ、やっと来たわね!」
元気な先住民がいると思ったらエイリーンがいた。いや、何でいるのよ。
「な、なにやってるの?もう競技の集合かかるんじゃ……」
「それはそうなんだけど~……ちょっといいもの持ってきたからみんなに渡そうと思ってね」
そういってごそごそと後ろの棚からケースを取り出す。
「何……?水着もうできたの?」
仕事速すぎない、エイリーン。
「それじゃないわよ」
ちょっと呆れ半分で答えた彼女がそのケースを開けると十人分くらいのブローチ付きネックレスが入っていた。宝石がいくつもちりばめられていて、銀で作られた五センチくらいのブローチがついている。
「これって……」
「前にお母様が贈ってあげるって言ってたアクセサリーよ!」
「……綺麗」
「あら、素敵ですわね」
皆目の前のきらめきに思わず圧倒されてしまった。一人を除いて。
「せっかくなら私たちの結束を高めるために今のうちに渡そうと思って。集団競技も多いしね」
確かに彼女の言うことには一理ある。昔、体育祭とかあったときクラスTシャツとか鉢巻とか作ってた記憶がある。私はあんまり興味がなかったけど前よりも明確に当事者になると結構テンションが上がってくる。
「ほら、レイ。これをつけてあげて?」
そう言って一つを手に取ってレイに渡す。
「ね、姉様後ろ失礼しますね」
「ん。ありがと、レイ」
髪をかきあげてネックレスをつけやすいようにする。ついでに制服のジャケットも前を開ける。
「ん……」
首元を彼女の手が触ってちょっとだけくすぐったい。そして胸元に少しの重量が感じられた。
「……はい、もう髪下ろしても大丈夫ですよ姉様」
「ありがとね、レイ。私もつけてあげるわ」
「ありがとうございます」
さっきと同じことをレイにしてあげる。首筋ってあんまり普段見ないけど結構綺麗ね……。
「ん、これでつけられたわ」
二人してエイリーンに見せて、プチファッションショーを始める。彼女はいつの間にかネックレスをつけていて、こちらをいろいろな方向から観察している。ちょっと大物プロデューサーみたいに顎に手を当てて見ているのちょっと面白い。
「どう?似合ってる?」
「ええ!二人ともとてもよく似合ってるわ!私の見立て通りね!」
「どうですの?」
「ど、どうですか……?」
少し遅れてロベリアとノアもつけて見せてくれる。二人とも似合っててかわいい。ロベリアはお嬢様らしく風格が合っているし、ノアはちょっと居心地の悪さを感じているみたいだけどすぐに慣れるだろう。そのちょっとの照れがあるのが初心でかわいい。
「うん。二人ともいい感じね」
「貴女も似合ってますわよ、ミア、レイ」
「やっぱりみんなの方が似合ってる気がする……」
「あら、私は褒めてくれないの?」
褒めあっていたらエイリーンも褒めてほしそうに会話に入ってきた。こういうところがかわいいんだよねぇ。
「もちろんエイリーン、貴女も似合ってるわよ」
「さすが皇女様って感じの雰囲気出てますよ」
「あら、そう?嬉しいわ」
満足気にうんうん頷いている。
「で、この余った分は……」
「ええ、貴女の従者とかセイラに渡す分ね。ロベリアはあとでレディ呼んで渡しておいて欲しいわ」
「貴女から直接渡してあげた方がいいんじゃないんですの?」
「とりあえず早く着けてみてほしいし、私競技あるし」
「そうじゃない、エイリーン早く行かなくていいの?」
こんなところで和気あいあいと褒めあってる時間なんてないはずじゃ。こんなので失格にならないでほしい。
「あぁ、それなら大丈夫よ。ほら、私下に水着着てるし」
そう言って急にぺらっとスカートをめくってくるエイリーン。すべすべで雪のように白くて触り心地の良さのありそうな太ももが開示されたかと思ったらハイレグの水着がこんにちはしてきた。眩しい……!
「ちょ、ちょちょっと⁉何してるんですの⁉」
「え?ここには身内しかいないんだから別に見られてもいいわよ。どうせ後でちょっと装飾着けたら外で見られるんだし」
「そういうことじゃないですわよ⁉この馬鹿皇女!」
私も何か言いたかったけど珍しくヒートアップしたロベリアが言いたいことを全部言ってくれる。
「えぇ……?私の太もも結構綺麗な線だと思うんだけど」
本気で困惑しているエイリーン。彼女には羞恥心とかないのか?
「そうじゃないわよ!そうやってペラペラとスカートをめくらない!」
「皇女なんだしあんまりはしたないことはしないでよ」
私とロベリア二人がかりで説教する。
「心配しないでも貴女たちの前以外じゃやらないわよ」
「あぁもう……!なら早く行きなさいな!競技に遅れますわよ!」
「あ、そうね。行ってくるわ!応援するのよ~!」
何かまだ言いたそうなロベリアを置いてエイリーンが颯爽と部屋を出ていく。もうちょっとこう、つつましさを持ってほしい。いきなりスカートをめくるなんて心臓に悪い。