思わぬ勝利
「……よしっ」
最後の的を壊し終わった。どうやらさっきの遅れが響いて三位で折り返すことになったみたい。急いで片付けて後半に行かないと。
「これ放置もまずいわよね……」
破損した一般タイプの魔銃もケースにしまう。ちょうどいいしあとでイオナに見てもらおう。何が問題だったのか調べてもらいたい。
「これで良しっと」
小走りで次の会場に向かう。
狙撃レーンではすでにほかの生徒が射撃を始めていた。初めてこんな景色を見たかも。そんな感動は置いておいて、準備を急ぐ。準備中、突然ずきっと手が痛んだので確認したら思ったよりたくさん血が出ていた。といっても今手当をしてる暇なんてないし放っておくしかない。
「……気づいちゃうと痛いかも」
魔銃を取り出して構えると意識が鈍痛を放つ右手に引っ張られる。いや、的を見て集中すればこんな痛み……。
「ふぅ……」
息を吐いて引き金を引く。大丈夫そう。しっかりと的を砕いたことを確認して、続けて発砲していく。魔法防御なんてなんのその。動かない的なんてどんどん砕いていく。あっという間に動く的に移った。これなら一位も全然狙える。
「これなら……!」
今の順位は私にふさわしい一位。ぽっと出の下級貴族なんて恐れることなんてない。私くらいの力があればあの女の魔銃に細工をさせるなんて朝飯前。さっきちょっとだけ視界の端に写ったけど予備を使っているようだったし手を怪我しているみたい。あの調子じゃもう戻ってくることなんてないでしょ。
「ふん……っ!」
少し指に力をこめつつ引き金を引く。私のこのきらびやかな銃から放たれる弾。決勝の的に強化が入ったとはいえ私の実力ならよほど端に当たらなければ砕ける。次々と引き金を引いては破壊していく。
「……余裕ですわっ!」
一発一発撃って弾が的に吸い込まれていく感覚がたまらなく気持ちいい。撃つごとに私の優勝が近づいてくる。
的が動いてくるけど私レベルなら少し狙って二、三回引き金を引くだけで当たる。
二位の子も私の息がかかった子、間違いなく代表はいただきですわね!
「よしっ……!」
最後の的を穿ってランプが点灯したのをスコープから確認して立ち上がる。
「やりましたわっ!」
そうして隣のレーンにいるであろう二位の子を見ると、まだ競技をしていた。ちょっと大変だったかしら。まぁ、余裕をもって私は抜けただろうけど一応順位表を見てみる。
「……えっ?」
そこに映っていたのはあり得ない結果だった。
「これで、最後……っ!」
だんだんとずきずきと手が痛んでくるけど最後の動く的を狙って引き金を引く。きれいに吸い込まれて行ってランプがつく。
「……ふぅ」
スコープから目を離して肩の力を抜く。何とか一番最初に競技を終わらせることができたみたい。
「よかった……これでみんなとおんなじ場所に立てそう」
一旦深呼吸をしてちょっと浮かれた心を落ち着かせる。緊張が抜けてさっきよりも手が痛いし血も思ったより出ている。早く片付けてみんなのところに戻って手当てしてもらおうかな。そう思って使った魔銃をケースにしまう。だいぶ持ち手が血で汚れてしまっている。ちゃんと拭かないとなぁ。
「やりましたわっ!」
突然隣の隣のレーンからそんな声が聞こえる。びっくりした。どうやら貴族の子らしい。なんか貴族の子があんなに大きい声出してるの珍しい気がする。ロベリアはあんなことはしたないって言ってしないし。……まぁいいか。片付けも終わったし早くみんなのもとに戻ろう。おなかすいた。
その時はその子の驚いたような視線には気づかなかった。
「とりあえずミアは無事に一位で終わることができましたわね」
「本当によかった……姉様」
三人ともとりあえずはほっとしてるみたい。まぁ実際私も安心したけど、手を怪我してるみたいだし早くここに戻ってきてほしい。
「エイリーン様、準備整っています」
「ありがと。多分あの子は強がるだろうけど無視して手当てしてあげてね」
「かしこまりました」
すでにここに手当てをしてあげられるようにメイドを呼んでいる。
「……姉様早く帰ってこないかな」
思ったより彼女の願いは早く叶った。予想外の形で。
「ねぇ、ミア。下じゃ手を怪我しただけだと思ったんだけど」
目の前の彼女はなぜか手からだけでなく口にちょっと血がにじんでいる。
「姉様⁉いったい何が⁉」
顔面蒼白になったレイが彼女の血をハンカチで拭う。
「あはは……ごめん、ちょっと叩かれただけで」
「誰に?」
「えーっと……」
ちょっと言いにくそうにするミア。何で自分を殴った子をかばえるんだろう。もうちょっと自分のことを考えてほしい。
「……後でしっかり聞くからね。とりあえず手当てしてあげて」
「はい。ミア様、こちらへ」
おとなしく連れて行ってもらう。その間にレイをおとなしくさせておかないと。
「まさか叩かれるなんてなぁ……」
『あなた、ズルしてますわね!私が勝つはずでしたのに!』
まだほっぺたがじんじんと痛む。あんなに強く叩かれたのは初めてかもしれない。平手打ちというより殴られるに近かった。
「……エイリーンかロベリアなら大事にはしないでくれるかな」
最終的にはこの学院を代表する者同士、勝てるように協力したい。とはいえ気持ちよく協議ができないなら足を引っ張られるかもしれない。悩みどころだ。
「お嬢様なら、ミア様のやりたいようにしてくださいますよ。きっと」
手当てをしてくれるメイドさんはそう言ってくれる。
「やっぱり、そうですよね」