不穏な空気
「姉様流石です!」
ミアの競技が一旦終わった。レイがめちゃくちゃはしゃいでいる。まぁ、大好きなお姉ちゃんが一位で通過したのだから無理はないけど。
「これ……ちょっととんでもないですわよ」
そう言ってロベリアが通神で送られてきた資料を渡してくれる。そこには彼女が撃った的の細かい評価が書いてあった。例えば貫通した深さとか穴の大きさとか弾の速さや弾道だ。直接的には評価と関係ないところも多く書いてあるけど……どれもちょっと規格外。少なくとも最近触り始めた学生のものではない。
「ミアって本当に初めてなのよね……」
この弾速と貫通した深さを見るとそんな風には思えない。なんだこの深さは。武器のおかげ?でも検査は通ってるしなぁ……。
「これで魔法が苦手……疑わしく見えてきちゃいますわね」
「なに?ミアがズルしてるっていうの?」
「決してそうは言いませんけど……人によってはそう見るかもしれませんわ」
彼女の言いたいことはわかる。正直彼女の経歴と今の結果を見ると誰が何をどう見るか分かったものではない。
「ミア大丈夫かな……」
ノアもさっきまでレイとはしゃいでいたけどちょっと心配そう。
「下手に人気な競技だから……何も起こらないといいんだけどね」
「何か起こるんですか⁉」
意味深なことを言ってしまったせいでレイがすごい勢いでこっちに向かってくる。
「いやいやいや起こらないとは思うけど……嫌がらせなんてないはずだけど」
「嫌がらせ⁉」
体感半分くらいの貴族の子は性格が悪い。今まで何不自由なく過ごしてきたから我慢値が低いせいでミアを疎ましく思う子も多そうだ。性格が悪くなくても、今まで努力してきた子がぽっと出の癖に優秀な成績を出す子に対して一つ思うことがあっても不思議じゃない。
「私たちが守ってあげることはもちろんできるんだけど……ミアってあんまり自分で言いたがらなそうだし、我慢しちゃいそうでね。こっちとしても本人が言わなきゃ守ることもできないし」
そう、問題はそこなのだ。結局本人が我慢してしまうと私たちが出る幕がない。
「……姉様を秘密裏に見守りますか?」
「見守る、って言ってもねぇ」
「とりあえず一旦は選考を見守りましょう?」
ロベリアの言う通りかも。一旦彼女の選考会を応援することにしよう。
「……結構うまくいったわね」
一週目の選考結果が出た。無事に二週目に進めるみたい。個人的な感触としても信じられないくらい当たったし嬉しい。後でイオナに感謝しておかないと。
「ていうか、同じ競技になったとたん試合を中継してくれるのね……」
妹の試合は見られなかったのにこの競技が始まってから急に試合を中継し始めたのである。できるならもっと早くやってよ……。待機所を見回してみると二週目に残った選手たちがいる。多分ほとんど貴族の子。ケースから派手な子が多いし多分そう。人気競技なだけあって人数が多い。そして当然だけどグループはすでに確立しているので私はぼっちだ。
「……競技だし別に一人でもいいんだけどちょっと悲しいわね」
周りを横目で見ると仲間内で何やら話しているみたい。ちょっと疎外感。
「ま、いいか。ちょうど私の出番だし行こっと」
呼び出しもかかったことだし席を立つ。
「普段通り普段通り……よしっ!」
自分のレーンで魔銃を取り出す。一週目と同じように的を撃ちぬいていく。いつも通りやっていたら隣のレーンがとんでもない音を出している。
「えっ……えぇ?」
噓でしょと思うくらい大きい音だ。発砲音ってあんなにうるさくないはずなのに。ていうか規定内に収まってるのかな。
ちょっと心を揺さぶられたけど落ち着きを取り戻して的を狙う。一週目より少し遅れてしまったけど何とか一番乗りでクリアした。
「……よしっ!」
結局、次段階の競技もすんなりとクリアできた。隣でとんでもない音を出す子がいないので少し楽だった。
この時はまだ他人の悪意に気づかなかった。
「今のところ、ミアは順調みたいね」
「隣の選手ちょっと怪しくない?」
順調に代表に近づいているミア、ちょっと不安な要素はあるけど今のところは問題なさそう。
「……あの貴族はちょっと私の家と仲が悪いから不安ですわね」
ロベリアがそんなことを言う。不安になるようなことを突然言わないでほしい。
「それって大丈夫なの?」
「あの実力があれば大丈夫だとは思いますけれど……」
「一応調べてはおく?」
「そうしましょう」
ロベリアが控えていたレディシアを呼んで、いろいろと頼んでいる。私もできる範囲で調べておこう。