出番の到来
ちょっと早めに集合して説明を受けたはいいもののやることがない。こんなに早く集まる必要なかったんじゃと思わなくもない。
「……暇ね」
他の選手と話すこともないし、どうせなら妹の試合を見ていたかった。どうしてここには仮想ディスプレイがないのよ。お金あるんだからつけなさいよ。と、暇な時間が多いからか無限に文句が出てくる。
「はぁ……」
一体レイの試合はどうなったのか、すごい気になる。相手も強そうだったけど負ける気はしない。頑張れ、レイ。と思っていたら何か轟音が聞こえた。
「な、なに?」
まわりの子もちょっとざわついているけれどすぐに運営の教師が来た。
「皆さん落ち着いて。別の試合での音です。問題はないので気にしなくて大丈夫ですよ」
レイの魔法の音……?それとも相手の?ああああ気になる……。せめて結果だけでも誰か教えてくれないかな。頭がおかしくなっちゃう。エイリーンの従者も一緒にはいられないみたいで本当に独りぼっちだ。
ため息をついていたら早速選手が呼ばれていく。やっと始まったか。
どうやら私の出番はまだまだ先っぽい。周りの数人がケースやバッグを持って部屋を出ていく。ケースから派手な子が多いこと。それにさっきのレイの競技と比べても参加人数が多い。これはなかなか勝ち抜くのは難しそうだ。
「……こんな弱気じゃダメかなぁ」
ちょっと不安が心を襲ってきた。けれどここで勝っておいて明日の選考会に勢いをつけたい。レイも喜んでくれるだろうし、ほかの子たちもこの銃を整備してくれたイオナ達にも顔が立つ。
練習期間そんなになかったけど上手くいくといいな。
「あ、競技始まりましたよ!」
仮想ディスプレイには何人かの選手が映っている。ミアはまだ出番ではないみたい。
「ミアは……いないみたいですわね」
「ですね……」
急に声のトーンが落ちる。姉がいないと分かった瞬間わかりやすく興味を失っている。ちょっと面白い。
「本当に、面白い姉妹ね」
「え?」
「あぁ、こっちの話よ。気にしないで」
この子たちとつるんで本当に楽しい。そんなことを考えていると眼下では射撃が始まっていた。基本的にはマキシノアと大きくは変わらず、的を撃っている。
「まぁまぁ上手いわね、下の子たち」
「十分選考会で上位に行けますわね」
「皆さん魔銃も入れ物も派手ですね……」
確かにみんなだいぶゴテゴテとした装飾や宝飾品のついた魔銃を使っている。趣味はよくないけど貴族だし多少は仕方ないんだろうなぁ。重くなるだけで邪魔なのに。
「というか遠距離射撃の方も同時にやってるんですね」
「参加人数が多いからねぇ」
「なるほど」
正直この魔銃の勝負では銃の調整をする魔銃鍛冶の腕も大きくかかわってくる。市販品と比べたら改造品は明らかにいい方向に性能が変わる。もちろんこの競技では制限付きだけど。今行われてる動く的当ての競技では大きく分けて精度重視か手数重視か弾の種類を変える三つくらいが使われやすい。どれが一律にいいとは言えないけど確かミアは手数重視と種類変更で対応するとか言ってた気がする。正直最初は信じられなかったけど本当に実行してしまうんだから彼女の法力量とその放出能力は底が知れない。
「まぁミアが出てくるまで暇ねぇ」
「……ラスティナ・ミアリーン。以上が次の出番だ」
暇だなと思ってぼーっとしていたらいきなり名前を呼ばれた。やっと出番みたい。同時に五人くらいの子が立った。みんな立派に衣装を着こなしている。
「よしっ、頑張ろうっと」
魔銃のケースを背負って競技場まで案内されていく。最初は動く的撃ちのようだ。さっきノアとロベリアがやっていたやつ。一度に三組ずつみたい。私の相手はいかにもな貴族様といった魔銃を取り出している。そして自信にあふれた顔をしている。これは負けられない。私も自分の魔銃をケースから出す。彼女のと違って見た目にはこだわらないので鈍色をしている。流石に本戦に出られるようになったらもう少しこだわりたいとは思っている。
「ふぅ……」
周りを見ると狙撃タイプの銃を出している子が多い。私のように一般式の銃を持っているのは少数派みたいだ。
「弾倉はよし……しっかり法力入ってる、よしっ」
最終確認を済ませて開始の合図を待つ。
「あら、ミアが入ってきたわね」
「本当ですか⁉」
ソファーに座ってお茶を飲んでいたレイが飛び上がってこちら側までくる。
「姉さま頑張ってくださ~い!」
いつの間にか取り出した応援グッズを手に元気に声援を送っている。ちなみに人数分あるみたいで机の上には私たちの分も置いてある。ロベリアとノアも応援グッズを手に観戦している。かわいい子たちだ本当に。