見物人達と駄々っ子
「やはり予想通りでしたわね」
「息も上がってないしどうやって勝つのかしらね……」
レイも決して負けていないけど小細工はあまり通用しなさそう。
「正々堂々来るならこっちにも勝機がありますわ」
「そうなの?」
「そもそもレイは小細工を使って勝つより元から持ってる力を叩きつける方が得意ですわよ」
「そういえば……」
確かに剣の稽古をつけてもらっていた時もテクニックどうこうより単純に強かった気がする。天性の才能というかなんというか。
「エイリーン様、お楽しみの最中申し訳ありません……」
「ん?」
「やっぱりレイが勝つ気がしてきたわ!応援しなきゃ!」
私が気合いを入れなおしたところで後ろからトントンとエイリーンが肩を叩いて来た。
「気合い入れてるとこごめんね、ミア」
「どうしたの?」
「悪いけど、貴女を次の競技の準備で連れて行かなくちゃいけなくなったの」
「えっ?」
そう言えばもう決勝だし、次は私の出る競技だった。だけど妹の応援をしないで何が姉か。
「……ちょっとだけでもだめ?」
ちょっと上目遣いで頼んでみる。妹やネイはこれでちょっと甘くなってくれる。
「可愛いけどだめよ」
効かなかった。
「お願い!ちょっとだけ見させて……!」
今度はちょっと縋る感じで頼んでみる。
「……ちょっと征服感あっていい視点だけどだめなものはダメよ」
「そんな……」
「ほら、行きますわよ」
後ろからロベリアとノアが腕を絡ませて逃げられないようにしてきた。
「ちょ、ちょっと!?」
「じゃあ、連れていくわよ」
エイリーンが背中を押して三人がかりで私を出口の方へ連れて行く。私の筋力じゃ勝てない。
「ちょっとだけ!ちょっとだけ見させて!」
「だめ!子供じゃないんだからおとなしくしなさい!」
「あれ?誰もいない……」
「ほんとに合ってたの?」
「ここで見てるって話だったんだけどなぁ」
「……ふぅ」
さっきからずっと落ち着くために息を吐いてる気がする。自分がこんなに緊張するなんて思ってもみなかった。どんなことがあっても緊張することなんてそうはなかったのに。
「決勝……」
ここまで実力を見せられればきっと代表には内定するだろうけど、今になって一番を飾って代表になりたいと思ってしまった。姉様に誇れるような結果を持ち帰りたい。きっと姉様のことだから代表になるだけで褒めてくれる、それどころかどんな結果でも頑張ったねって言ってくれると思う。だけど、姉様に優勝という結果を持ち帰って私という妹がいてよかったと誇れるようになって欲しい。決勝はもしかしたら姉様は見られないかもしれないけど絶対私の勝利を願ってくれているはず。その期待も裏切れない。
「絶対勝つ……私ならできる!」
改めて気合を入れなおす。そして鏡を見てちゃんと着こなせているかも確認する。
「まったく……ミアがあそこまでになるなんて思わなかったわ」
「本当に、なだめるので疲れましたわ……」
「あ、帰ってきた!」
ミアをなだめて集合場所まで送ってきて、さっきの部屋に戻ってきたらなぜか先輩二人がいる。
「あら?どうしてここに」
「ちょっと風のうわさでみんながここから試合を観戦してるって聞いてね?下で見るより快適そうだからお邪魔しようかなって」
「改めてそう言うと図々しいわね私達……」
否定できないけど別に断る理由もない。
「まぁ知らぬ仲ではないしこれからレイの決勝とミアの試合も始まるし一緒に応援しましょ」
「ありがと~!」
「ほんとごめんなさいね……」
無邪気に喜びながら座るメア先輩とちょっと申し訳なさそうなアル先輩。対照的でちょっと面白い。
「あの二人の分のお茶もお願い」
「かしこまりました」
「それにしても二人とも、一年の選考会興味あったのね」
「それはもちろんあるわよん。何しろ今年はどんな後輩が入ったのか気になるし……あの姉妹が特に気になるしねぇ」
「……どういう意味で?」
「ちょっと今までにないものを見せてくれそうな感じがしてね……ふふっ」
普通の笑みの中に一瞬だけ不気味なものを感じた。
「……みんなして私を連れてきて」
集合したはいいものの特にやることもなく控室で待っているだけだ。エイリーンの従者が魔銃を持ってきてくれたのでそれを受け取りはしたけど。
「これならレイの試合見てた方が有意義じゃないの」
やることもないし試合用の服装に着替えることにする。レイと一緒の服だ。似合っているだろうか。誰もいないけどそんな問いを鏡にする。思えばこんな人と競い合うことなんてはじめてかもしれない。妹に悲しい思いをさせないように優勝しなければ。イオナのおかげでいい魔銃も手に入ってるし。