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襲撃

挨拶はそこそこに早速出発するようで、屋敷の庭に無駄に豪華な馬車と兵士数人が待機している。

「では我々は馬車の周りで護衛しながら同行させていただきます」

私たちが乗ってきた馬車は城に残していくようだ。ゆっくりと目的地に向かうようで数日はかかりそうである。

「いや、待て。そことそこの女、僕の馬車に乗れ」

配置を確認していると領主の息子、レムオリが私とセイラを指さしてきた。

「……護衛の人数が減りますが大丈夫でしょうか」

「少しくらいいいだろう。僕の兵士もいるんだし」

「かしこまりました。二人とも、よろしく頼む」

兵士の方から飛んでくる同情の目を感じつつセイラと無駄に豪華な馬車に乗り込む。こんなに座るところをふかふかにする必要はあるのかと感じるほどに上質な馬車だ。

馬車が動き出すのを感じるのと同じくらいになって肩に触れる手が伸びてきた。加えて自慢話がとんでもない量飛んでくる。貴族のパーティーに行った時によく聞いた武勇伝と同じような話が延々と続いている。時折「すごいですね」とか「カッコいいです」とか適当な相槌を打っていれば相手が勝手に満足してくれるので楽なものだが精神的には段々疲れてくる。

体をベタベタ触ってくるのだけはやめてほしい。私たちは護衛としているのであってお水の女ではない。この世界の人間に言っても仕方ないことではあるが。

こんな貴族が土地を治めているようではスタリジャンの将来が不安になってくる。

永遠にも感じられるくらい話を聞いて、ベタベタ触られて不快になっていると外から兵士が声をかけてくる。

「レムオリ様、本日の滞在場所に到着いたしました」

「もう着いたのか」

「お部屋の準備も整っております」

「そうか、じゃあお前らも……」

「申し訳ございません、交代で見回りがありますので……」

こんな男の部屋に誘われるのは御免だ。

「一人くらい……」

「夜襲は人数が減ると対処が難しいのです。どうかご容赦を」

「……わかった」

さっきまで下に見ていた者がいうことを聞かなくなって少し不機嫌なようだ。


「セイラ、大丈夫だった?」

レムオリがいなくなったところでセイラに声をかける。だいぶベタベタ触られていたようで疲れ切った顔をしている。

「貴族って……あんなのなの?」

「……かもしれないわね」

元貴族として否定しきれないのが悲しいところだ。

「お疲れ様だ。貴族の相手大変だっただろう」

「私は大丈夫。慣れているから。でもセイラは疲れているからちょっと休ませてあげて欲しい」

「わかった」

チームのリーダーのレスタと少し話してセイラの分の見回りを肩代わりすることにする。

ネイが手伝ってくれるから大して業務量が増えることはない。

交代で睡眠をとりながら夜が明けたら馬車を降りて歩きでボンボンのお世話をしに行くことになる。

「はぁ……」

「ミア様、大丈夫ですか?」

「ああ、うん……大丈夫」

「お疲れになったらいつでも言ってくださいませ」

「ありがとう」


翌朝、目立つ鎧を着たレムオリが宿から出てくる。

「では、参りましょうか」

「おう」

先導の兵士と私達が前を歩いて、後ろからボンボンとお付き兵士がついてくる。

段々と石畳で舗装されていない歩きにくい道になってくると歩くスピードも全体的に遅くなってきた。

「ねぇ……ミアさん。なんかこの森嫌な感じしない……?」

セツが不安そうに話しかけてくる。

「あまり森の中で護衛をしたことないからいまいちわからないのだけれど……嫌な感じってどんな感じ?」

「なんか、誰かに狙われてるような……最近誰かがここのあたり歩いてるみたいだし……」

言われてみると確かに草とかが踏み倒されているのがちょこちょこ確認できる。

「少し、周りに気を付けないとだね」

休憩をはさみつつどんどん山の中へ入っていくと、いきなり先導の兵士が膝から崩れ落ちる。

「どうしま……」

「敵襲!」

矢が刺さった兵士の姿が見えた瞬間に私の声をかき消すくらい大きくレスタが叫ぶ。

敵襲の報を聞いた護衛の兵士はレムオリを囲んでその身を守る。

次の矢が飛んでくるのを警戒して森の中に視線を送る。数瞬の間があった後聞こえてきたのはレスタの唸り声と地面に誰かが倒れる音だった。

「ってぇ……」

見ると、肩に矢が刺さっている。

「見えた!」

セイラがそう言って矢を数発放つ。「ぐあっ」っといった小さい声が聞こえた後、矢が飛んでくるのが止む。

「すごいわね……セイラ」

「ふっふ~ん!私、弓は得意だから!」

ドヤ顔のセイラを見て微笑ましく思ったのもつかの間、ガサガサっと茂みから4~50人の人間が現れる。皆違った布で顔の一部を隠して、様々な武器を持っている。

「お前ら、領主の息子のレムオリだな」

低い声で集団の真ん中の男が尋ねてくる。

「だ……誰だ貴様らは」

守られていたはずのレムオリが一番前に出てきて若干震えた声で答え出す。

「ちょっとなんで前に……!」

慌ててカイが盾を持って彼の前に割り込んで下がらせる。

「あの声やっぱり……」

「領主の息子だ」

「殺さなきゃいいんだよな」

レムオリが前に出てきたことで相手の集団が少しだけざわつく。それと同時に武器も構えてきて、今すぐにでも襲ってきそうだ。

両者武器を構えて緊張した雰囲気が漂う。半包囲されているため私達はじりじりと下がってあわよくば逃げることができるようにする。

(イオナ、助けて)

(かしこまりました。少々お待ちを)

頭の中でイオナの顔を思い浮かべて助けを求める。と、ほぼ同時にイオナからの返答が頭の中に響く。

私が助けを求め終わった頃、いきなり短い悲鳴が聞こえる。

「セレスタ!?あ……あなた何して……!!」

セツが倒れたセレスタを抱きかかえながらレムオリに怒鳴りつける。

彼の持つ豪華な剣の先端は血に濡れていた。

「お、お前ら腕が立つんだろ!だったら下がってないでこいつら殺して僕を守れよ!!」

意味の分からないことを吐き散らす領主の息子。流石に兵士もドン引きだ。

そんな浮き足立った私たちの様子を見逃さず、謎の襲撃者たちは襲い掛かってきた。

「セツ、レスタ!けが人とこいつまとめて下がって行って!」

「分かった!」

怪我をしているレスタとセツに負傷者を任せて街までゆっくりと撤退を始める。セイラと兵士たちは彼らを追いかけようとする敵を排除しにかかる。

そして、上から振り降ろされた相手の剣を受け止める。初めて明確な殺意を感じた。殺さなければ本当に私が殺されてしまうかもしれない。

先頭にいたカイは複数人に襲われていて鎧に傷がついている。

そんな逡巡をしている間にセイラの悲鳴が聞こえる。横目で確認するとどうやら大柄な男に吹き飛ばされてしまったようだ。迷っている間に味方は傷ついていく。

「……やぁっ!」

相手の剣を跳ね飛ばしてそのまま袈裟斬りにする。初めて正気で人を切ったかもしれない。鮮血が体に掛かる。すごい匂いだ。

そんなことを考えている間にも次の敵が現れる。だが、その体は一瞬で足と胴に分かれる。

「ミア様!大丈夫ですか!」

ネイがやってくれたようだ。いつもの服も鮮血にまみれている。

「大丈夫。ネイはカイを助けてあげて」

そのまま返事を待たずにセイラに襲い掛かろうとしている大男の背中を刺して、絶命させる。

「セイラ!大丈夫?」

「あ……ごめん……!」

一瞬意識が飛んでしまっていたようだ。

「ううん。無事ならいいの。私はネイの手伝いに行くから兵士さんとちょっとずつ下がって行って!」

「わかった!」

護衛の兵士も傷だらけでもう戦えそうにない。


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