ノアの技量
「実際ロベリアだったらどのくらい当たるの?」
慎重に狙いを付けるノアを見つつ聞いてみる。
「私?私だったら運が良ければ当たる、くらいじゃないかしら」
「ロベリアでもそんな難しいのね」
「私にも向き不向きがある、それだけですわ」
「そんなものなのかしらねぇ」
「そんなものですわよ。私だって近接戦闘は苦手ですし、貴女だって魔法競技は苦手でしょう?」
確かに言われればそうだ。
「私は何でもできるわよ!!!」
「貴女は特別ですわ」
「エイリーンは別よ」
「あら、そう?」
自信満々の彼女。彼女にできないことなんてほとんどないだろう。
「貴女にできないことがあるなんて想像しにくいですわ」
「実際そうね!まぁノアと同じ競技したら流石に負けそうだけど」
それで勝ててしまったら流石にノアがかわいそう。
「それでも器用貧乏にならないのは本当にすごいわね」
「色々とやってきたから、ね」
ちょっと含みのある言い方をする彼女。皇女ともなるとやらざるを得ないことも多いのだろう。そんなことを思っていたらノアが的を一つ正確に撃ち抜いた。
「一発……やるわね」
「あ、もう一個行った」
どうやら彼女はまとめて照準を済ませて次々と的を抜くタイプらしい。
「すごい……」
一度照準が終わってしまったら隣のハズレの的に当てることなく次々と抜いていく。一瞬で全ての的を抜き終わって、的の交換が始まった。
「あの的の交換って何回あるの?」
「一回ですわ」
「てことはあれが最後か……頑張れノア!」
ここからモニター越しに見てもわかるくらい集中している。いつも優しいノアのあんな真剣でかっこいい顔を見るのは新鮮かもしれない。
「かっこいいですね……ノアさん」
「ね」
遅れて隣のレーンに参加者が入ってくる。タイムとしては圧倒的にノアが有利そうだしスコアも先に同じだ。
「これはノアが1抜けしていきそうね」
その言葉と同時に彼女は照準を終えたようで次々と魔法を打ち出していく。当然のように的に吸い込まれて行って競技が終了する。
「綺麗ですわね……」
観客席からも歓声が上がる。私もあの場にいたら歓声を上げてしまいそう。
「この競技も何回かやるのよね」
「そうですわね。と言っても参加人数があまり多くないですし二、三回と言ったところでしょうね」
「なるほどね」
ノアが競技場から一旦退場したところで一息つく。
「見てるだけで自分があそこに立った時のことを想像しちゃうわね。大きい競技会なんて初めてだし」
「大丈夫よ。私達が一緒に練習付き合ってあげたんだから」
ポンポンと肩を叩いてくれるエイリーン。
「緊張してる間にノアさんの出番、来ますよ?姉様」
「そうなの?」
いつの間にかレイの手元にはプログラムが。
「……そんなの配ってたの?」
「いえ、ロベリアさんから頂きました」
「私のコネで頂いてきましたわ」
そう言って渡してくれる。結構分厚い。
「えーっと、ノアは……いた」
次の次に競技があるっぽい。結構スパンが短いような気がするけどさっきロベリアが言ってた通り参加人数が少ないみたいだし他の選手も似たような感じだ。
「ノアもあんまり休む時間がなくて大変ね」
「こればっかりは仕方ないですわ」
そんな話をしながらお茶を飲んでお菓子をつまんでいるとすぐにノアの出番が来た。
「ここから見る限りあんまり疲れは出てなさそうね」
「彼女の法力の量は結構すごいんですのよ?このくらいじゃ尽きることはありませんわ」
そして、開始の合図が鳴り響く。三人とも同時に魔法を打ち出してほぼ同時に弾着する。全員命中、思ったより全員レベルが高い。次の的も同じように当てていく。ほとんど差はない。
「急に接戦になってるわね」
「事前に調べてた限りだとあの三人が代表候補ですわね。ノアなら勝てると思いますけれど」
「そう言えば私自分の競技で他の選手調べてなかったわ……」
「ミアはとにかく今回は自分の力を出し切ることに集中するべきだから。代表になったらいろいろ教えるわ」
エイリーンがそう言ってくれる。競技の方はというとわずかな差で一歩前に進んでいる選手がいてノアは追う状態だ。流石に焦りはしないと思うけれど頑張ってほしい。
「ここまでは予想通りですわ」
依然ノアは追う状況。と言っても的一個分の差は付いていない。むしろさっきよりも順調なくらいだ。前半戦も折り返してさらにヒートアップしてくる。
「頑張って……ノア!」
相手もミスはしないがこちらもミスをしない。ほとんど団子のような状態で三人とも最後の的を破壊した。
「ほとんど差はないわね」
「ここからですわ」
ロベリアはちょっとふふんといった感じで自信がありそうだ。