二人の初戦
「あ!ロベリアとノア!」
「やっと出てきたわね」
「二人とも杖使っていないんですね」
確かに、二人とも他の生徒とは違って杖を装備していない。厳密に言えばノアはタクトの様な杖を使っている。ロベリアは……特に装備しているようには見えないけど。
「ロベリア……まさか忘れてきたのかしら」
「ロベリアに限ってそれはねぇ……」
いったいどんな戦い方を見せてくれるのか。ちょっと気になっていると試合開始の合図がある。
「競技はじめ!」
一斉に的が飛んでいく。ロベリアのところ以外。
「あら、始めてみたかも……ああいう方法使ってるの」
ロベリアは他の生徒が杖を使って魔法を使用しているのに対して腕輪+指輪の装備で手を突き出している。なんか余裕たっぷりでかっこいい。
「ていうか……的が出てきた瞬間に壊してない?」
そう、彼女の部分だけは的が出てきたと思ったらその瞬間に砕かれている。破片が射出口近くに散らばっている。一方ノアは一つ一つを丁寧に、それでいて素早く砕いている。
「二人とも方法が違って面白いわね」
「というか……お二人が目立ちすぎて残り二人の方、霞んじゃってますね、姉様」
「そういえばいたわね」
そもそも二人の競技にしか興味が無かったから始めから眼中になかったかもしれない。それを差し引いても二人の的の破壊率は100%で推移しているし盛り上がるのも無理はない。残りの二人にはかわいそうだが。
「先に砕く分時間はロベリアの方が早そうね」
「そうねぇ。ノアも十分早いけれど……」
半分が終わったところで二人とも命中率は一緒、ちょっとロベリアの方がタイムが早い。二人とも立ち姿を変えずに集中している。その姿も映える。一方残りの生徒は命中率は7割くらい、ちょっと焦っているみたいだし大分疲れているようで肩で息をしている。実力差は明らかだ。
「ノアって結構本番に強いというか、堂々としててかっこいいわね」
「この学院の名前を背負って出るんだから堂々としてなきゃね!貴女もよ?ミア」
「善処はするわ」
会場はノアとロベリアのどっちが勝つかの方に目を取られている。まだ選考会なのに雰囲気は実際の会場と遜色なさそうだ。行ったことないけれど。
「四枚になったわね」
四枚の的が一斉に発射され始めるとちょっとずつ二人のタイムに差ができ始めていた。ロベリアはずっと変わらず的を破壊し続けている。四つでも顔色変えずにいるとは……いったいいくつまで行けるのだろうか。そしてノアの方はと言うと、取りこぼしはないけれどちょっとずつ四枚目の破壊をする時間が伸びている。
「ノア大丈夫かしら……」
「そもそもあそこまでロベリアについていけてるのがすごいわ。普通なら取りこぼしてても不思議じゃないのに」
「でも、選考会って三周くらい同じ競技やるわよね。持つのかしら……」
「そこは考えてるんじゃない?大丈夫よ」
そんなことを話していると最後の四枚の的が発射されてロベリアがそれに合わせて素早く破壊する。少し遅れてノアの方も最後の四枚の的が発射される。一枚、二枚、三枚と破壊していって行ったが四枚目を破壊しようとしたところで的が割れずに地面に触れた。
「あら」
「惜っしい~!」
最後の最後にミスってしまったみたい。珍しくここから見てもちょっと悔しそうなノア。会場は割と大盛り上がりで拍手をしているけれど。
「三回あるんだしここで切り替えてほしいわねぇ」
「そうね……ノアのことだから大丈夫でしょうけど。会場の雰囲気に飲まれないでほしいわね」
「それにしても対魔法の防御がされてた的を苦もなく破壊しちゃうって……二人とも魔法の素養がすごいわ」
「威力精度共に新入生レベルじゃなさそうね……」
「流石特待生とお嬢様……ってとこかしらね。あれくらい魔法の素養があったらもっと私も戦いやすいのかしらねぇ」
自分で言ってて思うけれど、いつの間にかエイリーンと解説実況をやっているような気分になった。
「さっきよりも一緒にやっていた生徒さんがかわいそうですね……あれだけ強い二人と一緒に競技させられるなんて」
「私だったら緊張でボロボロだったかもしれないわね……。そう考えるとあの状況である程度破壊してたあの子達もすごいのかも」
「優秀ではあると思うわ」
比較対象があまりにも優秀過ぎただけ、というやつか。
二人の健闘を称えるような会場の拍手が鳴りやまぬうちに二人とも競技場を退場していた。まぁ残り二回競技は残っているし体を休ませたいだろうから仕方ない。
「選考会でこれなら実際の明星戦はもっと楽しいんでしょうね……これ」
一息ついてお茶を飲みながらそんなことを思う。
「あらあら。楽しみになってきた?」
ニッコニコでこちらを覗き込んでくるエイリーン。祭りを楽しみにする私がそんなに珍しいのか。
「あんなにいいものを見せてもらえればそりゃあね。しかもこんないい部屋で優雅にみられるし」
「お気に召してもらえて何よりだわ。お金かけた甲斐があったわね!」
大変満足そうなエイリーン。そんな彼女の顔を見るとこっちまで微笑ましくなってくる。