選考会開始
競技場前についたところで出場選手の入り口と応援の入り口が分かれていた。
「あら、どうやらここでお別れみたいですわね」
「ですね……」
「じゃあ私達、応援してるからね!」
「二人が代表になれるように祈ってるから!」
応援グッズの様なものを手に取っているエイリーン。いつの間にそんなものを用意していたんだ。
「……あまり派手な品のない応援はダメですわよ」
そう釘を刺して二人は入って行った。エイリーンも流石に一国の皇女だしそこらへんは気を付けているだろう。
「じゃあ、私達も行きましょうか」
「ええ。案内してあげるわ」
「案内?」
そんな案内するところなんてあっただろうか。普通に使ってる競技場だし案内される場所もないはずなんだけど。嫌な予感がする。
「あれ?応援席行くのってこっちの扉じゃ……」
「私達はこっちよ」
そう言って彼女はすたすた歩いていく。薄暗い廊下を歩いていくと赤いカーペットの広がる部屋に着いた。
「……ねぇ、ここって所謂貴賓室じゃ」
「借りたわ!」
胸を張ってそう言う。いつものことだけどいつまでも慣れない。
「借りた……?」
「ええ!一日中見ることになるんだから快適な方がいいでしょ?だから借りたわ!」
「よく借りれたわね……」
「お金を払ったら普通に行けたわよ?」
「いくらになったのか聞きたくないわね……」
「安心して、高くはないから」
そう言ってウィンクをする。大体上級貴族がこういうところを借りている気がするがさらにその上を行くことをするとは流石の彼女だ。ちょっと引く。
「ね、姉様。ここのソファーふかふかですよ……!」
早速ソファーに座っている妹。エイリーンも一緒に座っている。
「何か食べたくなったら言うのよ?何でも用意できるから」
「……なんでも、ねぇ」
「競技の時間になったら移動しやすいように専用通路あるから後で案内するわね」
「……それは、ありがとう」
「ほらほら、何ずっと立ってるのよ。座りなさいって」
自分の横をぽんぽんと叩いてこっちに来るように促してくる。促されるままにその場所に座る。いい感じに沈み込んでいくソファー。流石のVIPルーム。
ちょっとぼーっとしていたら隣にレイが座ってくる。手をそっと重ねてきてちょっとかわいい。
「お茶だけ用意するわね」
「ん。ありがとう」
パチンと指を鳴らすだけで高そうな茶器にお茶が注がれていく。お茶を飲みながらガラス張りの前面展望から競技場を見下ろす。まだ選手は入っていなくて、無数の観衆が観覧席をうろついているだけだ。
「……まだ始まるには早いわよね」
友人が出るので気が急いているのかそわそわと会場を眺めている。
「まぁまぁ落ち着きなさいよ。きちんとアナウンスされるんだから」
私とは逆でエイリーンは静かにお茶を飲んでいる。ここが気品の差なのだろうか。
「では、これより明星戦マキノシア選考会を始めます。選手番号4番までの生徒は会場へ」
しばらくおとなしくしていたら急にアナウンスが鳴って競技が始まった。特に開会式の様なものはないみたいだ。いちいち選考会でそんなことやってられないか。
「始まったわね。と言ってもロベリア達出ないならあんまり見る価値も……ないかもね」
身もふたもないことを言うが実際それはそうかもしれない。フリスビーの様な的が飛んでいくと同時に魔法を使って撃墜していく、あまり派手なものでもないのであんまり盛り上がりはしない。たまに全撃墜まであと一歩まで行く人はいるけれどなかなか難しいみたいだ。
「うーん……もう少し派手にならないのかしらね」
「全部落とせば割と派手に見えるんだけどね……あと派手な魔法を仕込んでたり」
「へぇ……それは見ごたえがありそう」
ちょうど眼下で見たことのある顔が見えた。名前は覚えてないけれどロベリアと同じくらいのやんごとなき身分で何かとライバル視していた気がする気の強そうな女だ。彼女は流石に強そうな気がする。
「競技はじめ!」
その合図と同時に的が二つ飛んでいったと思ったら的確に割れていく。無駄のない素晴らしい魔法だ。
「あら……あの子貴族らしい撃ち方ね」
「貴族らしい?」
「ほら、あの子大きい杖を使っているでしょう?昔からの体裁に気を使うというか保守的な貴族はああいう杖の形をした機器を使って魔法を使うのよね」
確かに私と同じくらいの貴族の子はもっと小さい指揮棒のようなものを使っている。指揮棒風のものは割とスタンダードみたい。何というかどこかの魔法使いを思い出す。
そんなことを話しているとあと四枚でパーフェクトになるところだった。
「確かに精度もいいし……お上品ね」
最後の四枚が一斉に発射される。彼女はすぐには破壊せずに的が集まったところで魔法を放つ。杖をバトンのように回して放った魔法によって、的が一斉に爆発する。
「おお……!」
「やるわね」
選考会はじめてのパーフェクト達成者にあらん限りの拍手が注がれる。耳目を集めるような派手な最後も相まって会場の目は彼女に集まっている。特に彼女の周りの取り巻きが盛り上がってるみたいだ。
「ロベリア大丈夫かしら……」
「どっちかって言うとノアの方が心配じゃない?」
「確かに……直前にこんなことをやられると緊張しそうですね」
拍手と歓声が収まったところでついに私の友達が出てきた。