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91 二度と

エケチェン


 リヴァイアサンから逃げ、元いた砂浜へと戻って来た俺たち。安心したのか、アルトがほっと胸を撫で下ろす。


「は、はは。海にはあんなバケモノがいたんだね。本当に……死んじゃうかと思ったよ」


「そうか。それはそれとして……」


 俺はアルトの腹部へと目を向ける。何故かアルトの腹が異常なまでに膨れ上がっていた。


「あ、あぁ。実はさっきの津波ですごい海水を飲んじゃったみたいでさ。こんなお腹になっちゃったんだ」


 何故か恥ずかしそうに頬を赤らめるアルト。膨れた腹を見られたのが恥ずかしいのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。


「テッド……キミ、あんなに強かったんだね……凄くかっこよかったよ」


 まるで意中の異性に向けるような表情をするアルト。なんだか様子がおかしいが、俺は取り敢えず適当に返す事にした。


「別に。そうでもないだろ」


「いや、SSSランクのバケモノ相手にほぼ互角の戦いをするなんて……。少なくとも、アレは僕じゃ到底太刀打ちできなかった。助けてくれて、本当ありがとう」


「別に構わない」


「キミが魔王に狙われてる理由が少し分かった気がするよ。これだけ強けりゃ、そりゃ警戒されるよね……げふっ」


 腹に溜まった水のせいで、喋っている途中で苦しそうにするアルト。


「大丈夫か? 俺が元に戻してやる」


「う、うん。ありがとう」


 俺は手をそっとアルトの腹に添える。何故かアルトの頬が少し赤くなった気がしたが、まぁどうでもいいか。なんて思っていると……


「テッド……アルト坊ちゃん……」


 いつの間にか。俺たちから少し離れた場所で遊んでいた筈の酒カス共、「バイオレットリーパー」、「ホワイトパール」のメンツが俺たちの元へと集まっていた。そして何故か、全員の視線がアルトの腹に添えられた俺の手へと集中していた。数秒の沈黙の後、酒カスの一人が口を開いた。


「アルト坊ちゃん……。おめでた、ですかい……。その子供は、まさかテッドの……」


 何を言ってるんだコイツは。何をどうしたらそんな勘違いに行き着くんだ。酒カスの常軌を逸した思考回路に呆れていると、何故かステラたちの顔が引きつっているのが見えた。


「テッドさんが女性に興味を持っていないのは知っていましたが……まさかそういう趣味だったとは。やけに2人でいる時間が長いとは思ってましたが……」


「アンタに私の『魅了』が効かないのは、そういう理由だったのね……。てっきり他人そのものに興味がないのかと思ってたけど……」


「いや待てお前ら。色々冷静に──」


「アルト様あああああああああっ!! 私たちというものがありながら、そんな蛮族との間に子をもうけるなんて……!! テッド貴様アアアアアアアア! よくもアルト様をぉぉぉぉぉ!!」


「流石にこれはメイド長として捨て置けないかな。本当冷める」


 殺意剥き出しで武器を構えるメイドたち。


「こんな可愛い子たちが水着姿でおっぱいとかケツぷるっぷる揺らしてるっていうのに目もくれなかったのはそういう事だったんだなテッドォ! こりゃ今夜は赤飯だぜポオオオウッ!」


 酒を片手に踊り狂うカス共。

 誰か一人でもいい。一度でいいから立ち止まって、性別の役割についてもう一度考えてほしい。そんな俺の思いも虚しく、事態はさらに悪化の一途を辿っていく。


「あっ。キッジ」


 突如、砂浜に降り立った茶色ベースの鳥を見て、ステラが呑気にそう言った。


「オイ。キッジってなんだ」


「ブンスンっていう冒険者パーティの記事を載せてる週刊誌があるんですけど、そこで働いてる鳥です。写真魔法を使って写真を撮る事ができる珍しい鳥なんですよ。私も初めて見ました」


「その鳥がなんでこんな所にいる」


「多分私たち『バイオレットリーパー』と『ホワイトパール』が一緒に海に行ったから跡をつけてきたんじゃないですか? スクープの匂いを嗅ぎつけて!」


 何故かドヤ顔をかましてきたステラ。果てしなくウザい。すると、何故かアルトが頬を赤らめながら最悪の一手を打ってきた。


「テッド……。僕テッドと結婚しちゃうの?」


 とち狂ったアルトは顔を赤らめながら俺の足をぎゅっと掴む。おいやめろ、今そんな事したら……。俺は視線をキッジへと移す。するとキッジは翼を指のように動かし、アングルを決め始めた。そして……


「カシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ」


 死ぬほど連写し始めた。


「おい待て鳥。話を──」


「キーーーーーーーーーーッ!!」


 仕事を終えたキッジは爆速で砂浜から飛び立っていった。


「オイオイ! ブンスンに撮られちまったらこりゃいよいよ世界中に広まるのも時間の問題だな!」


「アルト坊ちゃん。病める時もシコやかなる時も……アレをアレしてアーする事を誓いますかァ?」


 牧師の真似事をするも全く誓えていない酒カス。下らないお遊びに呆れながらアルトを見ると、何故か知らんが満更でもない顔をしており、恥ずかしそうに口を開いた。


「は、はい。誓い……ます」


 嘘だろアルト坊ちゃん。


「フオォォォォォッ!!」


 アルトの言葉を聞いてさらに騒ぎ出す野次馬共。俺はいい加減付き合いきれなくなり、アルトの腹にボディーブローをかます。


「ほぐあぁっ!?」


「いい加減にしろクソガキ」


「あああああああっ!! テッドさんが! お腹の子を! お腹の子をぉぉぉ!?」


「テッド貴様ああああああああああっ!!」


 腹パンかました俺を見て阿鼻叫喚する野次馬共。一体どうしてこんな事になったのだろうか。もう訳が分からないが確かな事が一つだけある。それは……


「……もう二度とコイツ等とは海に来ない」


 俺は広大な海を見ながら、そう固く誓ったのだった。



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