90 海の化身
「な……なんだよ。あのバケモノ……」
霧の向こうから姿を現した怪物を見て、アルトは恐怖のあまり震えだす。怪物の登場と共に霧がより濃くなり、暗雲が立ち込める。
「海にもモンスターはたくさんいるけど……こんな怪物がいるなんて聞いてない……」
ぶつぶつと小声で呟くアルトは、か弱い力で俺の手を握ってきた。
「逃げるよ、テッド。ジャンプ!」
俺が言葉を発する前に、瞬間移動を発動してこの場から撤退しようとするアルト。しかし……
「……えっ? なんだこれ、瞬間移動が発動しない……」
慌てふためくアルト。これほど動揺しているアルトは見たことがないな。
「どうやら、あのバケモノの強大過ぎる魔力がこちらの魔力制御を狂わせてるみたいだな。そのせいで普段より上手く魔法を使えなくなっている。瞬間移動のような繊細な技術が必要な魔法はほぼ封じられたと言っていい」
「そんな……。じゃあどうすれば! というか……キミはなんでそんなに冷静に……」
パニック状態のアルトを余所に、俺は黒い大剣を構える。
「……何のつもりだいテッド。まさか……」
「アレを倒す」
「何を言ってるんだ! 無茶だ! あのリヴァイアサンとかいうモンスターはSSSランクのモンスターだ! あんなバケモノ……今まで見たことが無い! いやそれ以前に! あんな大きさのバケモノに挑むなんて無謀すぎる!」
「ガタガタうるさい。どの道アレを倒さなければ瞬間移動で戻ることも出来ないんだ。逃がしてくれる雰囲気でもないしな。やるしかないだろ」
「え?」
直後。
リヴァイアサンの手前から、500メートル以上の巨大な津波が発生した。俺は横一線に大剣を振り、巨大な津波を斬撃で真っ二つに切断する。切断された津波は俺たちの元を通り過ぎ、上空で巨大な水の塊となって海に落下した。その衝撃によって、穏やかだった海が一気に荒波へと変化する。
「なるほど。水属性のモンスターにとって海は最高の環境という訳か。逆に雷属性からすれば、ただ的がデカくなっただけだがな」
俺は膨大な雷属性の魔力を纏い、リヴァイアサンに向けて放った。
「『雷鳴神鳥』」
神鳥の姿をした雷が、電光石火の如し速度でリヴァイアサンに直撃する。しかし、その一撃は巨大な水の盾によって防がれてしまった。
「み、水属性で雷属性の攻撃を防いだ……!?」
思わず驚きを口にするアルト。俺も同意見だ。まさか属性の優位を魔力の大きさで覆すとはな。
「お前はいいエサになりそうだ」
俺は雷を大剣に纏わせた雷剣を生み出し、天に掲げる。雷剣は加速度的に大きさを増していく。そして、暗雲から放電された雷を吸収し、その大きさは1000メートルほどに達した。それでもリヴァイアサンの大きさには届かないが、これなら十分戦える。
「『天叢雲』」
俺は巨大な雷剣をリヴァイアサン目掛けて振り下ろす。リヴァイアサンは周囲の海水をかき集め、巨大な竜巻のようにしてこれを迎え撃つ。
「うわッ──!!?」
雷鳴と爆撃音が衝突し合い、激しい衝撃音が大気中に響き渡る。そして、それと同時に発生した凄まじい衝撃波が波を……いや、海そのものを大きく振動させた。
「なるほど。SSSランクともなると、その強さは災害級だな」
リヴァイアサンの規格外の力を前に、俺は脳の奥がヂリッ……と痺れ、焼けていくような感覚を味わった。
「面白い……楽しませてくれよ」
俺はさらなる攻撃への準備を始め──
「この感じ……。テッド! やっと瞬間移動の調整が終わった! 今なら元の場所に戻れそうだ!」
「……」
背後から、そんなアルトの叫び声が聞こえてきた。他にも力を試そうと思っていたが、仕方が無い。まぁこのバケモノと本気でやり合うなら、足手纏いはいない方がいいしな。日を改めるとしよう。
「またな」
俺がそう言い残すと、アルトが軽く手を握ってきた。
それと同時にアルトの瞬間移動が発動し、俺たちは元いた場所へと戻った。
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