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89 霧の向こう側


「霧のある場所。お前が前に言っていた……」


「そうそう! 僕は一回行った事があるんだけどさ、キミを連れていきたくて。どうかな?」


 小動物のような上目遣いでこちらを見つめてくるアルト。唐突な提案ではあるが、確かに興味はあるな。


「分かった、連れて行ってくれ」


「よかった。じゃあ早速行こうか」


「あぁ。だが、どうやって行くつもりだ?」


「前に行ったときに座標はマーキングしてあるから、瞬間移動ですぐ飛べるよ」


 そう言って、アルトが魔法陣を展開した。


「じゃあ行くよ! ジャンプ!」


 短い詠唱で瞬間移動を発動させるアルト。世界の端までの瞬間移動をここまで容易く発動するとは、改めてアルトの魔法の実力には舌を巻かされるな。そんな事を考えつつ、俺は先ほどから一変した景色へと目を向ける。


「……これが世界の端。霧の世界か」


 鮮やかな青に染められた広大な海の上。そして目前には、まるで行く手を阻む壁のように膨大な霧が広がっていた。


「ははっ、相変わらず凄い景色だなぁ……。世界って本当不思議……あ。というか今更だけど、キミに浮遊魔法かけるの忘れてたや。でも大丈夫そうだね」


「本当に今更だな。他の奴だったら落ちていたかもしれないぞ」


「確かにね。これが僕のパーティの子たちだったら細心の注意を払うんだけど、ごめんね」


 さらっと謝るアルト。謝罪の気持ちはまるで感じられないが、まぁ結果として落ちていないので別に問題は無い。そんな事よりも……


「どうしたの?」


「いや、なんでもない」


 俺はこの霧の世界を前に、妙な寒気を感じていた。この感じ……以前にもどこかで……。


「じゃあ折角だし、霧の奥に進んでみないかい? この前も言ったけど、霧を抜けると世界の反対側に出られるんだ。それが言葉じゃ表せないほどなんとも不思議な感覚でさー」


「分かった。行ってみるか」


 俺はこの奇妙な寒気の正体を掴む為にも、アルトの提案に乗る事にした。この先に進めば、何かが分かるかもしれない。


「じゃあ行こう!」


 そう言ってアルトが俺の手を引こうとした、次の瞬間──。


 霧の奥で、海の中から何かが姿を現した。

 膨大な霧のせいで影しか見えないが、それでも桁違いの大きさである事は分かる。


「な……なんだよ、アレ」


 恐怖のあまり、アルトの体がカタカタと震えだす。

 無理もない。突如として目の前に、数千メートルほどの大きさを誇る怪物が現れたのだから。


 山よりも大きな怪物が、霧の向こう側からその姿を見せる。

 魚のような鱗やヒレをもつ、7つの首の海竜。そしてそれを束ねるのは、千手観音のように無数の手を持つ、魚人の姿をした怪物だった。



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名称:リヴァイアサン

ランク:SSS

属性:水


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