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87 野球拳


「え……スカーレットさんとリンリンさん、私たちの仲間になるんですか?」


 スカーレット、リンリンとの戦いを終え、ギルドで朝食を取っていると、ステラがアホ犬みたいな顔でそんな事を言い始めた。それに対し、スカーレットが反応する。


「そうだ。この男から何も聞いていなかったのか?」


「(ちょっと! テッドさん!)」


 スカーレットの言葉を無視して、ステラは小声でそう耳打ちしてきた。


「(なんだ?)」


「(いいんですか!? リンリンさんはともかく、スカーレットさんは貴方を『レッドホーク』から追放して──)」


「(いつまでそんな話をしている。そもそも、俺は最初から『レッドホーク』を追放された事をなんとも思っていない)」


「(貴方がよくても、私が──)」


「おい。何をコソコソ話している?」


 ステラとの会話を遮るように、スカーレットが少しピリついた様子でそう言った。


「すみません。本当は思ってないんですけど、人の会話無視していきなり内緒話とか、感じ悪いんでやめてもらえませんか?」


 いつもの謎の構文を使ってそう言ってきたのはリンリン。だがまぁ、言ってる事に間違いはない。


「確かに……すみませんでした」


「いえいえ、いいんですよ。本当は許してないですけど」


「どっちですか……」


 内容の無い掛け合いをするステラとリンリン。そこまで聞いて、俺はふと妙な気持ち悪さを感じた。それは……


「お前ら、なんか話し方が似てるな」


「「え、そうですか?」」


 わざとやっているのか疑いたくなるレベルのハモリをかましてくる2人。オマケによく聞いてみると、2人共声質も高めで割と似ている。これは聞き分けるのが面倒だな。


「ていうか、それ言ったらアンタとスカーレットも割と話し方似てるわよ」


「「そうか?」」


「あーいらない、いらないからそういうの。まぁアンタらは声質が全然違うから別にいいんだけどさ」


 意図せずスカーレットと声をハモらせてしまった俺。わざとやった訳ではないのに、やや面倒くさそうな反応をするジャスパー。そして、唐突に意味不明な提案をし始めた。


「じゃあステラとリンリンさー。じゃんけんして負けた方が敬語やめるってどう?」


「えっ? 敬語を……ですか?」


「確かにな。というか仲間なのだから、私としてはむしろ2人に敬語をやめてもらいたいところだが」


「そんな! 本当は思ってないですけどそんなの無理ですって!」


「思ってないなら頑張りなさいよ」


 わちゃわちゃと騒ぎ出す4人。ジャスパーの提案のせいで余計に状況が取っ散らかってしまった。面倒だな。誰か俺の代わりにこの場をおさめてはくれないだろうか。そんな事を考えながら溜息をついていると、別のテーブルで飲んでいた酒カスの一人がこちらへズカズカと歩いてきた。一体なんのつもりだ?


「ならよぉ! ここは野球拳でケリをつけたらどうだ!?」


 4人の間に割って入って余計な事を提案し出した酒カス。相変わらず人の邪魔しかできないゴミ虫だな。適当にシメて、元いたテーブルにぶん投げるか……なんて思っていると……


「いいじゃないそれ! 面白そう!」


 何故かきゃっきゃと笑い出すジャスパー。意味が分からない。


「野球拳って! 嫌ですよ! 私女の子ですよ! やる訳ないじゃないですかぁ!」


「大丈夫よステラ! アンタスタイルいいんだし!」


「確かに! 私ならいける気がしてきました!」


 ジャスパーのズレた説得を秒で真に受けるステラ。今の説得で何が大丈夫になったのか、コイツの頭の中を一度見てみたくなった。そんな事を思っていると、ステラがテーブルの上に立ちあがり、リンリンを挑発し始めた。


「ほぉらリンリンさぁーん。ビビってるんですかぁ?」


「は、はぁ!? ビビッてないんですけど! 本当はビビッてないんですけど!」


「リンリン! これは恐らく『バイオレットリーパー』に入る為の試練だ! 腹を括るんだ! やれ!」


 何故か息を荒くしながらそんな事を言い始めたスカーレット。コイツだけはまともだと思っていたんだが、まさかそっち側だったとは……。呆れながら眺めていると、どうやらリンリンも覚悟を決めたようで、ステラと同じようにテーブルに立ち上がった。その様子を見て、酒カス共が下らない野次を飛ばし始める。


「フウゥゥッ! いいねぇ! オモロイ事になってきたやんけ!」


「POW! POW! POW!!」


 とても朝とは思えない程に騒がしくなるギルド内。騒がしい歓声の中、ステラとリンリンはテーブルの上で軽い準備運動を始める。そして──


「「じゃんけぇーーーーーん!!」」


 人類史上、最も意味不明で下らない戦いが始まった。俺は戦場から少し離れたテーブルに座り、ギルドの店員を一人呼び寄せる。


「アイスコーヒー1つ」


 残念ながら、コイツ等を皆殺しにする以外にこの場をおさめる方法が思いつかなかった俺は、全てを諦め傍観に徹する事にした。一体、なんでこんな事になってしまったのだろうか。


「……朝から何やってるの? 君たちは」


 じゃんけんに負けたステラの上着が剥奪される姿を眺めていると、テーブルの下辺りから聞き覚えのある少年の声が聞こえてきた。目を向けると、そこには「ホワイトパール」のリーダー、アルトの姿があった。


「お前か。気にしないでくれ、いつもの事だ」


「これがいつもって……まぁ、ここのギルドなら普通か」


 まるで動物園の珍獣コーナーでも見るかのような目をするアルト。コイツがポカリ街に来てまだ数日しか経っていない筈だが、慣れというのは恐ろしいな。なんて事を考えていると、アルトがこんな事を聞いてきた。


「あ、そうだテッド。君たち今日予定ある?」


「朝からあんな事してる奴らと、それをコーヒー飲みながら呑気に眺めている奴にそんなものあると思うか?」


「確かに無いね」


「だろ?」


「じゃあみんなで海行かない?」


「あぁ。別に構わな……え、海?」


 流れるような会話の中に放り込まれた唐突な誘いに、俺は一瞬戸惑ってしまった。



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