86 信頼
「ごめん遅れちゃった……ってもう終わってるし」
気だるげな感じで現れたジャスパーが、倒れているスカーレットとリンリンを見てそう口にした。
「なんだ起きれたのか。てっきり来ないのかと思ってたが」
「そうしようと思ったんだけど、今日は珍しく普通に起きれたから仕方なく来てやったわ。感謝しなさい」
「嫌々来たのが丸分かりな上に随分と偉そうだな。まぁどうでもいいが」
まだどこか眠そうなジャスパーとそんな会話をしていると、倒れているスカーレットが目を覚まし、ゆっくりと体を起こした。
「……ここは」
「おー気が付いたわね。ほら取り敢えずこれ飲みなさい」
「お前は確かジャスパー……だったか。すまない、ありがとう」
そう言って、ジャスパーから受け取った水筒を口にするスカーレット。しかし数秒後、スカーレットは何故か苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「なんだコレはっ……。けほけほっ。水じゃ、ないっ?」
「えぇ。それはウイスキーよ」
「何してるんだお前は」
俺はジャスパーの頭を軽く引っぱたく。
「私は水なんて一言も言ってないわ」
何故かドヤ顔を浮かべるジャスパー。寝起きだからか2日酔いなのか知らんが、普段よりも若干テンションが高めで鬱陶しい。なんて思っていると、スカーレットがどこか寂しげな表情を浮かべながら口を開いた。
「……お前は、心配じゃなかったのか?」
「ん、どっちに言ってる? 私?」
「そう、お前にだ。お前からは、テッドを心配する気持ちが全く感じられない。まるで、最初からテッドが勝つ事が分かっていたかのようだ」
「あーね。なんて言えばいいのかしら……んー」
少しの間、わざとらしく考える素振りを見せるジャスパー。
「まぁ、普通に戦ってコイツが負けるなんてあり得ないでしょ。これはアンタたちが相手だったからとかじゃなくて、誰が相手でもね。コイツ、強さ以外なんの取り柄も無いんだから」
そう言って、親指で俺を指し示すジャスパー。最後の一言は本当に余計だったが、言われてみれば確かにその通りなので特に反論はしなかった。
「……ふふっ。そうか……あはは」
「どうしたのよ急に笑い出して。変な所打った?」
「お前が酒なんか渡すからだろ」
「ふふっ……いや、どちらも違うよ。そうか、お前は随分と仲間から信頼されているんだな、テッド」
柔和な笑みを浮かべ、そう口にしたスカーレット。しかし、その表情はどこか儚げだった。まるで、もう二度と戻らない大切な何かを懐かしむかのように。
「……私たちも、もっとお互いを信じ合えていれば、こんな事にはならなかったのかな……」
そう呟き、瞳にうっすらと涙を浮かべるスカーレット。恐らく、かつての「レッドホーク」を思い出して感傷に浸っているのだろう。その場に蹲り、小さく泣き始めたスカーレットに俺は声を掛けた。
「取り敢えず、この勝負はお前たちの負けだ。約束通り、お前たちには今日から『バイオレットリーパー』に加わってもらう。いいな?」
「うわぁ……。泣いてる女の子になんて声かけるのかと思ったら、まさかの業務連絡……。なんかもう逆に流石だわアンタ、うん。マジでノンデリ発言させたら天下一ね」
「そうか? 必要な情報を引き出す為に過去を想起するのはいいが、過去を振り返っていちいち感傷に浸る行為に意味があるとは俺には思えない。変えられないものに感情を振り回されるなんて時間の無駄以外の何物でもない」
「あー……はいはいはい、そうね」
「流石にテキトーすぎるだろ。もう少し頑張れよ」
面倒くさいものを見る目で大きく欠伸をするジャスパー。見てるかスカーレット。これが俺たち「バイオレットリーパー」の絆だ。
「ん? っていうか、あれステラじゃない?」
ここから少し離れた場所を指さし、そう口にしたジャスパー。目を向けると、そこには生まれたての小鹿のような足取りで、ガクガクになりながらこちらへ歩いてくるステラの姿があった。
「テッド……しゃん。ジャスパー……しゃん」
「ぶっ! あはははははは! やっぱりステラだぁ! 2日酔いで顔しっろ! あっははははははは!!」
顔面蒼白になりながら一生懸命こちらへ歩いてくるステラを見て、何故か大爆笑し出すジャスパー。まぁ確かに見ていて滑稽ではあるが、かといって興味が維持できる光景でもない。そんな風に思っていると、ジャスパーが手を大きく広げ始めた。
「おいでおいで!」
「あ……あう~。ジャスパーしゃ~ん」
「はぁい到着! よくできましたぁ! ぶふっ……! ヤバい、ツボったかもっ……あははははは!!」
ガクガクのステラを抱きしめて大爆笑するジャスパー。そんな意味不明な光景を前に、ドン引きした表情を浮かべるスカーレット。その目には、涙はもう流れていなかった。
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