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83 前夜


 スカーレットとリンリンとの会話を終えた俺は、再びギルドへと瞬間移動した。そして扉を開け、そのままギルドの中へと入る。


「随分と静かになったな」


「あ、テッド。アンタどこ行ってたのよ」


 人が少なくなったギルド内を見渡していると、カウンターでワインを飲んでいるジャスパーに声を掛けられた。


「色々とな。それよりこの静けさはなんだ。アルトたちや酒カス共の姿が見えないが」


「あぁそれね。『ホワイトパール』の連中は一足先に宿に戻ったわ。この街に一泊していくみたい。で、なんか静かに飲みたい気分になったから、『魅了』を使って酒カス共をさっさと帰らせたって訳」


「なるほどな。しかし、お前の『魅了』にはそんな使い方もあるんだな。てっきりアホなオス共を発情させて動けなくするだけの能力だと思ってたが」


「酷い言い方ね。まぁ『魅了』の基本的な使い方はアンタが知ってる通りだけど、力の調整次第で私に忠実な駒にしたり、別の異性に性欲の矛先を向けさせたりする事もできるわ、まぁ調整が面倒だから、大抵は身動き取れなくして終わりにしちゃうけど」


「へぇ」


 改めて、男に対しては無類の強さを誇る能力だな。だが、この能力は使用者本人の容姿や色気といった魅力によって効果が大きく左右されてしまう。魅惑的で美しい容姿を持つコイツでなければ、この能力はここまで機能しないだろう。あの時コイツを始末しなかったのは、情報を引き出す為だけでなく、俺には扱いづらいこの『魅了』を所持している点も大きい。


「あ、テッドさぁん、ジャスパーさぁん。2人きりで何喋ってるんですかぁ?」


 ジャスパーと話していると、横から青ざめた表情のステラが顔を出してきた。


「ステラ、アンタ飲み過ぎよ」


「確かに……。今日は久々に羽目を外し過ぎちゃいましたぁ……。さっき滅茶苦茶吐いたのに……まだ頭が痛いです……うぅ……」


 カウンターに座って、そのまま顔を伏せるステラ。そんなステラの頭を撫でながら、ジャスパーは再び口を開く。


「てかさぁ、アンタ今回の戦いどこで何してた訳?」


「南ゴルゴン山で会ったもう一人の俺と戦ってた」


「あぁ。あのアンタのクローンね」


 そうか。そういえばコイツ等はクローンが俺の方である事をまだ知らないんだったな。一瞬説明しようかと思ったが、なんとなく今は気が乗らなかったのでやめておいた。


「でもアンタなら瞬殺でしょ?」


「いや、どうやら魔王から魔力をさらに貰ってたらしくてな。倒すのに苦労した」


「それ嘘。どうせ私と戦った時みたいに遊んでたんでしょ」


「さぁな」


「私的には、アンタに七幻魔全員倒してもらいたかったんだけどね。七幻魔の能力全部コピーしたアンタとか、ほぼ無敵じゃん。そしたら私も安全だしさ」


「俺もできるならそうしたかったが、結局倒せた七幻魔は一人だけだったな」


「流石ね。誰倒したの?」


「ガイアとかいう奴だな。序列第二位の」


「えっ、ガイアを倒したの? マジ?」


 俺の一言に、オーバーリアクション気味に驚くジャスパー。


「……アンタが強いのは知ってたけど、まさかあのガイアを倒しちゃうなんてね……。って事は、今のアンタはアイツの能力をコピーしてるって事?」


「そうだな」


「まさに鬼に金棒ね……。なんかアンタがどこまで強くなるのか、俄然興味が湧いてきたかも」


「これからの戦いが余計退屈なものにならなければいいんだがな」


「というと?」


 首を軽く傾げるジャスパー。


「ガイアを倒す前から、俺は大抵の攻撃を防御魔法で無効化できていた。にも関わらず、そこにガイアの『硬化』まで加わってしまった。最早不死身である必要性を感じなくなる程の絶対防御だ。これから先、俺にまともにダメージを与えられる奴が現れるのか不安でな」


 俺の言葉にしばらく言葉を失うジャスパー。すると、いつの間にかジャスパーの横にいたステラがドン引きした様子で口を開いた。


「……今の聞きました? ジャスパーさん」


「……えぇ、聞いたわ。何今の天狗発言。調子乗り過ぎててサムかったわぁ……」


 わざとらしく身震いして見せるジャスパー。すると、ステラは俺を挑発するように、今まで見たことの無いような変顔をし始めた。……一体なんのつもりだ?


「ゼッタイボウギョダ! ゼッタイボウギョダ!」


 そしてステラは、わざと舌足らずな感じで「絶対防御」という言葉を復唱し始めた。……もしかしてコイツ、俺のモノマネしてんのか?


「……ぶふっ! あはは! え? ステラそれテッドの真似!? あははっ! ヤバいツボったかも! メッチャウケる! アハハハハハハ!!」


 普段の妖艶な雰囲気から一変、無邪気な子供のように笑い転げるジャスパー。相変わらず変な所で笑う奴だな。すると、ジャスパーのリアクションが余程嬉しかったのか、ステラはさらに調子に乗り始めた。


「テンサイデゴメンナ! サイキョウデゴメンナ! ムソウシチャッテホントゴメンナ!!」


 奇妙なリズムに乗り出し、最早俺が言った覚えのない台詞まで捏造し始めるステラ。そして、それを見て大袈裟に笑うジャスパー。まぁ本人たちが楽しいなら何でもいいか。しばらくその様子を呆然と眺めていたが、ここで俺はある事を思い出した。


「そういえば、明日の事でお前らに伝えなきゃいけない事がある」


「パプリカキャノーーーン!!」


「聞け」


 俺はいつまでも騒ぎ続けるステラの鳩尾にボディブローをかます。ステラは殺虫剤を吹き掛けられたゴキブリのように床でジタバタすると、近くにあったゴミ箱に思い切り嘔吐物をぶちまけた。その様子を見てジャスパーの表情が苦笑いへと変わった。


「ホント容赦無いわね……アンタ」


「新技パプリカキャノンだ」


「つまんな。で、伝えたい事って?」


 先ほどの大笑いが嘘のように真顔になるジャスパー。何か釈然としなかったが、まぁ話を聞くならなんでもいい。


「明日の朝7時、俺は『レッドホーク』のスカーレットとリンリンと勝負する事になった。俺が勝ったらアイツらを『バイオレットリーパー』に引き入れる。負けた場合は知らん。お前らも来たければ勝手に来い」


「え、ちょっ……は? 『レッドホーク』と勝負? なんで? というか、勝ったら引き入れるってアンタ──」


「後でそこのバカにも伝えておけ。俺は戻る」


「オロロロロロロロ……」


 驚くジャスパーとマーライオンと化したステラを置いて、俺はギルドを後にした。



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