80 世界地図
俺は、アルトが広げて見せた世界地図を覗き込む。
地図の中央には4つの大きな島が密集しており、それ以外の大部分は薄い水色で塗りつぶされていた。
「いいかい、テッド。僕たちがいるのがこの島」
アルトは子供に勉強を教えるような口調で、中央に密集した4つの島の1つを指差した。続けて指を動かし、地図の大半を占める水色の部分を示す。
「そして、中央の陸地以外の水色の部分全てが海だ。これらは全て海水という塩水でできている」
「ざっと見たところ、この地図の7割近くがその海とやらで覆われているな」
「そうだよ。この世界の大半は海でできているのさ」
何故か少しドヤ顔でそう言ったアルト。まぁ別にどうでもいいが。
「なるほどな。いつまで経っても魔王城を探し出せない理由は、この海にもあるという訳か」
「その通り。普段、魔王城は魔法で姿や気配を消している上、この広大な海の上を飛び回っている。優れた飛行魔法と感知魔法を有している魔法使い総出で探したとしても、奴らを見つけるのは至難の業だろうね」
至難の業……というより、最早実行するだけ時間の無駄という感じだな。そんな感想を抱いた俺だったが、ふと、世界地図の一番外側の部分へと目を落とす。そこには、白い雲のようなものが海全体を囲うように描かれていた。
「この白い部分は何だ?」
「あぁ、それは霧だね」
アルトは軽く咳払いをして、さらに続ける。
「陸地を出て海を進み続けると、どの方向へ進んでもこの霧の壁にぶち当たるんだよ。まぁ、この霧については未知な部分が多くて、その正体はまだ明らかになっていないんだけどさ」
「霧の外はどうなってる? さらに海が広がっているのか?」
「これがまた不思議な話なんだけどね、この地図の端まで移動して霧を抜けるまで進み続けると、いつの間にか正反対の場所へ移動しているんだ。一説によると、この世界が球体のような形をしているからだとかなんとか」
「へぇ」
どうやらアルトもその辺りは詳しく分かっていない様子。
すると……
「それはちがいましゅよぉ~。うぃ~」
突然、俺とアルトの横からステラが現れた。かなり飲んだのか、凄く酒臭い。
「ステラお姉ちゃん。何が違うの?」
そんな言葉を投げかけるアルト。ステラの言う事なんて、まともに取り合うだけ時間の無駄だというのに、随分と優しいな。
「いいでしゅかぁアルトしゃぁーん。この世界の海を覆う霧の外にはぁー、魔界が広がってりゅんでしゅよぉー」
「魔界?」
「そうでしゅよぉー。わたしたちのすむせかいがにんげんかいでぇー、まかいはまぞくたちのすむせかいなんでしゅよー。そしてぇー、きりにはまほうがかかっていて、そのきりをあびたものはぁー、まかいにふみいるまえににんげんかいのはんたいがわにとばされちゃうというわけなのですぅー」
酔いが回り、さらに呂律が回らなくなるステラ。断片的にしか聞き取れなかったが、その内容はおとぎ話じみたロクでもないものだった。まぁメルヘン脳のステラらしい戯言だな。
「へぇーそうなんだぁ。ステラお姉ちゃんは物知りだね!」
カスみたいな酔っ払い女に絡まれたにも関わらず、満面の笑みでそう返すアルト。子供らしい言葉遣いだが対応は大人そのものだな。だが、ステラ相手にそれは逆効果。この女は褒めれば褒めるほど調子に乗るタイプだ。
「でしょお~。さすがはあるとさぁ~ん。てっどしゃんとちがってみるめがありますぅー。おっとっと~」
アルコールが回り過ぎて足元がおぼつかない様子のステラ。見る目が無いのは目の前すらロクに見えていないお前の方だろ……なんて言おうと思ったが、なんとなく面倒になったので止めた。すると、膝をついたステラの前に数人の飲んだくれたちが現れる。
「オイオイステラちゃん! 酔いつぶれるにはまだはえーぜ?」
「みなしゃん……。そうですね、わたしたち、がんばりましたもんね!! もっとのんでおどらないとですよね!」
「あぁ、夜はここからだぜ! さぁ野郎共! 血管ブチ破れるまで飲みまくるぞおおおおおおお!!」
「「フオオオウウウウウッ!! 」」
やかましい叫び声と共に、ステラ含む飲んだくれたちが同時に酒をイッキし始めた。
「「GUI! GUI! GUI! POW!!」」
「……なんていうか、凄いね、君のギルドは。いつもこんな感じなの?」
「あぁ。まぁ気にするな、適当に黙殺してくれ」
「これを完全無視できる君も君だけどね……」
飲んだくれのカス共どころか、何故か俺にまでドン引きし始めるアルト。心外極まりない。……と、ここで俺はある事に気が付いた。
「……『レッドホーク』の姿が無いな」
窓の外を見渡しながら、俺はそう呟いた。
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