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77 真相


 それは、クローンテッドがオリジナルテッドを見逃し、その場を去っていった直後の事。


「……まさか、よりによって彼に気付かされるなんてね」


 オリジナルテッドは、魔王城のとある広間で仰向けになりながらそう呟いた。オリジナルテッドの脳裏に浮かんでいたのは、2年近く会っていない恋人の顔だった。


「……最初は、世界に本当の平和を取り戻したくて冒険者になったのに、研究者の口車に乗せられてクローン計画に協力して、気が付けば魔王軍の転送屋……。そして、いつの間にか自分のクローンを倒す事ばかりに執着して……本当、何をやってるんだ僕は。自分の実力を過信して、身の丈に合わない夢に憑りつかれて、本当に大事なものを見失っていたなんて……」


 テッドはボロボロの体を無理矢理動かし、ゆっくりと立ち上がった。そして、魔力感知の範囲を広め、ノアを魔力を探し始めた。


「頼む、無事でいてくれ……。ノア……」


 祈るように目を瞑るテッド。しばらくして、テッドは微弱な魔力の波を感知する事に成功した。急いで感知した魔力の解析を進めるテッド。しかし……


「なんだこの魔力。弱ってる……というより、意図的に弱めてるみたいだ。まるで、僕に感知されないように気配を消しているかのような──」


 直後。

 目に映らない正体不明の攻撃がテッドを襲った。


「──ッ!」


 しかし間一髪。残り少ない魔力を使って瞬間移動を発動したテッドは、これを回避した。


「ほう、よく避けたな。流石は元『レッドホーク』のメンバーだぜ。まぁ、今は俺もだがな」


 テッドが攻撃を避けると同時に、謎の男の姿が徐々に浮き彫りになっていく。どうやら、姿と気配を消す類の魔法を使っていたらしい。


「よぉ、久しぶりだなテッド。モンスターに食われてくたばったと聞いていたが、まさか生きてやがったとはな」


 テッドの前に姿を現したのは、元「レッドホーク」のリーダーであるサルタナだった。


「……君は?」


「あ? なんだそのマヌケ面は。まさか、俺の顔を忘れたって言うんじゃねぇだろうな」


「いや、僕は君なんて知らない……。一体何の……」


 直後。テッドはある事を思い出した。

 それは、クローンテッドが「不老不死イモータル」に目覚める前、短期間だが若手パーティに所属していた時期があったという事。そして、クローンテッドはそのパーティを追放されてしまったという事。

 そこでテッドは気が付く。

 この男が、自分をかつてパーティから追放したクローンテッドだと勘違いしているという事に。


「ま、待て。違うんだ! 君が言ってるのは僕の事じゃなくて、もう一人の──」


 ダンッ!


 ……と、テッドの言葉を遮るように、サルタナは地面を思い切り踏みつけた。


「テメェしらばっくれてんじゃねぇぞ、あ? ナリも口調も全く同じ、オマケにその忌々しいクソステータス。こんだけ特徴が一致してて人違いだぁ? しばらく会わねぇ内に随分と偉そうな事ほざくようになったなァ、テッドォ……」


 狂犬のような目つきでテッドを睨みつけるサルタナ。

 今のテッドはトリガーとして覚醒してしまったが故に、サルタナの知っているクローンテッドの特徴と完全に一致してしまっていた。


「まぁいい。お前が俺の事を忘れちまった事も、どうやってあそこから生き延びたのかも、正直どうでもいい。重要なのは……お前を直接ぶっ殺せるチャンスが巡って来たって事だけだ」


「なっ──」


 直後。

 サルタナの背後から、禍々しい魔力によって生み出された黒紫の巨人が出現した。


「そうか、君もトリガーに……。いやそれよりも、何故君がその力を使えるんだ!?」


「トリガー……? まぁいいや。そうさ、俺もテメェと同じになったのさ。何の情報も得られないクソステータスになっちまったが、魔法を無詠唱で使えるってのは悪くねぇ。オマケに魔力の消費量もかなり減って……」


「違う! 僕が言っているのは、その背後の黒い巨人の事だ! 一体どこでその力を手に入れた!?」


 サルタナの背後から現れた黒紫の巨人。

 それは、先ほどの戦闘でクローンテッドが見せた力と全く同じものだった。必死の形相で叫ぶテッドとは対照的に、サルタナは気だるげな様子で口を開いた。


「俺はこの力に目覚めた後、黒い扉のあるダンジョンへと向かった。テッド、あの時テメェを追放したあのダンジョンだよ」


「追放……黒い扉……「復讐の剣(エリーニュス)」を封印していた、あのダンジョンの事か……」


 サルタナに聞こえない程度の声で、テッドがそう呟いた。


「テメェをパーティから追放したあの時。誰も通れなかったあの黒い扉を、テメェだけが通ることができた。だから俺はあの黒い扉を調べ、このクソみたいな力の正体について調べる事にした。だが、いざ着いてみれば、あの時の黒い扉は粉々にブチ破れてやがった」


「……なんだって!?」


 思わず驚愕するテッド。

 かつてクローンテッドが追放された黒い扉を通過できるのは、テッドとクローンテッドのみ。いや、正確にはこの2人以外は黒い扉を通過するどころか、黒い扉に干渉する事すらできない。しかし……


「(どういう事だ……? 僕が最後にあの黒い扉を視察しに行ったのは、南ゴルゴン山でクローンと戦う前日。その時、扉は正常な状態だった……。まさか、クローンが南ゴルゴン山からポカリ街に帰還した後に破壊したのか? いや、だがクローンがポカリ街に帰還してから魔王軍が街を襲撃するまで、クローンが街を出たという報告は受けていない……。という事は、あの黒い扉を破壊した第三者がいる……!? でも、だとしたら……まさか……)」


 取り乱しながらも思考を整理していくテッド。そんなテッドを余所に、サルタナはさらに続ける。


「で、折角だから黒い扉の奥を覗いてみたら……見渡す限り白骨化した死体の山だった。20~30分調べたが、特に面白いモンもねぇし、帰ろうかと思ってた矢先、俺はそのさらに奥に隠し部屋を見つけた」


「さらに奥の隠し部屋……?」


 あの部屋に何度も行った事のあるテッドですら知らない情報が、サルタナの口から語られる。


「そして、その隠し部屋には……無数の魔導書が眠ってやがった。今まで見たことが無い禁術について記されたものばかりだった。この黒い巨人も、その魔導書に記されていた禁術で呼び出したものだ」


「バカな……じゃあ彼は何故この力を……」


「納得したか?」


「……大体はね。けど一つ納得がいかない事があるよ。どうして君が僕を殺そうとしているのか、その動機が全く理解できない」


 至極当然な疑問を口にするテッド。

 サルタナは再び鋭い目つきでテッドを睨みつけながら、口を開いた。


「……テメェは疫病神だ、テッド」


「なんだって?」


「テメェが来るまで、俺たち『レッドホーク』は順風満帆だった。期待の若手パーティと持て囃され、金も力も名声も……全てを手にする最強パーティになる筈だった! だが、テメェが来たせいで……全てが狂い始めた!」


「……でも、だから追放したんだろ? それでいいじゃないか」


「いい訳ねぇだろ。クソ奇妙なステータスをぶら下げたテメェを追放したせいで、今度は同じステータスになっちまった俺も、全く同じ理由で『レッドホーク』を追放されちまった。期待の若手パーティのリーダーから一気にどん底に突き落とされたのさ!! 分かるか? つまり俺がこうなっちまったのは、奇妙なステータスをぶら下げたテメェが俺の前に現れて、俺にパーティを追放されたせいなんだよ!!」


「……イカレてるよ、君」


 自業自得という言葉など一切知り得ぬ、身勝手で自分勝手極まりないサルタナの言い分に、思わず言葉を失ってしまうテッド。挙げ句それが人違いとなっては……怒りや恐怖を通り越して、思わず呆れてしまうテッド。


「……ふふっ」


 そして、テッドはそんなサルタナを見て、小さく笑った。


「は。お前、今笑ったか?」


「あぁ、笑ったよ。可笑しくてつい……ね」


「偉そうにしやがって……。オイ、今なら殺すだけで見逃してやる。謝れ殺すぞ」


 滅茶苦茶すぎるサルタナの言葉に、テッドはさらに笑った。


「あー可笑しい。キミ、さっきまでの僕に本当そっくりだよ」


「あ?」


「自分の力を過信して、思い通りにいかなかったら誰かの所為。甘いんだよそんなの。結局、君がパーティを追放されたのは、これまでの君の身勝手な行いや発言の所為だ。誰かの所為なんてことは無い。パーティを追放されて、どん底まで落ちた。それが君だ。最初から器じゃなかっただけの事。それ以上でも以下でも無いんだよ」


 先ほどまでの自分を思い浮かべながら、テッドはそう口にした。


「は。は。えら、そう、に、し、やが、って……」


 サルタナはぶつ切りの言葉を口にする。その様子はまるで壊れたロボットのよう。そして……


「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!! テッドオオオオオオオッ!!!!!!!! デメェッマジッコロッゾァ!!!! アアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」


 サルタナは頭を掻きむしり、目を血走らせながら、狂ったように激昂した。

 やがて、その叫び声は獣の咆哮のように、眼球は真っ赤に染まり、肌は薄い紫色へ変化していった。


「引き金を見失ったか……。キミ、このままだと只のバケモノになっちゃうよ……って、そんなところまでさっきの僕にそっくりだな」


 満身創痍の体に鞭打って、テッドは闇の巨人を従えし怪物と対峙する。

 先ほどまでの自分を投影したかのような怪物を倒し、新たな自分へと生まれ変わる為に。

 そして、この手でもう一度恋人を抱きしめる為に。

 テッドは怪物へと立ち向かっていった。


 

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