74 選択
異質な気迫を放つ黒と金で装飾された謎の扉に、俺は目を奪われていた。他の扉とは明らかに違う造りをしているから……ではない。この扉からは、俺が追ってきた異質な魔力を特に強く感じる。恐らくあの奥に魔王が……。俺は扉を見据えたまま、ゆっくりと一歩を踏み出し──
「テッドさん!?」
すると、後方から俺を呼び止める声が聞こえてきた。この何度も聞いてきた耳障りな声は……間違い無い、アイツだ。
「テ、テッドしゃぁ~~ん!!」
瞳に涙を浮かべながらこちらに向かって猛ダッシュしてきたのは、我らが「バイオレットリーパー」のメンバーステラだ。ダッシュで駆け寄って来たステラは、俺に向かって飛びついて抱き着こうとしてきた。
「フン」
俺は飛びついてきたステラの胸倉を掴み上げ、そのまま後ろに放り投げた。
「ハエが」
「私、仲間に向かってその手の台詞を言ってる人初めて見ましたよ……」
「何故お前がここにいる。お前は防衛チームの筈だろ」
「無理矢理連れてこられちゃったんだってさ」
すると、後ろから艶やかな女の声が聞こえてきた。声のする方へ目を向けると、そこには元七幻魔の序列第四位にして、現在は「バイオレットリーパー」のメンバーであるジャスパーの姿があった。
「無理矢理連れてこられた? 誰に」
「レオっていう金髪イケメンのホストみたいな奴だって」
レオ……魔王軍が来る直前、アルトとゼキラが揉めていた際に初めて聞いた名前だ。確か、ゼキラが所属する「ブラックファング」のリーダー的存在だった筈。しかし、今回のポカリ街防衛には不参加だと聞いていたが、どうやら遅れて来ていたらしいな。
「全く! テッドさんにも少しはレオさんを見習ってほしいものです!」
「なんだお前。そのレオって奴に惚れたのか。さてはホスト狂いにでもなったか」
「違いますよ! 確かにレオさんはちょっとチャラそうなところありますけど……でも私の事好きって言ってくれましたし、すごく優しくしてくれたんですよ!」
「お前の事が好き? そんな事はあり得ないな。大方、甘い言葉でたぶらかしてお前を太客にでも育てたかったんだろ」
「だから違いますって! というか、外見がホストみたいってだけで本当にホストって訳じゃ無いですから!」
頬をフグのように膨らませるステラ。声だけでなく顔面まで騒々しい奴だ。
「それに、レオさんは凄く強いんですよ! もしかしたらテッドさんと同じくらい強いかもしれませんよ!」
「ほう」
何故か自分の事のように自信満々にそう言い切るステラ。もしかすると、ガイアをあそこまで追い詰めたのは……。いや、今となってはどうでもいい話だな。
「アンタたち本当仲いいわねぇ。友達通り越して兄弟みたい」
呆れた笑みを浮かべるジャスパー。
「あっそうだ。ねぇテッド、ステラのレベルが100に到達したんだけど……」
「おめでとう」
「少しは興味持ちなさいよ。それで……ちょっとこれ見てくれない? ステラ」
「あ、はい!」
ジャスパーに手招きされ、ちょこちょことこっちへ近づいてくるステラ。そして、ステータス画面を開示し、俺たちに見せてきた。
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レベルが100に到達しました。
以下から1つ選択してください。
≪継続≫
≪転職≫
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「あぁ。……で?」
俺が吐き捨てるようにそう口にすると、2人が呆れたような表情を浮かべる。
「本当に鈍い男ね。今の職業を『継続』するか、新しい職業に『転職』するか迷ってるから、貴方の意見が欲しいって事じゃない」
「いいんですよジャスパーさん。テッドさんにそんな事期待してませんから。しかし本当に迷いますね……。『継続』すればステータスをどんどん鍛えられますし、上級職に『転職』すれば通常職よりも強力なスキルや魔法が手に入りますし……。ステータスと魔法・スキルってどれを極めるのが一番いいんでしょうか」
「全部だろ」
「はいはい、さすテドさすテド。テッドさんは全部持ってますからそういう意見になりますよね~。普通はどれか一つ極めるだけでも滅茶苦茶大変なんですからね~」
煽り口調でそう捲し立ててきたステラ。全体的に不愉快だったが、特に「さすテド」(確か流石テッドの略称だった気がする)を連呼している時のコイツの顔のウザさは別格だった。思わず引っぱたきたくなるほどに。
「もういい、貸せ」
「え?」
俺はステラのステータス画面に近づき、「転職」と記述された部分を指で触った。
「あぁ~~~ッ!!? 何してるんですかテッドさぁん!!」
「悩むだけ時間の無駄だ。……新しい職業を選択? 上級職なら別になんでもいいだろ」
特に職業の詳細を見ることなく、俺はステラの職業を勝手に選択した。決して、先ほどの腹いせにやった訳では無い。本当に。
「ひ、酷いですテッドしゃぁん!! 私の人生における重要な選択を勝手に決めちゃうなんてぇ! 私の人生なんだと思ってるんですかぁ!?」
「どうも思わん。それより、上級職に『転職』したんだからいい加減俺の役に立てよ。穀潰しの寄生虫が」
「うわあぁぁぁん!! ジャスパーしゃぁん!!」
赤ん坊のようにぐずりだし、ジャスパーに抱きつくステラ。ジャスパーはそんなステラの頭を優しく撫でる。
「アンタねぇ……。今回、この子かなり頑張ったのよ? 少しは褒めてあげてもいいじゃない」
「……あぁ、分かってる」
聞き取れない程度の小さな声でそう口にする。魔王軍が襲撃してくる前、ステラのレベルはそこまで高いものではなかった。それが今、一気にレベル100に到達している。相当格上の相手……七幻魔クラスの相手を倒しでもしない限り、こんな芸当は不可能だ。ジャスパーと協力して戦ったのかもしれないが、ステラが普段以上に頑張ったであろう事は、何となく想像がつく。
「……ステラ」
今まで発した事が無いであろう言葉を口にしようとした──その直後。
「なんだ?」
突如、魔王城全体が何らかの巨大な衝撃によって、大きく揺れ始めた。
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