69 光と闇
「あぁ。お前も目覚めたのか、トリガーに」
変化した僕のステータスを見て、クローンは心底どうでもよさそうにそう呟いた。
「そうみたいだね。というか君、なんでトリガーの事知ってるの?」
僕は疑問をそのまま口にした。以前対峙した時、彼はトリガーの事はおろか、自分が何者なのかも知らなかった筈だ。しばらくすると、彼は感情の読み取れない表情のままゆっくりと口を開いた。
「ある人物から聞かされた。希少な能力者であるという事以外、知ってる事はほとんど無かったがな」
「それでよく僕がトリガーに目覚めたと分かったね」
「まぁ感覚でな。しかしなるほど。このふざけたステータスはトリガーに目覚めた証だったのか。いい事を知れた」
そう言うが、微塵も感情が乗っていないクローン。まるで人形が喋っているかのようだ。しかし、彼に情報を流したある人物というのは一体何者なんだろうか。タイミングから見て、彼が僕のクローンである事を教えたのもその人物で間違いなさそうだが……。もしそうだとするなら、随分と余計な事をしてくれた。クローンがある筈の無い記憶を求めて右往左往する姿を見るのが僕の楽しみだったのに。でもまぁいいか。力を手に入れた以上、もう彼に……この人形に固執する理由も無くなった。コイツを倒して、今度こそ僕は自分を取り戻すんだ。
「これ以上何かを知ったところで無意味だよ。君はここで僕に殺されるんだから」
「似たような台詞を何度も聞いてきたが、今度は期待していいのか?」
どこまでも上から目線で話すことをやめないクローン。自分が最強であると信じて疑わなかった……自信過剰だった頃の僕を見ているみたいだ。今までの僕だったら、彼のその態度に憤慨していただろうけど、今は不思議と怒りの感情は無かった。
「君が僕より上だった理由……それはトリガーであったからに他ならない。だけど、同じ条件ならクローンの君よりオリジナルの僕の方が強い」
「土俵に立っただけだろ」
吐き捨てるようにそう言ったクローン。チリッ……と、互いの殺気がぶつかり合うのを感じた。
「──ッ!!」
直後。僕とクローンは同時に手をかざし、巨大な炎の矢を無詠唱で放った。威力はほぼ互角。相殺された炎の矢が無数の火の粉となって四方八方に飛び散っていった。
「少しはやるようになったみたいだな」
「その余裕……どこまで保てるかな!」
続けて水の弾丸、雷の槍、風の刃、岩の鎚……遠距離魔法を片っ端から放っていく。クローンもほぼ同時に僕と全く同じ魔法を放ってくる。どうやら、まだ遊ばれてるみたいだね。でも、もうさっきまでのようにはいかないよ!
「……!」
先ほどよりもさらに強力な炎魔法を放つと、クローンはとっさに水魔法の壁でそれを防御した。すると、クローンの表情が僅かに動くのが見えた。どうやら今のは想定以上の威力だったみたいだね。しかし、これがトリガーの力か。なんて痛快なんだ、力が溢れてしょうがない……。魔法を無詠唱で、より強力に、より精密に扱えるようになっただけでなく、魔力の消費量もかなり減少している。本当、夢のような力だ!
「はっははは!」
思わず声に出して笑ってしまう。それだけ気分が良かった。
僕は地面に手を叩きつけ、巨大なゴーレムを召喚した。
彼の魔法は僕と同じで全てが一級品だ。だが、その中でも雷魔法の力は一線を画している。理由は単純。彼はかつて青い竜・雷帝(彼は確かイカズチって呼んでた気がする)を倒して、その力をコピーしているからだ。だからこそ、雷魔法と相性のいい土属性のゴーレムを召喚させてもらった。これで彼のお得意の雷魔法は封じたも同然だ。
「……」
僕はゴーレムを操作し、その巨大な拳をクローンに向けて放った。
しかし、クローンは何かを仕掛けてくる様子もなく、ただ茫然と自らに降りかかる巨大な拳を眺めていた。
ドグチャッ!!……と、ゴーレムの拳によって潰され、ただの肉槐へと成り果てるクローン。そうか、コイツ……。
「今のわざと食らったね。本当、癇に障る奴だなぁ……」
僕がそう口に出した直後。まるで時間を逆行するかのように、ぐちゃぐちゃの肉片たちがクローンの体を再構築していった。雷魔法を封じたと言っても、コイツならいくらでも防ぐ手段はあった筈。それをせずに敢えて攻撃を食らった理由。……もう分かってる。「不老不死」の弱点は光属性。いくらゴーレムで攻撃しても自分は倒せない……という事を伝えたかったのだろう。
「遊びは終わりだ」
あっという間に無傷の状態に戻ったクローンが手をかざすと、クローンの上方に巨大な黒い球体が生成されていく。不気味な威圧感を放ちながら、黒い球体はどんどんと大きくなっていく。まるで漆黒に塗りつぶされた太陽のようだった。
「……決着をつけよう」
奴が生み出した黒い球体の属性は当然闇。
ならば、迎え撃つ手段は一つしかない。
彼と同じように手をかざす。そして、彼の黒い球体とほぼ同じ大きさの白い球体を生み出した。
互いに生み出した球体を同時に放つ。
光と闇が激突し合い、辺り一帯を吹き飛ばした。
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