66 全力
一方。魔王城のとある広間にて。
「オラオラオラァ!!」
「ブラックファング」のリーダーであるレオの怒涛の猛攻が、七幻魔・序列二位のガイアに炸裂する。徒手空拳、サーベル、槍、棍棒……ありとあらゆる武器と戦法を用いたレオの自由奔放な戦いに対し、ガイアは究極の防御である「硬化」1つでこれを防ぎ続ける。レオは手持ちの棍棒を投げ捨てると、今度は巨大な手甲鉤を装備し、電光石火の連撃を放っていく。
「恐竜の鉤爪!」
連撃からの溜めの一撃。
しかし、ガイアはこれを難なく防ぐ。連続コンボが通用しなかったレオは、一度ガイアから距離を取った。
「ハッ。ダメージを通すコツは掴んだつもりだったが、『硬化』に加えて受け流しも使って上手くダメージを逃がしてやがるな」
「フハハッ! いや、中々いい線行ってたぜ!? 特にその鉤爪……いい武器持ってんじゃねぇか!」
「あーこれか。コイツは仲間の形見でな」
そう言って、腕に付けた手甲鉤に目を落とすレオ。
レオのその表情から、大切な仲間の武器だったのだろう……と、事情を知らないなりになんとなく予想するガイア。しかしその予想はてんで的外れ。実際は、ゼキラの弱さに失望したレオによって奪われただけである。故に、レオに仲間の形見に対する思い入れなんてものは存在しない。手甲鉤を外したレオは、それを地面に落とす。そして……
「そォら!」
ガイア目掛けて、手甲鉤を思い切り蹴り飛ばした。
音速を遥かに超える速度で射出された手甲鉤が、ソニックブームを放ちながらガイアの心臓を狙う。
「フハハ! なんだ、仲間の形見じゃなかったのかァ!?」
ガイアは硬化した両腕を超スピードで振るい、いとも簡単に手甲鉤を弾き飛ばす。
「仲間の形見ねぇ。そんなモンいちいち気にしてたら何も奪えやしねぇんだよ」
手甲鉤を弾き飛ばしたガイアの視線の先。
そこには、剣、槍、鎌、鎚……無数の武器を背後に浮かべているレオの姿があった。
「フハハ! とんでもない数だな!」
「だろ? コイツでお前をサボテンみてーにしてやろうと思ってな」
レオがそう言った直後、無数の武器の矛先が一斉にガイアへと向き始め……
「『返還』」
そして、一斉に放たれた。
「フハハ! まるで魚の大群だなァ!!」
ガイアは全身を硬化させ、数千もの攻撃を防ぐ。
「だが! こんなモン何千と放ろうが俺にはかすり傷つけらんねぇぞ!! レオォ!」
「まぁだろーな」
無数の武器攻撃を陽動に使い、ガイアの懐へと潜り込んでいたレオは、地面に接触してしまいそうなほど体を低く屈ませ、凄まじい速度でガイアの顎を蹴り上げた。
「ぬっ!?」
レオの一撃を食らい、一瞬意識が飛びかけるガイア。
「効いたろ? お前の技だぜ」
顎を蹴り上げられた事で視界が天上へと向いたガイア。
この一瞬の隙に、レオは渾身の右ストレートをガイアの腹部に叩き込む。
「この程度の攻撃ッ──! むッ!?」
「硬化」の力で逆にレオの拳を破壊してやろうと思ったガイアだったが、レオの拳はガイアの体に触れていなかった。
「はっ。テメェの技だっつったろ!」
直後。
レオが殴りつけた周辺の空間が歪曲し、不可視の力がガイアを吹き飛ばした。正体不明の力で殴り飛ばされたガイアは空間の壁に衝突しながら、ピンボールのように弾かれ、じぐざぐの軌道を描いていく。ガイアが衝突した空間部分は、ヒビ割れたガラスのように変化していた。
「ぐはぁっ!?」
最終的に地面に直撃したガイア。行き場を失った正体不明の力によって地面が割れ、衝撃波の爆発が辺り一帯を吹き飛ばした。
「どう? 楽しめた?」
「……フハハ! すげぇなお前……こいつは間違いなく俺の技だ! お前は奪った武器から持ち主の技を模倣する事はできるみたいだが、俺のコレはそんなレベルじゃねぇだろ!!」
自分の技をコピーされたにも関わらず、何故か嬉々として叫ぶガイア。
「はっ。まぁ結果として同じ技にはなったが、原理はまるで別物だ。お前が空間魔法を用いてこの現象を引き起こしているのに対して、俺は魔力を使って強引に空間に干渉してるだけ……つまりは、ただの力技だ」
「フハハ! まさか、お前の小さな魔力で俺の技と同じ現象を引き起こしたってのか!?」
「そうだ。いったろ? 魔力なんて最低限ありゃ十分だってよ。魔力は万物に干渉する力。だが、そこから万物をどう動かすかは自分の強さ次第だ」
魔法を極めし者とは正反対に位置する、己の強さを極めし者のみが辿り着ける世界。その世界に常識は通用しない。
「フハハハハッ!! 馬鹿げてやがる! 俺が空間魔法を使うよりも何倍もメンドクセェ方法で同じ技を使ってやがる!! 多分、こんな事できんのはテメェくらいしかいないだろうぜ! しかし惜しいな! お前は魔力量こそ少ないが、魔力を操る技術に関しては一級品だ! これで魔力にも恵まれてたら、テメェはさらにとんでもない存在になってただろうな!!」
「たらればの話には興味ねぇな。俺魔法嫌いだし、そんなモン最早俺じゃねぇ」
「フハハハハ! フハハハハ!」
レオの言葉に壊れたように笑い出すガイア。
「そんなに面白かった?」
「フハハハ! いや、つい嬉しくてな! 俺をここまで楽しませてくれる奴なんて、本当に久しぶりだからよォ!」
「人を楽しませるのが俺の生き甲斐でな」
「なら……もっと楽しませてくれるか?」
先ほどまでの豪快な笑いとは別物。桁違いの殺気を放ったガイアは邪悪な笑みを浮かべていた。レオは、それを見てニヤリと笑う。
「あぁ。楽しすぎてイっちまうかもしれねぇから、覚悟しとけよ?」
「そうか。なら……ここからは全力で相手してやる!」
「強がってんの?」
「フハハ! 楽しませてくれよォ! レオォ!」
バチバチィ! ……と、目に見えない殺気の稲妻が迸る音が、空間中に響き渡る。それと共にガイアの筋肉が膨張し、3メートル程あった巨体がさらに大きくなっていく。
「はっ。面白れぇ、まだこんな力残してやがったのか。いいぜ! かかってこ──」
消えた。
ガイアの姿が視界から消えた事をレオは認識する事ができなかった。気付けば、ガイアの拳がレオの鳩尾に直撃していた。時間が飛ばされたかのような一撃に、レオの体が数百メートルほど吹き飛ばされる。
「──ッ!!?」
魔王城の壁を何度も貫通し、ロケットミサイルのような勢いで吹き飛び続けるレオ。やがて辿り着いた別広間の壁に直撃し、巨大なクレーターと共に壁に陥没してしまう。
「ごっぶぁっっ!!?」
盛大に吐血し、壁から剥がれ落ちて地面に落下してしまうレオ。その直後、瞬間移動のような速度で同じ広間に辿り着くガイア。黒い稲妻のような殺気を放つその姿は、まさに鬼神そのものだった。倒れているレオを冷たく見下ろすガイア。その表情は、玩具を乱暴に扱って壊してしまった子供のようだった。
「レオ、確かにお前は類稀なる天才だ。桁違いの強さ、戦闘センス……加えて、この戦いの最中にさらに急激に成長して見せた。だが……」
一呼吸置いて、ガイアはさらに続ける。
「お前の成長を以てしても、俺の強さには届かない」
今のガイアは、ほぼ最強と言っていいレオの強さを完全に凌駕していた。加えてガイアは、レオにはない圧倒的な魔力も保有している。蓋を開けてみれば、力の差は歴然だった。
「圧倒的な力ってのは本当に退屈だ。お前なら、俺のこの衝動を満たしてくれると思ったんだがな……」
どこか悲しそうにそう言ったガイアは、倒れたレオに背を向ける。
すると、虫の息だったレオの手が動く。その手には、透き通った水色の液体が入った瓶が握られていた。レオは瓶の蓋を取り、中身の液体を乱暴に自分の損傷部分にぶっかける。すると、グチャグチャになっていた胴体部分の傷がみるみる内に塞がっていった。その後、余った中身の液体を頭から被ると、レオは空になった瓶を乱暴に投げ捨てた。
「っあー。死ぬかと思った」
へらへらと笑いながら、レオはすっと立ち上がる。ガイアはそれを見て小さく笑う。
「そいつは全回復ポーションか。かなりのレアアイテムだった筈だが……というよりお前、盗んでいたのは武器だけじゃなかったんだな」
「まぁな。つっても俺がここまで追い詰められる事なんて基本ねぇから、使う機会はほとんど無かったんだけどな。備えあれば憂いなしってやつだな。ちなみに全回復ポーションはあと何十個もあるぜ」
首をコキコキと鳴らしながら笑うレオ。
対して、ガイアの表情は冷たい。
「全回復ポーションか。けどなレオ。俺のたった一発の拳でお前の体力は瀕死寸前だった。つまり、回復される前に拳を数発叩き込むだけで決着は着くって事だ。分かってんのか?」
「あぁ。本当、クソえげつねぇパンチだったぜ。パラメータ平均値9でレベル270の俺の体力を一撃でほぼ削るとか……しかも全く見えなかったし。やっぱSS+の強さは別格だな」
そう言って、レオは凶悪な笑みを浮かべる。その悪辣な表情はどこか今までのレオとは違って見えた。
「いいぜ。なら、俺も本気で相手してやるよ」
「なんだと?」
その言葉にガイアは思わず目を丸くするも、すぐに冷静さを取り戻す。
「ハッタリはよせよレオ。お前の強さの底は見えた。これが『切り替え』のできる上級職持ちなら、さらに強力な職業を副職として隠し持っている可能性も否定はできないが、『盗賊』だけを極めたお前にこれ以上の隠し玉は存在しない」
「はっそうかい。なら、お前に一つ教えといてやる」
「なに?」
「目に見えるものだけが強さじゃないって事だ」
目を閉じ、大きく深呼吸をして、体を脱力させるレオ。
異様な気配と共に、レオの力が研ぎ澄まされていくのを感じるガイア。しかし、ガイアはそこで信じがたい光景を目の当たりにする。
「……? なんだ、レベルが──!?」
レオのステータス画面に記載されたレベル。そして、攻撃力や防御力といったパラメータが変動し始める。ただし……
「レベルが……下がっているだと!?」
270まであったレオのレベルが200……150……100……と、どんどん勢いを増して下がっていく。
「どうなってんだ!? 一体何が!?」
あまりにも異様な光景に、冷静な口調から再び迫力のある大声へと戻るガイア。対して、レオのステータスはどんどん変動していく。90……50……10……と、レベルは下がり続け、そして、レベル1になった時点でその変化は止まった。
「……フハハハハ! そう言う事だったのかレオ!」
変化したレオのステータス画面を見て、思わず笑い出したガイア。その目には、一度失われた期待の光が再び宿っていた。それを見て、レオは薄く微笑んだ。その綺麗な微笑はまるで天使のようだった。しかし、レオの背から展開されているのは、天使のような純白の翼などではない。それは、禍々しい黒に染められた2本の巨大な腕だった。
「納得した?」
「フハハ! あぁ! まさかお前がこんな隠し玉を持ってやがったとはなァ! まさかお前が……」
鋭い目つきと共に、ガイアは歯を剥き出しにして笑う。
「トリガーだったとはなァ!!」
ガイアは再び闘争心を燃やし、目の前の異形の存在を獣のような眼光で睨みつけた。
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レオ
レベル:1
職業:????
攻撃:???
防御:???
速度:???
体力:???
魔力:???
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