62 意識
魔王城のとある一室にて。
黒い触手に全身を浸食された俺は、再び意識を取り戻した。
だが、視界はぼやけており、体も全く思うように動かない。どうやら黒い触手に体の主導権を奪われてしまったようだ。そんな操り人形と化してしまった俺を見て、もう一人のテッドが口を開く。
「久しぶりだね『復讐の剣』」
「復讐の剣」。
あの日、ダンジョンの隠し部屋でバケモノに殺された時に得た、最強のコピースキル。
もう一人のテッドは、何故か俺をそのスキル名で呼んだ。
『よォクソガキ。しばらく見ない間に随分とナリが変わったな。魔王のヤロウから力でも貰ったのか?』
すると、俺の口が勝手に動き出し、複数の音が混ざり合ったかのような不気味な声で喋り出した。当然、今の言葉は俺のモノではない。何度か聞いた覚えのあるこの声は、黒い触手……いや、あの日隠し部屋で俺を殺したバケモノのものだ。
「まぁそんなところかな。それより君さぁ、よくも僕の許可も無しに勝手に部屋から出てくれたね。今まで君にエサを持ってきてあげたのは誰だと思ってるんだよ。恩を仇で返すのかい?」
『ハッ。あんな退屈な部屋に閉じ込められて恩もクソもあるかよ。まぁ、唯一あの部屋に出入りできるテメェと全く同じ遺伝子を持つこのガキが、あの日俺の前に現れた巡り合わせには感謝してるけどな。おかげであの部屋から出る事ができた』
「そっか。じゃあ君はその時に運を使い果たしちゃったんだね。だって君は……いや、君たちは、ここで僕に殺されるんだからさぁ!!」
もう一人のテッドの肉体が変色していき、魔力がさらに増幅していく。
その魔力は、先ほどまでのコイツとは比べ物にならないほど強大だった。
しかし……
「──ッ!? ぐぽおぁっ!!?」
それはほんの一瞬だった。
もう一人のテッドは、桁違いの速度で動く黒い触手によって、いとも簡単に吹き飛ばされてしまった。
『魔王から力を貰って、自分が最強になったとでも思ったか?』
俺の意思に反し、またも口が勝手に動く。
『生憎、その程度じゃ俺は殺せねぇよ』
「……あははは。本当君たちは、僕を怒らせるのが上手だね! あはは……あははははははぁっ!!!!」
狂ったように笑い出すもう一人のテッド。
すると、もう一人のテッドの筋肉がさらに膨張していき、体長4メートル近い巨大な悪魔の姿へと変化していった。
「アハアハアハハ!! グギャオオオオアアアッ!!!」
悪魔の咆哮を上げるもう一人のテッド。
その姿も声も、人間だった頃とはまるで別物。ただの怪物へと成り果ててしまった。……なんて、他人事のように考えてしまったが、それは今の俺も変わらないか。
さて。しばらく様子を見ていたが、これ以上コイツに好き勝手させるつもりはない。そろそろ、俺の体を返してもらうとしよう。
『クハハッ! 魔王の魔力に完全に取り込まれたか! まぁ所詮テメェは──むっ!?』
俺は、自分の精神に巻き付いた鎖のようなものを、ゆっくりと外していく。
すると、俺の体を浸食していた黒い触手が、徐々に消えてなくなっていった。
『バカな……。テメェの意識は完全に封じ込めた筈……。自力で戻って来るなんざ、到底不可能な筈なのに……』
どうやら、あの程度の封印で俺の体を乗っ取れたつもりでいたらしい。随分とおめでたい怪物だな。
『ククッ……まぁいい、今回はテメェに譲ってやる。精々自分の劣化版に引導でも渡してやるんだな』
怪物は吐き捨てるようにそう言い残し、再び深い闇の底へと戻っていった。
「……さて」
取り戻した体を軽く動かし、俺は目の前の怪物へと視線を向ける。
俺を殺す為だけに、全てを捨てて力を得ようとした哀れな劣等種。
その醜い姿を見て、俺は何故か2日前の事を思い出していた。
ノアと出会い、自分が何者であるかを知った、あの日の事を。
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