56 深淵の闇
魔王城のとある一室。
俺は、魔王から与えられた力で悪魔と化したもう一人のテッドと戦っていた。
「ハハ! いつまでそうやって逃げ回ってるつもりだい?」
「別に、ただのサービスだ。しばらく攻撃しないでおいてやるから、今の内にかかって来い」
「ハッ! いい加減その上から目線も聞き飽きたなァ!!」
そう叫んだもう一人のテッドは、爆発的な脚力で高速移動し、俺の背後へと回り込む。
「死ね! シャイニングアタッ──」
「遅いな」
巨大な光球を放つもう一人のテッドだったが、俺はそれを闇属性の魔力を纏った左手で軽く握りつぶす。
「バカな、今の攻撃を消し飛ばすなんて……なんて魔力だ」
「魔王から力を貰ってこの程度とはな。正直がっかりだな」
「他の七幻魔よりも多めに魔力を貰ったのに……なんなんだよ君の強さは……」
そう言って俯き始めるもう一人のテッド。
俺はそれを、ただ黙って無感情に眺めていた。
「君がどうして仲間を連れているのか不思議で仕方が無いよ……。それだけ強かったら、仲間なんて必要無いんじゃない?」
「どうだろうな」
「まぁ元七幻魔のジャスパーはともかく……ステラだっけ? あの子は絶対必要無いでしょ。常に君の足を引っ張っている姿が目に浮かぶよ」
「何だ。俺に勝てないと見るや、今度は仲間の方に矛先を向けて憂さ晴らしか? 流石は俺の劣化版、やる事がどこまでも小さいな」
「お前ッ……」
俺の挑発に対し、分かりやすく歯ぎしりするもう一人のテッド。本当に小物丸出しだな。
「それともう一つ、お前は勘違いをしている」
「あ? 何を勘違いしてるって?」
「お前はステラを足手まといだと決めつけたが、アイツは自分の力を自覚さえすれば、お前よりも遥かに強い」
俺の言葉に、一瞬硬直するもう一人のテッド。
そして、声を上げて笑い始めた。
「何を言い出すのかと思えば! あんな小動物みたいな女の子が僕より強い? 君の冗談でこんなに笑ったのは初めてだよ!」
「冗談でも何でも無いんだがな」
そう言った直後。
ゾワッ……と、全身の身の毛がよだつような、冷たく、暗い魔力が部屋全体に広がっていくのを感じた。だが、これは俺の魔力でもなければ、ましてもう一人のテッドのものでもない。これは……
「!? なんだこの異常な魔力は……七幻魔の? いや、これはアイツらの魔力じゃない……。じゃあ、一体誰の……」
「噂をすれば何とやら……だな」
空間を支配する異質な魔力。
どうしてポカリ街にいる筈のアイツがここにいるのかは分からないが、この魔力はステラのものだ。
「噂をってまさか……このバケモノみたいな魔力の持ち主が、あの女の子だとでも言うのか?」
「あぁ」
「でも、この魔力は人間のものじゃない。完全に魔族のものだ。一体何故……」
動揺を隠せない様子のもう一人のテッド。
その疑問に対する答えはシンプル。それはステラが魔族であるからに他ならない。
いや、正しくは人間と魔族の一面を半分ずつ持つ、人と魔族のハーフとでも言うべきか。
俺がこの事に気が付いたのは、初めてステラと出会ったダンジョンで、マンティスカメレオンというモンスターを倒した後の事だ。
あの時、マンティスカメレオンを倒していくつかのスキルをコピーした俺は、その中の「擬態」を試しに使い、自分の気配をステラのものへと擬態させていた。あの時は自分が何者なのか分からなかった為、取り敢えず気配だけでも人間のものへ近づけておこう……と考えての行動だった。しかし、そんな俺の気配を感じ取ったステラからは「魔族に近い、明らかに普通の人間の気配じゃない」という答えが返って来た。
その後、自らパーティ申請に立候補したステラを止めなかったのは、魔族の気配を持つ人間でもパーティを組めるのかを確認しておきたかったから。ステラとパーティを組むことが正式に決まった後、俺はステラのステータスを確認した。そして、ステラが表面上は人間のステータスを持ちながら、魔族としての力も持ち合わせた存在だという事を知った。
「全く恐れ入ったよ。君が彼女を仲間として連れていたのは、潜在能力の高さを見抜いていたからだったんだね……」
「……さぁ、どうだろうな。強いていうなら……」
確かに、ステラが高いポテンシャルを秘めている事には気が付いていた。だが、俺からすればそんな事は些末な事だ。俺が気になったのは、人間でもあり魔族でもある……恐らくステラ本人も自覚していないであろうアイツの素性の部分だ。パンドラの箱を抱えるその姿に、どこか自分を重ねていたのは間違い無いだろう。
だからそう、これは……
「暇潰しの保険……だな」
「……本当に、どこまでも空虚な存在だね君は。与えられた目的に沿ってしか行動できない、自我の無い操り人形だ」
「……そうかもしれないな」
短くそう答えた俺を見て、もう一人のテッドが何かに気が付く。
「もしかして……君は自分の正体に──」
その直後。
俺の右腕が不自然に震え始めた。
「……? なんだ?」
右腕の振動が徐々に大きくなり、ボコボコと不気味に脈打っていく。まるで、腕の中で別の生物が暴れているかのようだ。不気味な動きはどんどん大きくなっていき、やがて右腕だけでなく俺の全身を蝕み始める。
そして、俺の全身から無数の黒い触手が飛び出した。
「これは……一体」
無数の黒い触手が俺の体を覆っていく。
その様を、俺は他人事のように眺めていた。
黒い触手が俺の視界をも覆い始めた頃、徐々に意識が薄れていくのを感じた。
「まさか、このタイミングで出てくるとはね……『復讐の剣』」
意識が飛ぶ直前、もう一人のテッドがそんな事を言っているのが聞こえた。
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