48 失望
一方。結界を破った俺たちは、魔王城への侵入に成功した。
巨大な扉を開けて中に入ると、そこには黄金の装飾で埋め尽くされた空間が広がっていた。
「フォーーーッ! すっげぇ! 見渡す限り黄金の山じゃねぇか!!」
「魔王様は随分と金持ってんなぁ! あぁコラァ!! ヒャハハ!」
武器を取り出し、魔王城の壁を片っ端から破壊して金の破片を回収し始める「ブラックファング」たち。
コイツら、完全にここに来た目的を忘れてるな。まぁ、元よりこいつら全員と常に行動を共にするつもりはないから、別に問題は無いが。
「ジャスパー。一緒に来い」
俺はジャスパーにだけ聞こえるように小声で話す。
「なに、デートの誘い?」
「違う。元七幻魔のお前に魔王城を案内してもらおうと思ってな」
「まぁそんなことだろうと思ったわ。はいはい、じゃあ行きますか」
俺はジャスパーを連れて、広間の奥へと進む。
「おいテッド! 待て! 勝手に動くんじゃない!」
後ろからスカーレットのそんな声が聞こえてきたが、無視してそのまま進む。
「全くアイツは……自分が狙われている事を分かっているのか……」
「すみません! 本当は思ってないんですけど、あの人自己中にもほどがありますよね!」
「てか、あの二人がいなくなったら、私たちあの野蛮な奴らと一緒に行動しなきゃいけないって事ぉ? 絶対嫌なんだけどぉ」
「まぁ、今は同じチームの仲間なんだ。あまりそう言う事をいうものでは……むっ!?」
「レッドホーク」のそんな会話が聞こえてきた直後。
黄金一色の広間が、ぐにゃりと歪曲し始めた。
「あ゛ぁ!? 何だこれは!」
「すみません! 本当は思ってないですけど、なんか酔いそうです!」
「これは……まさか……」
全員が騒ぎ立てる中、冷静に状況を分析するノア。
そして、何かに気が付いたような表情を浮かべ、口を開く。
「皆ぁ! 気を付けて! これは空間魔法ッ──」
ノアが叫んだ直後。
俺の目前からジャスパー、「レッドホーク」、「ブラックファング」の姿が消えた。
「……飛ばされたか」
ノアが言いかけた通り、恐らく今のは空間魔法だ。
だが、これほどの人数……しかも「レッドホーク」や「ブラックファング」ほどの猛者たちを同時に飛ばすとは……誰がやったかは知らないが、相当な猛者である事は間違いなさそうだな。だが……
「隠れているつもりなんだろうが、魔力を完全に遮断できていないな」
背後に迫る僅かな魔力の気配に向けて、俺は雷の槍を放つ。恐らく潜伏魔法の類で姿を隠していたであろう人物が、僅かに雷の槍に触れてしまった事で姿を現した。
「やぁ、久しぶりだね。テッド」
「またお前か」
そこに現れたのは、かつて南ゴルゴン山で戦ったもう一人のテッドだった。
「他の連中をどこへやった」
「さぁ、取り敢えず指定の場所に転送させたけど、そこに何があるのかは僕は知らないよ。もしかしたら、他の七幻魔がそこで待機してるのかもね」
「そうか」
短くそう答えると、もう一人のテッドが小さく笑う。
「仲間が心配かい? 一緒に来たジャスパーとか、下で戦ってるステラちゃんとかさ」
「いや別に」
「ふふっだろうね。君にそんな心があるとは思えないしね」
「そうかもな。で、何の用だ?」
「何の用? あははは! 面白い事を言うね君は! 僕が君の前に現れる理由なんて、一つしかないじゃないか!」
大げさに笑って見せるテッドだったが、すぐに笑みを消し、その表情にはありったけの殺意だけが残る。
「当然、君を殺す為に決まってるじゃないか」
「またそれか。だが殺してどうする。魔王は俺を生け捕りにしたいらしいぞ」
「あぁ。そう言う意味だと、君を殺すのは僕の役目じゃないかもね。でも、例え直接殺せなくても、君が死よりも恐ろしい地獄に落ちると考えるだけで、ゾクゾクするよ……」
憎しみに染まった瞳で俺を見るテッド。
「気持ち良くなっているところ悪いが、残念ながらお前の妄想が現実になる事はない。何故なら……」
俺は一呼吸置いて、敢えてテッドの逆鱗に最も触れる言葉を口にした。
「所詮、お前は俺の劣化版でしかないからだ」
「……いいねぇ。どうせ何も知らずに喋ってるんだろうけど、わざわざ僕の殺意を最高点まで上げてくれるなんて、気が利くじゃないかテッドォ!!」
「あぁ、どうせ肝心の戦いの方は楽しめ無さそうだからな。お前をからかって遊んでいるのさ」
「お前だけは絶対に殺す……」
「やる気があって何よりだ。お前の気持ちに免じて少しだけ遊んでやる。まぁ安心しろ、以前のようにうっかり一撃で終わらせないように努力はする」
「どこまでも舐め腐ってんじゃねぇよォ!!」
テッドが獣のような咆哮を上げると同時に、禍々しい魔力がテッドの体を覆っていく。
以前とは比べ物にならないほど、濃密で強大な魔力だ。だが……
「たった3日でここまで激的に変わるとは考えにくいな。まさかお前……」
「クハハハハァ!! そう! 魔王様から魔力の一部を分けて貰ったのさぁ!」
「借り物の力を我が物顔で振りかざして、恥ずかしくないのか?」
「何とでも言うがいいさァ!! 僕は君を殺す為なら、もう手段は選ばないと決めたのさァ!!」
テッドの髪の色が白へ、肌は赤黒く変色していき、全身の筋肉が膨張していく。
「覚悟しろヨ冷徹人形がァ!! 血祭りに上げてやるからよォ!!」
テッドの姿がどんどん悪魔染みていくのに比例して、禍々しい魔力はさらに勢いを増し、テッドの全身を覆っていく。さらに、ステータス表記が人間のものから、モンスターや魔族のものへと変化していった。
すなわちそれは、テッドが人間である自分を捨てた事を意味していた。
「……がっかりだな」
俺は思わず、そう呟いてしまった。
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名称:テッド
ランク:SS
属性:闇、光
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