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44 魔王城突入


「さて。魔王軍も来たことだし、そろそろ配置に戻らないとな。君たちも今からギルドに戻してあげるよ」


 魔王軍が現れたというのに、一切慌てている様子の無いアルト。子供ながら大した奴だ。


「おいクソガキ。今は取り敢えず見逃してやるが、これが終わったら次はテメェだからな」


「はいはい。君がこの戦いの後に生き残ってたらね」


 野獣のような眼光で睨みつけるゼキラだったが、アルトはそれを軽く流し、手を軽く振るう。

 すると、俺とゼキラ、他の「ブラックファング」全員がちょうど入る大きさの魔法陣が展開される。


「何するつもりだクソガキ」


「じゃあ魔王城突入は任せたよ君たち。ジャンプ!」


 アルトがそう言った直後、視界の景色が一変する。

 どうやら瞬間移動で俺たちをギルド前に転送させたらしい。ギルド前には、魔王城突入チームの「レッドホーク」とジャスパーが既に揃っていた。しかし、これだけの瞬間移動をあの短い詠唱で発動するとは、アルトの魔法使いとしての技量は相当なものらしい。


「あら遅かったじゃない。アンタどこで何してたの?」


「ジャスパーか。いや、散歩してたら後ろのチンピラたちに絡まれてな」


「あ? 誰がチンピラだコラ、口の利き方に気を付けろよ」


 いや、その絡み方がもうチンピラそのものなんだが……また揉めるのは面倒なので、口にするのは止めておこう。


「さて。全員揃った事だし、作戦通り今から魔王城へ突入するぞ」


 スカーレットが俺たち全員に向けてそう言い放つ。作戦会議に参加していたメンツは全員無言で頷く。そんな中、「ブラックファング」の一人であるドレッドヘアの男がスカーレットに話しかける。


「おいねーちゃん。作戦って何の事だよ。俺たち聞かされてねーんだけど」


「当然だ、作戦会議は昨日行われたのだからな。というか、召集は昨日だった筈だが、お前たちは何故来なかったんだ?」


「は。そんなかったりぃもん出る訳ねぇだろ、バカかよ」


 何故か開き直った態度で吐き捨てるようにそう言ったドレッドヘアの男。すると、今度は他の「ブラックファング」たちが「レッドホーク」とジャスパーたちを舐め回すような目で見始める。


「つーか、魔王城突入チームって聞かされたからもっと男ばっかだと思ったけどよぉ、思ったより女多くね?」


「だなぁ、しかも全員スゲー可愛いし。こんな事ならレオのヤツ無理矢理連れてくりゃよかったな」


「いやいや、アイツ連れてきたら女全員取られちまうだろ。つーかもう今からまわさね?」


「あーでも、仕事せずに戻ったらギルドのジジイにギャーギャー言われちまうなぁ。仕方ねぇ、後のお楽しみって事にしとくかぁ! ギャハハ!」


 当の本人たちを前に、煙草を吸いながら呑気にそんな話をし始める「ブラックファング」。


「……マジ最低ぇ。何なのこいつら」


「……すみません、本当は思ってないですけど、絵に描いたようなクソ人間たちですね」


 「ブラックファング」に聞こえない程度の声量でそう呟くノアとリンリン。どうやら、この2人の中の「ブラックファング」への評価は最悪なものへとなってしまったらしい。


「ていうか、そんな話いいから上行かない?」


 いつまで経っても作戦が決行されない事に痺れを切らしたジャスパーが、遥か上空の魔王城を指差してそう言った。


「そうだな、あまりテッドをこの街に置いておくと、より多くのモンスターや魔族がポカリ街へ攻めてきてしまうかもしれん、急がねば」


 そう言って俺の方をちらっと見るスカーレット。「ブラックファング」の連中がそれに反応して、俺に近づいてくる。


「あーテメェがテッドかぁ。なんかあれだろ? お前のせいでこの街にアイツらが来ることになっちまったんだろ?」


「ぶはは! クソ迷惑じゃんお前、さっさと一人で死んで来いよ! ギャハハ!」


 俺を囲んでゲラゲラと笑い出す「ブラックファング」たち。特に感想が出てこなかった為、無言でそれを見つめていると、「ブラックファング」の一人が軽薄な笑みを浮かべながら俺の肩に腕を回してきた。


「なーんて冗談だっつの! レオのヤツにレベル上げして来いって言われてっからよぉ、魔王軍とはどの道戦わなきゃいけねーんだわ」


「そゆこと! だから安心して守られてろよ、テッドちゃん♪ ギャハハ!」


「そうだな。じゃあ、そろそろ行くか。ノア」


 いい加減、脱線させられるのは面倒なので、適当に流してノアに話しかける。


「はいはーい、今のくだらない話の間に準備終わったわぁー」


 足元へ目を向けると、ノアを中心に大きな魔法陣が展開されていた。それを見た「ブラックファング」の一人が口を開く。


「あーなるほどな。瞬間移動で魔王城の中へ一気に移動しようってか。やるじゃねぇかお嬢ちゃん」


 そう称賛する「ブラックファング」だったが、ノアは首を横に振る。


「いやぁそれが……魔王城の周辺には強力な結界が張ってあるから、瞬間移動を使っても中へ入る事はできないんだよねぇ。だからぁ……」


 そう言って、一呼吸置いたノアは両腕を軽く振るった。


 直後。

 俺たちはノアの魔法によって、魔王城の目前へと飛ばされる。

 つまり今俺たちがいるのは、地上から数百メートル離れた空の上という事だ。


「じゃあ手筈通り、結界の破壊よろしくぅー」


 ノアが再び腕を軽く振るうと、俺たち全員の体がノアの魔力によって覆われていく。

 どうやら、ノアが浮遊魔法を使って下に落ちないようにしてくれたらしい。


「うっはぁ! 一瞬マジで死ぬかと思ったぁ!」


「すっげぇ空浮いてんぞ俺たち! 魔法使いってのは便利だなぁオイ! ギャハハ!」


「全く……緊張感がまるでないな。完全にゲーム感覚だ」


「すみません! 本当はそんな事思ってないんですけど、私高い所が苦手なのでさっさと結界をぶち破って魔王城に入りましょう!」


 リンリンのその一言を皮切りに、俺以外の全員がそれぞれ攻撃準備を始めていく。


「ギャッハァ! じゃあアレ最初にぶっ壊した奴の勝ちって事でェ!」


「雑魚はすっこんでろ! 結界は俺がぶち壊す!」


 巨大な手甲鉤を装備したゼキラと、サーベルや槍、棍棒といった様々な武器を取り出した他の「ブラックファング」は勢いよく結界へと向かっていく。


「全く! 折角人数がいるのだから全員でやればいいだろう!」


「すみません! 本当はそんな事思ってないんですけど、あんな野蛮な人たちに私たちの言葉なんて通じないと思います!」


 剣身に巨大な炎を纏わせたスカーレットと、熱気のような不可視の闘気を全身から放つリンリンも、同様に結界へと突き進んでいく。そして、紅蓮の炎を脚に纏ったジャスパーも凄まじい速度でこれを追う。

 そして、結界の前に辿り着いた猛者全員の技が、ほぼ同時に放たれた。


恐竜の鉤爪(ダイナソークロウ)!」


「「盗賊襲撃(バンデッドアタック)!!」」


「奥義・ドラグアドラヌス!」


万拳ばんけん・ケルベロストライク!」


地獄の一撃(ヘルズカノン)!」


 凄まじい威力の攻撃が怒涛の勢いで結界に叩き込まれる。

 結界に激突した事で発生した衝撃波が、辺り一帯の雲を吹き飛ばしていく。

 しかし……


「あ゛ぁ!?」


「んだコレ……クソかてェぞ!」


 魔王城を包む結界の強度は凄まじく、猛者たちの攻撃を以てしても、ヒビ一つとして入れる事はできなかった。


「怯むな! 押し込め!」


 鼓舞させるようにそう叫ぶスカーレット。それに合わせるように、全員が再び技を放っていく。


「……面倒だな」


 このまま繰り返していけば、いつかは結界を破壊できるかもしれないが、生憎とそこまで待てるほど気は長くない。俺は黒い大剣を召喚し、結界目掛けて素早く振る。

 

 直後。

 魔王城を包む巨大な結界が、果物のように真っ二つに切断された。


「うおぉ! なんかよく分からねぇけど結界ぶっ壊れたぞ!」


「切り口があるって事は……俺のサーベルのおかげだなぁ!」


「あ゛ぁ!? ざけんなコラ。俺の恐竜の鉤爪(ダイナソークロウ)でぶっ潰したに決まってんだろうが!」


「いや、私のドラグアドラヌスが効いたに違いないな」


「すみません! なんでスカーレットさんまで張り合ってるんですか!? まぁ結界を破壊したのは私のパンチのおかげで間違いないでしょうけどね! 本当はそんな事思ってないですけど!」


 破壊された結界を見て、連中が手柄を取り合って張り合い出す。

 くだらない事この上ないな。


「まさか一撃でこの結界を破壊するなんて……信じられない」


 そんな中、後ろにいるノアが切断された結界と俺を交互に見ながらそう呟いた。俺に話しかけているように取れなくも無いが、いちいち絡むのも面倒なので、無視して魔王城を乗せた島へとそのまま降り立つ。


「おいテッドちゃんよぉ! テメェ何もしてねぇクセに抜け駆けしてんじゃねぇぞコラ!」


「全く……協調性の無いメンバーが集まったと思っていたが、一番マイペースなのはアイツなのかもしれないな」


「すみません! 本当は思ってないですけど、あの人何もしてないのによくあんなドヤ顔で先に進めますね!」


 後ろから聞こえてくる雑音を無視して先に進んでいると、ジャスパーが急いで俺の隣へとやって来た。


「あはは。誰もアンタがあの結界を壊したなんて思ってないわね」


「くだらん。誰が壊そうが先に進めれば何でもいい」


「相変わらず冷めてるわねー。今の結界、多分魔王が作ったヤツだから相当頑丈な筈なんだけど……アンタにとっては紙切れも同然だったみたいね」


「知らん。興味が無い」


「……正直な話さぁ、余所のパーティ2つと魔法騎士団呼んだくらいじゃ、魔王軍相手に勝ち目なんて無いと思ってたけど、アンタがいればマジで魔王軍壊滅も夢じゃないかもね」


「どうだろうな。そんな事より自分の心配をしたらどうだ。魔王軍を裏切ったお前もまた、魔王のターゲットであることを忘れたのか?」


「うわ、嫌な事思い出させないでよ。じゃあ……私がピンチになったら、アンタ守ってよね」


 そう言って肩を寄せてくるジャスパーだったが、その体は少し震えていた。

 口調は普段と変わらないが、きっと内心は不安で一杯なのだろう。

 俺は震えるジャスパーの肩にそっと触れて……


「邪魔だコバンザメ。自分の身は自分で守れ」


 そのまま軽く突き飛ばした。


「うわ最低。まぁアンタならそう言うと思ってたけど。というか……ぷふっ! コバンザメって! あはは!」


 微塵も面白くない所で笑い出すジャスパー。

 魔法学校に行った時もそうだったが、妙な所でツボる奴だな。まぁどうでもいいが。


 そんな弛緩しきった会話を繰り広げる俺たちだったが、この時はまだ知らなかった。


 今回の戦いで、この魔王城突入チームから多くの死者が出るという事を。


 

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