42 作戦会議
「作戦ってなんだよ、エレナちゃん。テッドを生け贄にするのか? それなら俺も賛成だぜ」
飲んだくれの一人が爽やかな笑顔でそう言った。
こいつらに人間性なんてものは求めちゃいないが、よくもまぁ屈託のない笑顔でそんなクズ発言ができたものだな……と、素直に感心した。
「テッドさんを差し出すことはできません。というより、そんな事をしても無駄といった方が正しいでしょうか」
「ど、どういうことだよ」
「テッドさんを差し出そうが、どこか別の場所へ匿おうが、ポカリ街への侵攻を止める事は無い……と、昨日魔王が言っていたではありませんか」
「わりいなエレナちゃん。魔王が話してる途中で枝豆合戦が盛り上がっちまったから、その辺は聞いてなかったわ」
どうやらコイツにとっては、俺や街の危機よりも目の前の枝豆合戦の方が比重が大きかったらしい。
ちなみに枝豆合戦が何かは全く知らないが、具体的に知りたいとは全く思わない為、特に言及はしない。
「まぁとにかく。明日、魔王軍がこの街に攻めてくることはどうあっても避けられません。そこで、チームを2つに分けたいと思います」
「チームだと?」
「はい。1つはポカリ街防衛チーム、もう一つは魔王城突入チームです」
スムーズに話を進めていくエレナ。
ポカリ街の防衛は分かるが、魔王城へ突入だと? 次の話へ行く前に、俺は疑問を口にすることにした。
「魔王城へ突入というのはどういう事だ? 相手の居場所が割れてるなら、わざわざ明日まで待つ必要はないんじゃないか?」
そんな俺の一言に何故か場が静まり返る。
「……君は何も知らないんだね」
どこかバカにするようにそう言ったのは、「ホワイトパール」のアルト。
確かに俺は魔王軍についてあまり知らないが、年下の子供にそんな事を言われると少し癪だな。
「すみません、テッドさんは世間知らずなんです!」
身内の恥を謝罪するかのように、ステラが申し訳なさそうにそう言った。
確かに俺は世間知らずかもしれないが、コイツにだけは死んでも言われたくないな。
「魔王軍は今回のように街や国へと侵攻してくるとき、必ず魔王城と共に現れるのさ」
ざっくりとそう説明するアルト。
「まるで城が動くかのような言い方だな。なんだ、空でも飛んで来るのか?」
「そうだよ。アレは城というより飛行要塞に近いかもね」
冗談で言ったつもりだったが、アルトは一切否定せずにそう返した。
「そして残念ながら、魔王城が……魔王が普段どこにいるのかは一切分かっていない。恐らくなんらかの魔法で、姿や魔力を完全に消し去っているんだろうね。つまり魔王を倒すには、奴が僕たちの目の前に現れるのを待つしかないのさ」
「なるほどな。それで今回2チームに分かれるって訳か」
俺は改めて視線をエレナに向ける。
「そうです。今回の魔王軍襲撃は、ポカリ街のピンチであると同時に、魔王を倒す絶好のチャンスでもある訳です」
そう言って、エレナは改めてポカリ街の見取り図へと目を向ける。
「まずはポカリ街防衛チームには、『ホワイトパール』の皆さん、ステラさん、そして『魔法騎士団』の皆さんに就いていただきます。多くの低級~中級モンスターとの持久戦が予想されますので、強化や回復魔法に長けた方々を中心に選ばせていただきました」
「『魔法騎士団』?」
聞き慣れない単語の登場に、思わずまた疑問を口にしてしまう俺。
周囲からの「お前本当に何も知らないんだな」「いちいち話の腰を折るんじゃねぇよ」という視線を感じるが、特に気にしない。
「魔法都市所属の騎士団です。今回の魔王軍襲撃に向けて、特別にお力を貸して下さるそうです。出発準備に少し時間がかかっているそうなので、到着は今晩になってしまうそうですが」
「そんな連中がいるのか……。もしかして、ポカリ街の住人も全員魔法都市に避難させたのか?」
「その通りです」
魔法都市には、対魔族、モンスター用の結界が張られている。確かに住人の避難にはうってつけの場所だな。
「さて」
こほん、と咳ばらいをして、エレナは話を続ける。
「続いて魔王城突入チームには、『レッドホーク』の皆さん。本日はいらっしゃいませんが『ブラックファング』の皆さん……そして、ジャスパーさんとテッドさんになります。相手にする数は恐らく防衛チームよりも多くはありませんが、幹部クラスの魔族との戦闘が予想されますので、こちらは個人の戦闘力重視で選ばせていただきました」
「私たちは突入チームか。よしノア、リンリン。一緒に頑張ろう!」
「すみません! 本当は思ってないんですけど、魔王軍と戦うなんて……なんだか緊張して来ました!」
「この中で魔法使いは唯一私だけ……ってことは、私は皆のサポートかぁ。なんかクセのある人ばっかりだからめんどくさそ~」
仲間との共闘に燃える者、強大な相手に怯える者、今後の事を考えてやる気を失う者……同じパーティでここまで反応が違うとは、いかにも個人主義の「レッドホーク」らしい。そんな事を考えていると、いつの間にか隣にジャスパーが立っていた。
「なんだ? というか、ここまでやけに大人しかったなお前」
「そりゃそうでしょ。不用意に目立って、私が元七幻魔だってバレたら面倒でしょ。というか、アンタこっちのチームなのね。魔王さ……魔王の目的はアンタなんだから、てっきり防衛チームに守ってもらうんだと思ってたけど」
「向こうの目的は俺だが、こっちの目的はポカリ街を守る事だからな。被害を最小限に抑える為に、俺をポカリ街へ置いておくよりは魔王城へ追いやった方がいい」
「確かにそうね。アンタの確保には間違いなく七幻魔が動くでしょうから」
特にお互い向き合うことなく、ジャスパーとそんな会話をしていると、飲んだくれの一人が突然手を思い切り上げて、エレナに何かを訴え始めた。
「エレナちゃん、エレナちゃん! 俺たちはどっちのチームなんだ?」
「貴方たちは……まぁはい。どっちでもいいですよ」
投げやりにそう答えるエレナ。
今の反応を見るに、エレナの奴、完全にこいつらの事忘れてたな。
「エレナちゃん……それってつまり……」
あまりにも淡泊なエレナの反応に、飲んだくれたちは思わず意気消沈してしまう。まぁ当然か。直接言葉にはしていないが、戦力としてまるで期待していないと言われているようなものだからな。年中ハイテンションな飲んだくれたちだが、これは流石に冒険者としてのプライドが……
「それってつまり、俺たちはどっちのチームでも対応できる、オールマイティなジョーカー的な存在って事か!?」
「全く……チームのエースってのは辛いよなぁ。だってよぉ、常に誰かの期待に答えなきゃいけないんだからなぁ!」
「「イエエエエ!! 踊れパリピポォ! フオォォォォォォッ!!」」
なんておめでたい連中なんだろうか。
プライド以前に、傷付けられている事にすら気が付かないなんて。
「まぁはい、じゃあ頑張ってくださいね。では、ポカリ街防衛チームの皆さんは……」
そう言って、ポカリ街の見取り図を見ながら防衛チームと細かい作戦について話し始めたエレナ。
かなりの塩対応だが、飲んだくれたちにそんなエレナの心境など理解できるはずもなく、全員酒を片手に裸で踊り始めた。
「……大丈夫なのかこいつら」
味方ってのは増えればいいってものじゃないんだな……と、つくづくそう思った。
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