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39 再会


「……という訳で、サルタナは『レッドホーク』を抜ける事になった。話し合いをする間もなく、な……」


 悲しげな瞳でそう語るスカーレット。同じく「レッドホーク」のメンバーであるノアとリンリンも心中複雑な様子。ここまで話を聞いて、俺としても色々思うところはあるが、まぁ一言で表すなら……


「残念だったな」


 これに尽きる。


「……アンタ、いくらなんでも無関心すぎるでしょ」


 あまりにも俺の反応が淡泊だったせいか、ジャスパーからそんな指摘を受ける。だが、ジャスパーは少し勘違いをしている。俺が興味無いのは残された「レッドホーク」の心境であって、情報自体は中々有益なものだった。サルタナのレベル、ステータスが俺と同じように詳細不明なものに変化してしまった事。そして、何故かは分からないが、恐らくサルタナのモンスター化(あるいは魔族化)が進んでいる事。現時点では謎が多いものの、サルタナを捉えて調べ上げれば、俺の正体に関する手掛かりが掴めるかもしれないな。

 そんな事を考えていると、スカーレットが少し困ったような笑みを浮かべる。


「まぁそうだよな。余所のパーティのこんな話を聞かされたところで、興味が無いのは当然の話さ」


「あぁ当然だな」


「うわぁ……。本当は思ってないですけど、この人なんか嫌な人ですね!」


「何を言ってる。アレを見てみろ」


 俺は首を軽く動かし、チャイナ女の視線を少し離れた飲んだくれたちのテーブルへと誘導する。


「Hey! 盛り上がってっかお前らぁ! まだまだ歌うぞぉ!!」


「「Yeah! フオォォォォォォォォォォォォアッ!!」」


「あいつらなんて、お前らが話してる間ずっとカラオケしてたからな」


「な、なんというか……ここのギルドは相変わらずだな。『レッドホーク』を結成した時から何も変わっていない……」


 少し……いや、かなりドン引きした様子でスカーレットがそう答える。


「ところで、本当は興味無いんですけど、貴方名前はなんていうんですか?」


「『バイオレットリーパー』のテッドだ。興味無いなら聞くなよ」


「すまない、リンリンは少し変わった子でな……ん、テッドだと? もしかしてお前が魔王の言っていた……」


「そうだ。今回は俺のせいでこの街を危険に晒してしまって、非常に申し訳ない」


 形だけの謝罪をする俺。そんな俺を見てジャスパーが「ホント、よくそんな思ってもない事言えるわねアンタ……」とでも言いたげな視線を向けてきた。真面目に相手するのも面倒なので、周りから見えないように取り敢えず中指を立てておく。それを見たジャスパーは少し呆れた表情を浮かべ、ギルドから出て行ってしまった。気を悪くしたのかと思ったが、まぁ単純にここにいるのに飽きただけだろう……と、適当に結論付けた。そんなジャスパーを眺めていると、スカーレットが少し歯切れ悪そうに話し始める。


「……まぁどうしてお前が魔王に狙われているかは知らないが、確かなのは、別にお前は何も悪くない……という事だけだな。悪いのは全て魔王のヤツさ、お前が責任を感じる必要はない」


「お気遣いどうも」


 まぁ、言われなくてもそんなもの微塵も感じちゃいないがな。


「それより……」


 すると、スカーレットがまじまじと俺の顔を見始めた。


「なんだ?」


「……やっぱり似ているな。同じ名前で風貌まで似ているなんて……。雰囲気や声色は全く違うが、かといって全くの赤の他人とはどうも思えないな……」


 ぶつぶつとそう呟くスカーレット。まぁ当然か。以前の俺と今の俺……外見で変わったところといえば、髪色と目の色、あとは肌が異常に白くなったくらいで、顔の造形は全く変わらないのだから、そう思っても何も不思議じゃない。だが、こいつらの中で「テッド」は既に死んだ事になっている。当然、わざわざ事情を説明するのは面倒なので、ここは何も知らないフリをする。


「何の話だ。一体誰と比べてる」


「あ、いやすまない。昔私たちのパーティにいた男とお前があまりにも似ていたのでな。不快な思いをさせたのなら謝罪しよう」


「謝らなくていい。別にどうも思わん」


「……私、ちょっと風に当たってきますね」


 すると、これまで珍しく大人しくしていたステラが、小さな声でそう言い残し、ゆったりとした足取りでギルドから出て行ってしまった。一瞬、体調でも優れないのかと思ったが、どうやらそうではなさそうだな。ステラは、俺が「レッドホーク」から追放された経緯を知っている。そんな俺が何事も無かったかのように「レッドホーク」の連中と話しているのが気に入らなかったのだろう。しかし、自分に無関係な話であそこまで機嫌を悪くできるなんて、感受性が豊かな奴だな……なんて、他人事のような感想が脳裏に浮かんだ。


「はぁ……何だか疲れたな。私たちも少し飲んでいこうか」


「賛成です! 本当は思ってないんですけど、久々にお酒飲みたかったんですよ!」


「ノアはどうする?」


「私? 私はー……」


 スカーレットの提案に迷う素振りを見せるノアと、一瞬だけ目が合う。


「……ちょっと散歩してから参加しようかなぁ。久しぶりにポカリ街に帰ってきたしね」


「確かにそうだな。なら、リフレッシュしてくるといい。きっと疲れが溜まっているだろうからな」


「そうするー」


 のんびりとした口調でそう言い残し、ギルドから出ていくノア。俺はそれを少し遅れて追いかける事にした。




◇◆◇




「……何コソコソつけてきてんのぉ? 貴方ストーカー?」


 外に出て僅か1分未満。

 ノアの後ろを少し遅れて歩いていたが、どうやらバレてしまったらしい。


「ストーカーとは聞き捨てならないな。視線で合図してきたのはお前の方だろう」


「ちゃんと気が付いてたんだ。思ったよりは鈍感じゃないみたいだねぇ」


「どうも。で?」


 適当に流し、さっさと用件を話すように促す俺。ノアは視線を少し夜空に向けると、ゆっくりと口を開いた。


「貴方、テッドでしょ」


「そうだ。さっき名乗っただろ?」


「そうじゃなくて、私たちがパーティから追放した方のテッド。話進まないから猿芝居は止めてくれる?」


 どうやらノアには、俺の正体がバレていたらしい。

 なら話は早い。俺もコイツには聞きたい事があるしな。


「あぁそうだ。久しぶりだな、ノア」


「貴方、なんで生きてるのぉ? あの時、ダンジョンの隠し部屋で死んだ筈じゃ……。雰囲気というか性格というか、まるで別人だけどぉ……」


「その質問に答える前に一ついいか?」


「なぁに?」


「お前、魔法学校の生徒だったらしいな」


「なんで貴方が知って……。あぁー魔法都市に行ったのかぁ……」


 どこか上の空で気の抜けたような返事をするノア。


「まぁな。そこで校長を名乗る爺さんから色々見せてもらった」


「校長先生……懐かしいなぁ。それで?」


「俺は記憶が無いから覚えてないんだが……お前、俺と付き合ってたって本当か?」


 あの時。

 校長から見せてもらった卒業アルバム……俺の隣に写っていた少女の姿を思い浮かべながら、俺はそう口にした。



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